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第三章
193話目
しおりを挟む今日は領主の館で公爵夫妻と領主夫妻と待ち合わせの日だ。
朝も早くからスーツに身を包み長谷川さんと共に転移門を使用し相良さんの店へ、そこから領主が用意した馬車を使用し領主の館へと移動した。
人目も気にしない廃村から街へ、平民が行き来する街から領主の館へ、使用人が沢山いる領主の館に着くといよいよ実感が沸いてきて緊張が高まった。
「ガチガチだな」
今は長谷川さんと共に応接室で待機している。
メイドさんに入れてもらったお茶も緊張で味がしない。
「だって元王様ですよ?! そりゃ緊張しますって!!」
暴君だったらどうしよう、無礼者って言われて切られたりしないよね。 ……切られても戻るだけだけど。 いやいやいや、痛いのには変わりないよ!!
よく分からない妄想をして落ち着かないでいると長谷川さんが笑ってた。
「すぐ緊張溶けるって、大丈夫だ」
そんな感じで談笑していたらドアをノックする音が聞こえた。
ソファーから立ち上がり出迎える。 いよいよ対面だ。
「待たせたな」
最初に入ってきたのは領主のアルフォート様だ、次は背が高い人物、オリヴィア様ではなさそうだ。
その人影が見えたので、公爵様か? と思い失礼のないように頭を下げて出迎える。
しばらく人が入ってくる足音が聞こえる。
最後にドアが閉まる音が聞こえた。
「頭を上げてくれ」
「かしこまりました」
頭を上げると見知らぬ人物が3人居た、男性が1人に女性が2人。
服装は男性はワイシャツのようなものにスラックス、女性はシンプルかつ上品な、それでいて体系も綺麗に見える淡い色合いのワンピースにショールと言うような姿だ。
左からアルフォート様、イーノス様、見知らぬ男性、見知らぬ女性2人、最後にオリヴィア様と言う並びだ。
イーノス様も居て見知った顔に少しだけホッとした。
イーノス様の隣のこの男性が公爵様?
男性は銀に近い髪色をしており短髪の美丈夫、年のころは40代? 思ったよりも若い。 と言うかイーノス様より全然若い。 春子さんの話では公爵様って60代じゃなかったっけ? イーノス様の方が60代に見えるけどな? 単なる若作り?
頭の中がハテナマークで埋まる。
隣の女性は失礼かもしれないが50代から60代に見える年相応の美しい女性だ。
銀色にも見える艶のある髪を結いあげており、瞳は少し釣り目、美人で無表情な分、厳しそうな印象だ。
その隣は私と同じくスーツを身にまとった女性、年のころは20代くらいかな?
黒髪で後ろに結い上げており、眼鏡をかけている。 眼鏡の印象が強いのか真面目そうな印象だ。
その隣で微笑んでいるオリヴィア様に少しだけ心を和ませた。
「まず紹介だな、こちらがローレンツ=ベルゲマン公爵」
アルフォート様が掌を上にして紹介したのはイーノス様、イーノス様だ。
……聞き間違い? 隣の人じゃなく? イーノス様? イーノス様が公爵? へ?
「……ふっ」
私の頭が処理落ちしているさなか向かい側に立つ人たちは笑いに耐えている。
隣の女性もかすかに口元を上げた。 口角が上がると柔らかい印象になるなと現実逃避しながら思った。
……え? 私騙されてた?
「……コホンッ、失礼。 私がローレンツ=ベルゲマンだ。 今日はよろしく頼む」
「……くっ、コホンッ。 続いて隣の女性がサフィリア=ベルゲマン公爵夫人だ」
あれ? ベルゲマン公爵の隣の男性の紹介は?
1人飛ばしてサフィリア様の紹介に移ってしまった事に疑問に思ったが……
「あなたが桜さんね、主人から噂は聞いております。 今日はよろしく頼みます」
そう言って美しく優雅なカーテシーを披露して下さった。 先ほど思った疑問など吹き飛び思わず見惚れてしまう。
滅相もない!! 私なんかに勿体ないです!!
「その隣が公爵夫人のメイドで渡り人の佐藤瑠璃だ」
瑠璃さんは言葉もなく綺麗にお辞儀をした。
顔を上げると眼鏡越しに目が合った気がした。
……目が赤い?
まるでさっきまで泣いていたかのように目が赤かった。
「このお方がタイタス=フルフォード=ラダトース国王陛下であらせられる」
「……は? っ失礼しました」
瑠璃さんに気を取られていたら間抜けな声が出てしまった。
慌てて手で口を覆う、やらかした!!
何?! 今国王陛下って言った?! 今日来るの公爵夫妻と従者の方じゃなかったの!!
やらかしてしまったことに顔を伏せ自然と身震いしてしまう。
「ははっ、よいよい、気にするな」
そう言われ恐る恐る顔を上げる。
……言われてみれば確かに公爵夫妻に似ている。 髪色と瞳は夫人から、全体的なバランスと言うか雰囲気は公爵に似ている。
「こちらが渡り人の橋沼桜です」
アルフォート様から紹介され頭を下げつつお詫びを述べた。
「ご紹介にあずかりました橋沼桜と申します、先ほどのご無礼お詫び申し上げます」
「では早速あちらへ向かいますか、桜頼む」
「かしこまりました」
アルフォート様から促されお取り寄せ魔法を使用しようとした。
「……っ!! 私やっぱり行きたくありません!!」
!?
そんな声が公爵夫人のメイド、瑠璃さんから上がった。
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