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第三章
157話目
しおりを挟む商人ギルドの一室
領主が王都へ行く前日
「領主からの呼び出しは……桜さんのこと?」
「はい」
「何を聞かれたの?」
「ちょっとばかしの確認事項ですよ」
領主から呼び出しの手紙を受け取り領主邸へ登城すれば領主が待ち構えていた。
季節の挨拶に伺う時はいつも自分が先に部屋に通され、領主は後から部屋に入って来ていた。 こんな最初から待ち構えられた事などない。
その事態に少々面食らいつつ平静を装う。
「お待たせして申し訳ございません」
「いや……謝罪はいい、そこに座れ」
「かしこまりました」
領主の対面のソファーに腰を下ろし領主を見れば心情を読ませないような作った笑顔を張り付けている。
メイドがお茶を運び入れテーブルの上に置くと扉の向こうへ退出した。
「……さて、最近の商業ギルドはどうだ? 」
「報告書の通りでして……変わったものといえば新しいお酒の開発に取り組んでおります」
「そうか」
領主はそう言うとテーブルの上のお茶に口をつけた。
「……では、橋沼桜の件を聞こうか」
「橋沼桜……ですか?」
「オーフェンが入れ込んでいる理由はなんだ? あちらの世界の品物に遂に魅せられたか?」
領主から疑惑の篭った視線が投げかけられる。
桜さんの便利な魔法のせいで私に疑いがかかったのか。
……まぁ……確かに他の渡り人に比べてお節介を焼いてますし、領主としては疑問に思うのも確か、桜さんとあちらに行って直接問い質されるまで間が開かなかったところを見ると調べる時間もないみたいですね。
「アルフォート様はどう思いましたか?」
「私が質問してるんだが?」
「そうですね」
「……」
「……」
「……私は王の判断に任せる」
「そうですか、……私は私の妻の居た世界に行けて、食べて育った物を一緒に味わえて、見て来たものを共に見れて、嬉しそうに笑う妻が見れて嬉しかった。 連れ添ってもう長い時を過ごして来ました。 私が育った物や食べ物、懐かしい場所、色んなところに行きました。 妻はそれは喜んでくれましたが私は何がそんなに嬉しいのかわかりませんでした。 ……でも今回妻の暮らして居た国に行ってその気持ちがなんとなく……分かりました」
それは桜さんが居なければ、こちらに来なければ分からなかった。
「私はそれに感謝してます。 この歳になってこんな気持ちになるなんて思ってもみませんでした」
「では、それは感謝ゆえ……とのことか?」
「それもあります」
それもあるが……
「あの魔法はとても恐ろしい魔法です」
私がそう言い領主の目を見据える。
「あの魔法一つで国に混乱をきたす事が可能です」
あの魔法欲しさに人が振り回され物価が高騰する、貴族同士が争いそれに渡り人が加わる、更には国同士で争う。
「私は正直あの魔法が怖いです。 それに本人が無自覚なところも」
私に言葉に喉元が動いたのが見えた。
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