一般人な僕は、冒険者な親友について行く

ひまり

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99 全員無事だったけれど

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「や、やっと扉……」

 そこにたどり着いたとき、聖は心身ともに疲れ果てていた。
 ぐったりと地面に座り込み、壁に背を預ける。
 ここがどこだろうと、今は何も考えたくない。
 そして、魔物の心配も特にしていない。
 なにせやっとの思いでたどり着いた扉には『合格』の二文字がでかでかと書かれていた。
 いったい何がどう合格なのかはわからない、というかわかりたくもないが、何かを突破したことだけは確かなので、きっと安全だろうと思われる。

「……疲れた」

 本当に疲れた。
 よくわからない問題は結局20問まであった。しかも出てくる案山子は毎回違うポーズをとって消えていくという無駄に凝った仕様になっており、疲労に拍車をかける。
 さらに言うと、一本道が本当に長かった。どれだけ歩いたのかも定かではないが、とにかく足がだるい。
 もういっそのこと布団を敷いて寝たい気分である。……寝てもいいかな? なんて考えていると、どこからか『がちゃ』という音が聞こえた。

「……あー、やっと終わった……」
「春樹!」
「お、よかった無事だな」
「いや、どっちかっていうとそれ僕の台詞!」

 ほっとしたように言う春樹に、聖は駆け寄る。
 なにせあの後、脳内アナウンスは2度レベルアップを伝えていた。聖は全く魔物を倒していないので、すべて春樹の経験値である。まあ、あの案山子を倒したとカウントすれば別かもしれないが、たぶんあれはカウントされていない。

「って、なんかぼろぼろ? え、怪我とかは?」
「ああ、それは問題ない」
「……」

 問題ないとは言うが、どう考えてもそのぼろぼろ具合は問題ないとは思えない。
 なので訝しげに見ていると、春樹がちょっと困ったように苦笑する。

「あー、多少怪我はしたけど治ったんだ」
「え?」

 春樹の説明によると、魔物との戦いが終わると必ず回復薬が現れたとのこと。
 なんでも飲んでは戦い、また飲んで怪我を治しては戦い、を続けていたらしい。

「ちなみに、どんな魔物?」
「なんか『ゴーレムもどき』から始まって、『トロールもどき』とか『バジリスクもどき』とか……」
「あ、うん、なるほど……」

 思わず頬が引きつる。
 聞いたことがあるような無いような名前が春樹の口からたくさん出てきた。どれもこれも『もどき』と付いていることが気になるが、それだけ倒せば確かにレベルは上がるだろう。
 というか、この差はなんなのだろうか。

「そういや、そっちはどんな感じだったんだ?」
「……どんなっていうか……」

 聞かれ、ちょっと口ごもりつつも仕方なく聖は説明する。
 すると、案の定春樹が爆笑した。

「あはははははははっ!」
「……うん、わかってた」
「見たかった! 俺も見たかったその案山子!」
「……うん、残念だね」

 涙を流しながら笑う春樹に、聖は遠い目になる。
 こうなるだろうと思っていたが、実際そうなるとなんとも微妙な気持ちになってしまうのはなぜだろうか。
 そんな春樹の笑いが収まったのは、それからしばらくしてからだった。

