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第一章

12話目 新たな渡り人2

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「金貨100?!」

「もうこっち来て3年だぜ。 消費魔力は100万しか使ってないんだ……これでも冒険者やって魔法使ってやっとだぜ……この調子だと数十年はこっちなんだ。 頼むコーラ取り寄せてくれ!」

……そんなに飲みたいなら大規模魔法ぶっ放して帰ればいいだけじゃないか?

「桜分かったか? こういうのがいっぱい出てくるんだ、気をつけろよ。 もしやるとしたらもっとぼったくってやれ」

「取り寄せ貰えるなら金貨何枚でも払っちゃう」

ハンスさんの言葉に茶化すように言う高梨さん。

「あはははは、良いですよ! 置く場所はどこにしますか?」

「え?」

「え?」

高梨さんはキョトンとした。

思ってた反応と違って私もキョトンとした。

「……一本だけじゃないの?」

「箱じゃないんですか? ……って一本で金貨100枚高過ぎでしょう」

「箱でいいの?!」

「……良いですよ。 置くのは床に置いちゃっていいんですか?」

「うん。 お願いします」

取り寄せの魔法を使ってコーラ一箱選択した。 ついでにみんなでいま飲む分も4本追加しておいた。

「すごい! 500ml24本入りだ。 懐かしい!」

「あれ? 俺たちまで良いのか?」

高梨さんは現れた箱に頬擦りしてる。 その間にハンスさんとユリウスさんにも一本ずつ渡した。

私も蓋を開けて飲む。

取り寄せ物は何故かいつも冷えていた。 
取り寄せたコーラも冷えていてシュワシュワして美味しい。

「これ出品されたら毎回高額で取り合いになるやつだよな……」

「そうだね。 見てるこちらが引くくらい高額になるやつだな……」

……コーラってそんなに高値になってるの?
二人の言葉に引きながらも薦めた。

「美味しいですよ」

「「いただきます」」

蓋を開けて一口、口に含んだハンスさんとユリウスさん。

ハンスさんは口に含んだ瞬間咽せそうになっていた。

「おお! これはこれは」

口にあったのかユリウスさんはとても楽しそうだった。

「甘っ……でも美味いな」

二人はもう一口、また一口とゴクゴク飲んでいっている。

ハンスさんは炭酸強者だ。 一度もゲップせずに飲み干した。
凄い。

「これは高額になるの分かる……ゲフッ」

憧れの目で見ていたらチャレンジ失敗した。
……強者にはなりきれなかったね。

高梨さんは箱を奥へと運んで戻ってきた。

テーブルにあった一本を促せば嬉しそうに飲み始めた。

「くぅー……! これこれ!!」

空になったペットボトルを見ながらハンスさんが尋ねてきた。

「桜、これって消費魔力どれくらいなんだ?」

「一本で消費魔力100ですね」

「4本で400か……多いのか少ないのか分からん!」

「同じくです!」

「消費魔力400もあったらDランクの魔獣を一匹屠れるぞ」

「それは……凄いな」

ユリウスさんが例えを上げてくれたがピンとこない。

「あ……ああ、桜には分かりにくかったな。 まず魔獣のランクがFからSまである。 冒険者も同じくFからSまである。 俺たちのパーティーはAランクだ、……Dランクは冒険者でようやく一人前ってとこだ。 Dランクの魔獣は同じDランクのパーティーなら一パーティでようやく退治できるランクだ。 消費魔力400はそれを一人で退治出来るって事だ」

「なんとなく伝わりました」

「よろしい」

「今は魔獣が少ないから良いが2週間くらいしたらスタンピードがやってくる。 その後落ち着いてから一緒に森に行って見せてやるよ」

「ありがとうござ……スタンピード? あのモンスターが溢れるという?」

「そうだ。 渡り人が現認されて大体2週間前後であるんだ。 稼ぎ期だぞ」

そう話すハンスさんは楽しそうだ。

スタンピードってもっと悲壮感が出るもんだと思ったんだけど違うの?

