異世界帰りの聖女は逃走する

マーチ・メイ

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(よし!!行けた!!)

闇隠インビジブル幻影イリュージョン

ここで結構手間取ってしまった。
リュックサックを背負ってからもう一度魔法を掛けなおしテント倉庫から外に出た。

(重さはあるけど……十分動ける。 身体能力上がったおかげだね)

飛んだり動いたりして動作を確認する。
邪魔だけど問題は無さそうだ。

今日の収穫に大満足し次は情報を得ようと人のいる場所へと向かった。

(ん? ダンジョン前から人が居なくなってる)

警備の人を除き先ほどまで帰還を喜んでいた人たちの姿は消えていた。

(どこに行ったのだろう)

ウロウロと辺りを行ったり来たりすると近くのテントから声が聞こえてきた。

(ここかな?)

辺りのテントよりも大きな造りだ。

テントの外からでも声が漏れ聞こえる。

集音コレクトサウンド

はっきりと音を拾う為に心の中でつぶやき会話に集中した。

「1階にはアッシュウルフ、2階にはダークスネークとアッシュウルフ、3階と4階には小蝙蝠スモールバッドがいました。 5階以降はまだ未調査となります」

「5階か……」

「いや対策を取らないと小蝙蝠スモールバッドは厳しいですぞ」

「分かってる」

「外も随分と景観が変わってますが何かあったのですか?」

「あぁ、スタンピードが起こった」

「スタンピード?」

「中の様子はどうだった? 我々としては君たちの無事が嬉しいが……正直言ってもう駄目だと思っていた」

「まぁ……そうでしょうね……スタンピードが起こっていたら中はそれ以上に危険だ」

「よく全員無事だったな。 装備の無い小蝙蝠スモールバッドは危険度が跳ね上がるというのに……流石『暁の探索者』だ」

「いえ、そんな……皆が頑張ってくれたおかげです」

小蝙蝠スモールバッドってそんなに危険なモンスターだったの?)

私にとっては単なる勝手に自滅するモンスターでしかないが。

「こちらの要望としては引き続き『暁の探索者』にダンジョンの攻略を依頼したいが……どうかね」

「分かりました。 今は出たばかりですので数日休暇を頂ければ引き続きお受けいたします」

「頼む」

「あ、ですが……」

その後に恩田さんから話された話は問題児のメンバーたちのことだった。
どうやらなんか私が聞いた以外にも色々とやらかしていたみたいだ。

例えば女性メンバーに対するセクハラ。
用を足そうとするメンバーについて行こうとしたり、下ネタを連発したりとか野営の時も潜り込もうとしたらしい。
他にも男性メンバーの荷物から勝手に物を拝借したりそれを問い詰めれば借りただけだと逃げたりしたそうだ。
戦っている最中にも邪魔をしたりそれはそれは酷い奴らだったみたい。

(うげ……まだそんなのがダンジョン内に居るのかぁ……嫌だな)

恩田さん達はダンジョンの探索を継続する代わりに彼らを外してくれと要望を出していた。

相手の人もこの場で、「はいそうですか」とは言えないらしい。

ここに押し寄せていた他のメンバーにダンジョンから救出させ事情を聴いたうえで結論を出すという話にまとまったみたいだ。

(またこの人たちが入るのか……でもあの人達を救助してからならさらに数日の猶予は貰える? 私にとっては好都合だ)

偉い人通しの話し合いはまだ続いていたが、それ以上は聞いてもどうしようもないなとその場を後にした。


(アイテムについての情報はまだ得られていないな……)

もうダンジョンに潜ろうかもうちょっと情報を得ようか迷う。

ダンジョンから出てもう日暮れだ。

(私の扱いも分からないな……)

テントが修復されつつあると言う事は私が居ない事も知れ渡っているはずだ。

(死亡扱いになってるのかな? それとも行方不明扱い?)

どこかに情報を探れる場所は無いものかと考え込む。

(……嫌だけど病院の研究所に行こうか……でも嫌だな……)

モンスターをけしかけたあいつらがまだいる。
そんな場所に行きたくないと思ってしまう。

(……駄目だ。 はっきりさせておこう。 今の私は魔法が使える。 バレない、 きっと大丈夫)

自分に言い聞かせ、闇夜に紛れていくぞと足に力を入れた。

モンスターが闊歩していなければすぐに行ける距離に病院はある。

夜間診療も行っている病院だ。
警備員は居ても忍び込めないようなセキュリティは無い。

(まぁ、建物の中には入らないけどね)

荷物がある為あまり草木が生い茂っていない場所を選びつつ人が居そうな場所へと向かう。

(ここの2階に休憩所があったはず。 誰かいるかな)

木陰に荷物を置き、離れても大丈夫なように闇隠れインビジブルをかける。
私はレベルが上がり身体能力が向上したおかげで無理なく木によじ登った。

(……居ないか)

窓から見える範囲には人は居なかった。
続いて別の自販機が置かれた休憩スペースに赴く。

(ここにも誰も居ない)

めぼしいところを次々と渡り歩くが話している人は居なかった。
飲み物を買いに来た人は早々に部屋に戻っていくし独り言は言わない。
私が欲しい情報は漏らしてくれない。

(次の場所は……私の部屋行ってみようか)

最初からそちらに向かえば良かったのだろうけれど、もし仮に喜んでいる人が居るならあまり見たいものではない。

(元々私を殺そうとしていた人たちも居たくらいだ)

全部捨てられてもおかしくない。
自分がどれだけの人間に嫌われていたかなんて好き好んでみたくもない。

(けれど……しょうがないか)

軽く息を吐くと荷物を拾い重い足取りで自分の部屋の有った場所へと向かった。


自室には上の方に小さな換気窓があった。
荷物を下ろし、魔法をかけ見えなくすると木によじ登る。

窓の外から部屋を覗いた。

(……)

自室だった場所は段ボールだらけになっていた。

(死亡と……片づけられたみたいだね)

本棚に詰められた本は無造作に段ボールの中に詰められ、毎日寝起きしていたベッドにも埃まみれの荷物が投げ捨てられていた。

引き出しは開けっぱなし、空になっている。
机の上には申し訳程度の萎れかけの花が飾られていた。

(一応頑張ってたつもり……なんだけどな)

ため息が漏れる。

(もう……いいか)

追ってはなさそうだ。

ならここに留まる理由もここに来る理由も無い。

(ダンジョンに行こう)

無性にモンスターで憂さ晴らししたくなった。

木の下に置かれた荷物を背負いダンジョンへとひた走った。

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