「あー、笑った笑った」
「……楽しそうでいいよね」

 じどっとした目で見ると、春樹はちょっと視線をそらす。そしてわざとらしく一度咳ばらいをした。

「……まあ、いいけど」
「えーと、それより、ロティスは一緒か?」
「え? 春樹といるんでしょ?」
「いや、いない」

 やっぱりか、と春樹が何とも言えない顔をする。
 聖としては春樹と一緒だと思っていただけに、驚きが大きい。

「じゃあ、ロティスって何処?」
「ロティス用の扉があったのか、なかったのかが問題だな」
「……ロティス用……」

 ロティスというか、スライム用ってなんだろうとの疑問がお互いの胸中に過るが、もちろん答えは何処からも出ない。
 と、そのとき上から声が振ってきた。

「おお落ちてるぅぅぅ」
「「ロティス!?」」

 噂をすれば何とやら。
 まっさかさまに上から落ちてきたロティスは、くるくるりんと見事な回転を加えてそのまま着地。

「俺様、参・上!」

 びしっ、とポーズを決めると、何故か横からにゅっと『100点』と書かれた旗が出てきた。
 意味が分からない。

「なんで点数?」
「つか、どっから出てきた?」
「ふふん、俺様はパーフェクトなのさ!」

 まったくわからない。

「なんだ? ひょっとして俺様の活躍が聞きたいのか?」

 確かに聞きたかった。いや、活躍とかではなく何をやってここにたどり着いたのかを。
 けれど、何やら長くなりそうな予感がしたので、その好奇心はぐっとこらえる。

「……ええと、あとで聞かせて」
「おう!」

 大きく頷いたロティスが、聖の肩へと飛び乗る。
 何はともあれ、全員無事に合流できたことに安堵して、改めてその場所を見渡す。
 全体的に青く、神秘的な光を放つそこには特に何かがあるわけでもなく、さらに言うと扉や道があるわけでもない。完全に閉ざされた空間である。

「これからどうすればいいのかな?」
「どうって、試練的なものは終わったよな……ん? なんか落ちてるぞ?」
「え?」

 なにやら中央に紙が落ちていることに気が付いた。
 とりあえずそれを拾ってみると、文字が書かれている。


『主夫たるもの、家族のためにあれ』
『守護者たるもの、すべてから守れ』
『スライムたるもの、スライムであれ』


 そんなことが書かれていた。
 まあ、何の意味があるのかはわからないが、内容的にはわからないものでもない。わからないのは最後だけである。

「スライムであれって、なに?」
「いや、スライムはスライムだよな……?」

 しきりに首を傾げる聖と春樹だが、当のスライムであるロティスには意味が分かっているらしい。うんうんと頷いている。

「いいこと言うな! 俺様感激!」

 意味が分からない。

「……感激する内容なんだ、これ」
「……みたいだな」

 スライムというか、ロティスの思考回路は全く持って不明である。けれど、まあ、本人が納得しているのでいいかと思うことにした。放棄したと言ってもいい。

「お? 宝箱が出て来たぞ」
「ほんとだ、ってなんか横に長くない?」
「長いな」

 今まで見た宝箱より、若干横長だった。しかも黒い。
 念のため主夫の目で見る。


【宝の箱】
 いろいろあって横に長くなってしまったけれど特に戻る予定はなく、黒くなったのも、これまたいろいろあって面倒になったからである。ちなみに、中のものは勝手に持っていけばいいと思っている。


「「………」」

 何があったと突っ込みたい。というか宝箱の世界はどうなっているのだろうかと、遠い目をしてしまう。
 だが、そんなことなど気にしないロティスは、さっそく中を覗きこむ。

「お? お宝ざっくざっく!」
「まじか!」
「え、ほんと?」

 すぐさま聖と春樹も覗き込む。
 中には目的の魔石がごろごろしていたが、それ以外のものも何やら入っていた。しかもたくさん。
 思わず瞳が輝いてしまう。

「なんだろうな、これ!」
「とりあえず収納して、あとで見よう!」
「そうだな!」

 全部綺麗にアイテムボックスへと入れて、一息つく。
 そして、ふと気付いた。

「……どうやって帰るの?」
「……そういや、どこにも道ないな……」

 クリアの宝箱が出たら何かしらの変化がどこかにある筈なのだが、中身を回収したというのに何処にもなんの変化もない。
 あたりをきょろきょろと見渡すも、やはりどこにもない。

「あるだろ」
「「は?」」

 だが、そんな2人に対しロティスが当たり前のように言った。

「どこにだ?」
「ここ」
「ここ?」

 ロティスが示したのは宝箱。まさかと思って中を覗きこむと『出口』との張り紙があり、全力で脱力した。

「まさかのここっ」
「作れよ普通に!」

 確かにちょっと横に長いし、全体的に若干大きかったのだが、まさかこんな意味があるとは誰が思うだろうか。
 というかロティスがいなかったらしばらく気が付かなかったかもしれない。

「よかった、ロティスがいて」
「ああ、ほんとにな」
「ん? 俺様はすごいだろ!」
「うん」

 本当に良かったと心底思いながら、ようやくダンジョンから脱出した。

 ちなみに、そこに足を踏み入れた瞬間飛ばされたのは噴水の中であり、当然ながら全身ずぶ濡れとなった。
 もはや何も言う気になれなかったのは、言うまでもない。



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