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第三章
170話目
しおりを挟む本日の宿は今まで泊まった宿と趣が少々変わった宿でした。
まず玄関が広く、なぜか玄関にテーブルが置かれておりました。
近寄ってみますと、腰位の高さの長方形のテーブルなんですが、中央部分が凹んでおりまして、砂があります。 どういう事でしょう?
桜さんは忙しそうなので長谷川に問うと、囲炉裏という回答がありました。 ……まだまだ勉強不足ですね。
ジロジロとテーブルを眺めていると、内装を値踏みしていたことに気づき、不躾さを恥じて、今回はアルフォートへの説明もあるんだからと頭を切り替えて室内に上がることにした。
何度かこちらに来れば手馴れた手つきになり、靴を脱ぎ端へ寄せた。
私が一人で夢中になっている間、桜さんがベルゲマン公爵へ靴の着脱や建物内の説明を行い、長谷川がアルフォートへ説明を行う。
私は先に室内に上がり様子を眺めました。
今回の宿は今までの開放的な宿とは違い、木のぬくもり溢れる落ち着いた雰囲気の宿です。
部屋の真ん中にテーブルとソファーが置かれております。
入って左手には、……確か障子と呼ばれるものでしたわね、があり、障子を隔てた奥には狭い通路? かしら? があります。 ドアノブが無いけれどあれも横に開くのかしら? 大きい窓ですね。
何度こちらに来てもこの瞬間がとても楽しいです。
その宿その宿一つ一つにこだわりがあり、美しさがあり、また来たくなります。
でも他にも沢山の新しい場所が桜さんの魔法には沢山詰まってて、一つの宿に時間をかけすぎたら他の宿に行けなくなってしまいます。 ……あぁもう、時間が足りないわ。
靴からスリッパへと履き替えを済ませ、桜さんが室内を説明してます。
その様子を眺めながら夫であるアルフォートに静かに近寄りました。
「……せめて一言いただけたら心構えもできましたのに」
「オリヴィアでも驚くことがあるんだな? ……すまん、急だったものでな」
「俺もビックリしたぞ。 というか俺にまで秘密にすんな」
「もう……急ぎでこそ根回しは大事ですよ」
「以後気を付ける」
私と長谷川に責められたアルフォートは苦笑しました。
というのも、今回馬車から降りてきたのはベルゲマン公爵の従者ではなくご本人でした。
桜さんに挨拶した時点で従者の名前を語っていたので、内心驚きながらも、私たちは何も知らないふりをしました。
アルフォートから話を聞くと入れ替わりの発案者はどうやらベルゲマン公爵本人らしいです。
少しでも桜さん本人の気質、と言いますか人となりを知りたいんでしょうね。
それに付き合わされる桜さんは大変ね、とその後の苦労を思い苦笑しました。
「こちらの照明はこちらのリモコンで操作が可能です」
「リモコン?」
「はい、えー……遠隔操作の機械と言いますか……」
「機械?」
「はい、えーっと……魔道具のようなものです」
「これは魔力で操作しているのでしょうか?」
「いいえ、電気で……」
「電気?」
「はい、何と言いますか……そうだ。 冬場にドアノブを触るとバチッと来たことありませんか?」
「あります」
「それが電気です」
「ふむ?」
そう言ってリモコンをひっくり返しカバーを取り電池を見せる。
「こちらが電池と言いまして、あちらでいう魔道具の魔石の代わりですね。 ここに電気が貯められておりまして、それを糧に動きます」
「ではこちらの道具は魔力を使用しないんですか?」
「そうです」
そんなことが可能なのか……。 とイーノス様が驚いている。
にしてもこっちの道具や部屋とかの説明って難しいな。
イーノス様も、オリヴィア様がこちらに来た時と同じように一つ一つに質問を投げかけてくる。
そりゃもうぐいぐい聞いてくる。 その勢いに私はタジタジだ。
というか私はイーノス様につきっきりでいいのかな? 領主……アルフォート様も宿って初めてだよね? そっちの説明はいいのかな? とちらりとそちらの様子を伺う。
アルフォート様には長谷川さんとオリヴィア様が教えてるようだ。 なら私はイーノス様の相手だけでよさそうだね。
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