「ゲフッ……こちらのスタンピードはみんな慣れてるからそんなに怖がらなくて大丈夫だよ」

頼もしい限りだ。

「……桜、ちなみに聞いても良いか?」

「何をです?」

「……クイナに渡した食べ物。 あれも取り寄せか?」

「そうですよ? あれは私おすすめの逸品です。 あのチョコが食べたいがためにこちらに来ましたもの」

「……消費魔力……は?」

「3500です」

「「3500?!」」

「あれでもまだお手頃価格ですよ。 一粒600くらいのものもありますもん」

嘘だろ……と手で顔を覆ってるハンスさん。

「取り寄せ可能なら頼もうかと思ったが……3500か……」

「イリスさん何粒食べたんですか?」

「美味い美味い言いながら半分以上食べたって」

「……おおう」

なんという勿体無い食べ方だ。 どうせなら一粒一粒味わって食べて欲しかった。

「クイナさんに同情します……。 あ……そうだこれを渡してください」

バレンタインシーズンに友チョコとして高コスパのチョコレート。

「魔力500のチョコレートです」

5粒入のアミューズだ。 定番の味から人気の味、その年の新作まで味わえる珠玉の逸品。

私のお気に入りの一つだ。

「コーラ5本分……」

受け取ったハンスさんはこんな小さなものが……と驚愕してる。

「これの製作者のバレンタインアソートは一粒魔力350くらいしますよ。そう考えるとかなりかなーーーーりお得な商品です」

「わ……分かった。 クイナに渡しておくよ」

「お願いします。 そういえばこちらのチョコはどんなのなんですか?」

「あまり美味しくない」

どんなのとは? と首を傾げるユリウスさんとハンスさんに対し回答をくれたのは高梨さんだった。

「カカオっぽいのはある。 少ないらしいが……砂糖が高いから値段がべらぼうに高い。 そしてやたら甘い。 たまに分離したまま生チョコとして売りに出されてる」

分離したチョコはチョコじゃない気がするよ?

「この街で売ってるの?」

「売ってる。 あんまり期待しない方がいいよ」

……ほうほう。 今度行ってみるか!

「それってこれか?」

そう言って荷物からチョコを出したユリウスさん。

「そうそう。 それ」

「あまりにクイナが怒るから代わりにと思って買ったんだが……そんなに違うのか?」

「違う。 別物だと思った方がいい」

「なら桜食べてみるか? クイナにチョコ貰ったし代わりと言ってはなんだが」

「良いんですか?!」

「ああ」

お言葉に甘えて袋から一粒手に取った。
形はトリュフに似てる。 めっちゃ白い粉ついてる……。 これって粉砂糖なのかな?


口に含むと顔を歪めてしまった。

「これ小麦粉? 粉っぽい……チョコはカカオの味があんまりしない……甘……いや苦い苦い苦い!!!」

小麦粉で無理やり固めた感満載だった。 口の中でねちょっとする。 肝心のカカオは苦い。 小麦粉感満載なのに苦い!! ほんのちょっとの甘さが苦味を引き立ててる。 チョコじゃない!!

「あまり……美味しくないね……」

「……だろ」

「あーーーー口直し!」

取り寄せの魔法を使う。 今度は何にしよう。 いや元の世界のお手頃個包装チョコにする。 元の世界は高級じゃなくてもチョコは美味しいのだ!

某都市の名前がついたショコラ。 魔力300! 袋を開け個包装のビニールを取り口に含んだ。 美味しい!

「あちらの世界じゃチョコはこんな感じです!」

ずいっとユリウスさんに袋を差し出した。

「僕も貰っていい?」

「高梨さんもどうぞ。 ハンスさんもどうぞ!」

それぞれ手に取り口に含んだ。

「「!」」

ハンスさんとユリウスさんは固まった。

私は二つ目を口に含んだ。

「……これは……全く違うな……」

「溶けた……」

「恐らくですがユリウスさんが購入したお店作り方知らないんじゃないですか? それならあとバターと卵追加してクッキーにした方が全然美味しくなりますよ。 ……いや……なるのかこれ? 私お菓子作れないし……」

「いやその流れ作りますよって流れだから」

高梨さんに苦笑いされながら突っ込まれた。

「作れるわけないじゃないですか! レシピがあっても作れない人は作れないんです!」

「威張れることなのか?」

「純然たる事実です。 これはしょうがないことなんです。 ちょっとこれの販売店に連れてってもらえませんか?」

「いいけど明日にしないか? 今日はもう夕方だし」

窓から外を見ると確かに日が傾きつつあった。

「……分かりました。 ユリウスさんそのチョコなんですが……」

「ちゃんと食べるよ?」

「どうせなら美味しくしましょう」

私はお菓子を作れないから溶かすだけの方向でいこう。

取り寄せ魔法で製菓用のチョコと牛乳を取り寄せた。

「これをどうぞ。 牛乳を温めてそのチョコを入れてさらにこちら製菓用のチョコを入れて飲んでください。 この方が多分……おそらく……美味しいと思います」

「ありがとう。 試してみるよ」

ここまでしてでしゃばり過ぎたかと我に返った。

「……すみません。 こちらの世界のもでも美味しい物はありました。 チョコもちゃんと製作方法が伝われば美味しくなると思います。 でしゃばってすみません!」

ユリウスさんがクイナさんの為を思って買ったものにだいぶケチをつけてしまった。

「ははは。 こちらこそ色々美味しい思いをさせてもらったよ! 感謝こそすれ謝られる覚えはないよ」

「そうだそうだ」

また明日も美味しい思いさせてもらえそうだしなと笑うハンスさん。

この人たちはいい人だなと思いつつ反省しながら宿に帰った。

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