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第三章
192話目
しおりを挟む約束の日まで1週間ほど。
ベルゲマン公爵は王都へ戻り私は領内の自宅へと戻った。
いつものように執務室にて滞った書類に目を通す。
目を通しながらぼんやりと考え込んでしまった。
あちらの世界は魅惑的だった。
最初は今後の動静を確認すべく公爵の様子を伺うつもりだった。
……いつの間にか公爵と共に目新しい物に夢中になってしまっていた。
何たる失態だ……。
まず最初に赴いた日本家屋の宿、玄関入ってすぐに土が見えこちらの世界の平民の建屋を連想した。
そこから靴を脱いで部屋に入る、わざわざ靴を脱ぐことにも驚いたし、板張りだけではなく〝畳〟 と呼ばれる草を編んだものが敷き詰められていたことにも驚いた。
聞けば日本の伝統家屋と言う。
つまりは昔から平民の家でもこの畳が使われてきたと言う事だ。
しかもこの畳と言うものは湿気を吸収するらしい。
こんな手間のかかる物が平民にも……。
そして部屋は〝襖〟 と言うもので仕切られただけの部屋。
音は駄々漏れ、プライバシーも減ったくれもない、……なんて思ったがよくよく思うと実に考えられた作りだ。
この扉は取り外しが可能なのだ、つまりすべての襖を取り払うと大きな部屋としても使える。
変動式の部屋は実用性に優れていた。
更には〝炬燵〟 と呼ばれる低いテーブル。
……あれはなんだ。 足を入れたら眠気に襲われ出れなくなったぞ。 見れば公爵もいたく気に入ったようだった。
こちらの世界では地べたに座るなど……礼儀知らずと揶揄されてもおかしくないというのに。
実に不思議な文化だった。
……
……あー……でも……居心地よかったなぁ。
机に突っ伏して感触を思い出す。
こちらとは全然違う文化、あれが初見だというのに炬燵のことが恋しくてしょうがない。
まるで昔から共にあったよう……。
……職人に作れないか命じてみるか。
ペンを走らせ書類の不備に書き込みを入れる。
そんなことを考えていたら執務室のドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します」
書類を取りに行ったイネスが入室してきた。
抱えた書類はそれなりに多く、一直線に机の前まで来るとドサリと置かれた。
「王城から書簡が届いてます」
「王城から……?」
一通の手紙が差し出される。
それを受け取り宛名を確認すると自分の名前が書かれおり、裏面を見れば確かに王家の封蝋がなされていた。
……約束の期日まで間もなくだというのに。
疑問を抱きつつペーパーナイフで封を開けると中には便箋が一枚入っていた。
……辺境伯以上の当主の呼び出し? 日付は2週間後、約束の期日の1週間後か。
公爵から話を聞いたか……にしてもずいぶんと急だな。
とは思ったが何らかの決断が下されたんだろうと今後の動向に思いをはせた。
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