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第三章
140話目
しおりを挟む領主の館にて
「………………」
あの二人が帰宅しこの応接間には長谷川と私のみ。
盗聴防止の魔道具を起動して二人してソファーに崩れ落ち溜息を吐く。
「「疲れた……」」
そしてジロリと長谷川を見やる。
「……なんで監視がバレてるんだ?」
「……俺が知るわけないだろう」
長谷川が橋沼桜に付けた監視は三人。
「何人バレたのか至急確認、其奴らは約束通り護衛にしろ。 追加の監視についてはそれが判別し終えてからだ」
「分かった」
監視についてはこんなもんか。 まぁ……実際にあちらに行けるのが分かったから他の手に渡る前に橋沼桜を手の内に入れることが出来たということで納得しておこう。
「にしても……情報が多過ぎる」
手で顔を覆い光を遮断し考えに集中する。
次は何だ? あぁ……あれだ。
「魔力は回復したのか?」
「おお、そうだった。 まてよ……」
手を退かしソファーの背もたれに背を預け向かい合わせに座る長谷川を見やる。 上の空のように見える表情は私には見えない何かを見ている時のもので、それで自分の魔力を確認しているらしい。
「回復……してる。 回復してるぞ!!」
「そうか……そうか」
興奮する長谷川を見て王への報告内容を考える。 なにせ今回の件は私の手に余る。 王へ判断を仰がなければならない案件だ。 ……まずは今回使用したカタログギフトの影響の確認、確認を待つ前に報告が先か? 報告すべき内容はどこまでだ?
簡潔にいうならば今回の渡り人の魔法が異例。 渡り人の世界に行ける、あちらに行くと渡り人の魔力が回復する、代償がスタンピート。 ………か。
「長谷川。 今のところ橋沼桜は問題行動を起こしてないんだな?」
「聞き込みでもあのスタンピート以外は特段問題は無い。 冒険者に何度か絡まれるくらいで……それもすでに解決済み、こちらの生活を満喫しているようだ。 他の渡り人との軋轢も今のところは見受けられない。 むしろ今までの渡り人より扱いやすそうだ。 監視をつけてからも特に問題行動は見受けられない、カタログギフトも使ってなさそうだ。 他の渡り人にもカタログギフトについてスタンピートの原因になりそうだと説明して回っていたくらいだ、と言うか正直に話した時点でこちらに刃向かう意思は今のところはないだろう」
「それは幸いだな」
長谷川の報告を聞き胸を撫で下ろす。 それならば残す提案もしやすい。
「王への報告は残す方向で提案する。 その為には王も一度あちらの世界に行くと言いだしかねん、一応その旨橋沼桜に連絡を入れ場所を探すように言っておいてくれ」
「ならば王のお眼鏡に適うかどうか試しに泊まってみなくちゃな」
温泉温泉と嬉しそうな声を上げる長谷川に
「使用は禁止だ。 馬鹿者!!」
と一喝する。 頻繁にスタンピートを起こされてはたまったもんじゃない。
「冗談だろ? そんなに怖い顔すんなよ」
「……すまん、今は構ってる余裕はない。 というか王の意向によってはビールもお預けだという事忘れてないか?」
「ウィスキーもな」
減らず口を叩く長谷川と顔を見合わせる。
お互いに欲するものが顔に書いてあったようだ。
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