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19話目
しおりを挟むどうやら進退どっちか分からないが準備をしているようだ。
(随分とのんびりしてるな)
昨日と違って大声を出しているわけでもない。
何やら会話をしているのは分かるが声が聞こえない。
集音を飛ばし音声を聞くことにした。
「こちらは準備完了だ、江田そっちはどうだ?」
「こっちも完了」
「な……なぁ……またあれ突っ切るのかよ」
「そうだが」
「い、嫌だ!!」
「俺らは行かないぞ!!」
「はぁ?!」
「なら勝手にしろ!!」
「なぁ、恩田さんよ……食料置いてってくれないか? どうせ戻るだけだそんな荷物要らないだろ?それで俺たち残るから小蝙蝠避けのアイテム持ってきてくれないか? 頼むよ」
(小蝙蝠避けのアイテム?)
「ぁあ゛?! てめぇなに勝手ほざいてんだ!!」
「誰のせいで残ったと思ってんのよ!!」
「もとはと言えばてめぇらが俺たちを囮にして勝手に奥に行ったのが悪いんだろ!!」
(……あいつらそんなことしてたのか)
「そ、それは悪かったよ」
「誰か死んでてもおかしくなかったのよ?! ふざけんな!!!! アキだって陣形崩れて死にかけたんだから!!!!」
(……確かに小蝙蝠の群れって突然ピラニアの居る川に落とされたようなもんだよね。 階段近くでは出なかったし。 私だって魔法が無かったらいたるところ噛まれて死んでるよ、その場合骨とか残ったのかな?)
つくづく魔法が使えて良かったなと実感する。
(今では勝手に突っ込んで来て私に経験値をくれる可愛いやつらなんだけどね)
そんな事を考えながら話を聞いた。
「なぁ恩田さん頼む!! この通りだ!!」
「恩田さん、こいつらの話なんて聞く必要ない。 むしろこのままここに置いて行って餓死してもらったほうがいいんじゃないか」
「ああ?! なんつった?!」
「ここで死ねっつったんだよ!!」
「ふざけんなよ!!」
「きゃあああ!!」
そんな悲鳴が聞こえたのでひょこっと岩陰から顔を出し何が起こったか確認することにした。
どうやら死ねと言われた奴らの堪忍袋の緒が切れたようだ。
武器を取り出して喧嘩を始めた。
女性にも当たったようでそれで悲鳴が出たみたいだ。
バサバサバサ……。
その悲鳴に誘われるように天井から小蝙蝠が降りてきた。
ギィギィギィとセーフティーゾーンを囲うようにして群がっている。
(ぉおおおお!!!! あんなに小蝙蝠が!!!!)
目の前に群がる大量の小蝙蝠に興奮してしまう。
「ほらあいつらが来ちまったじゃねーか!!!!」
「は? 俺は知らねーよ!! 叫ぶ方が悪い!!」
「あ?! ならてめーらを餌にしてやるよ!!!!」
「逆にてめーらを餌にしてやんよ!!!!」
「やれるもんならやってみな!!!!」
「もう止めて!!」
「あぁぁぁあ……小蝙蝠小蝙蝠小蝙蝠」
(酷い有様……)
小蝙蝠が増える、探索者達が騒ぐ、さらに小蝙蝠が増えるという悪循環に陥っている。
「おま……これじゃ出れねーだろうが!! ふざけんなっ!!」
(……どんどん増えてってる)
私が探索者達を視認出来ないくらいの量になりつつある。
「出れない……こんなの無理よ!!」
「どうすんだよ!!!!」
(パニックになってんじゃん。 どうすんの恩田さんとやら)
「皆落ち着け。 たとえあれだけ量が居てもセーフティーゾーンに入ることは叶わない。 ここに居れば安心だ、だから落ち着くんだ」
「そうだ、あいつらは音に寄って来るの分かってるだろ? 静かにすれば居なくなる」
「はは、恩田さんでもビビってんのか」
「君は黙っててくれないか」
「そうだ、次下手な真似をしたら囮として活躍してもらう。 それが嫌なら黙ってろ」
「うぐっ……」
(悪態ついてた奴が黙った。 一喝したのは昨日4階で見た鎧を纏ってた人たちなのかな? 確かに悪態ついてた人達より強そうだったけど)
「皆も良いな、極力静かに過ごしてくれ。 あの群れが居なくなったら出発する。 分かったな」
「分かりました」
悪態ついていた人達ではなく周りの人達がそれに了解を告げた。
(なんだか出発時間が伸びに伸びてる。 さっさと帰ってくれればいいのに)
時刻は9時5分。
(この群れもしばらくはここに留まりそうだし私は4階でレベル上げをして来よう)
思うように行かないなと軽く息を吐き4階へ戻るべく身を翻した。
4階にたどり着くと静音と闇隠を解き代わりに防御結界を張った。
足元の石を拾いつつその辺をウロウロし小蝙蝠狩りに勤しんだ。
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