一般人な僕は、冒険者な親友について行く

ひまり

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118 人生の必須アイテムだとあなたは言った

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 名 前:トモヤス・ミカミ
 職 業:舞踏家
 レベル:1
 称 号:なし

 聖と春樹が受けたもろもろの異世界説明を受けたのち、調べた友康のステータスがこれだった。

「え、舞踏?」
「……ダンサー?」
「……舞踏家か。戦闘職ではないということか?」

 舞踏家。
 どう考えても踊る人である。友康の母親がダンス教室を開いていると聞いたことがあるので、間違ってはいない職業ではあるのだが、本人の性格からしてあまり嬉しくない職業なのだろう。何とも言えない顔をしている。
 ちなみに聖は、非戦闘職仲間が! とちょっとだけ考えてしまったのだが、それはすぐさま否定された。

「おー、これはまたレアな職業ー。なんか勘違いしてるよーな気がするから言っとくけど、ばりっばりの戦闘職だからねー」
「「「え?」」」
「格闘家や武闘家の上級職と言われてるもので、踊るように敵を倒すことから舞踏家って言われるねー」

 なんというかすごい職業だった。

「それは、凄いな」
「あ、そういやお前の親父さん、なんか昔格闘技を齧ったことあるって言ってたか?」
「そういえばなんか言ってたよね。……そっかまともな職業か」
「なぜそんなに残念そうなんだ聖。……そう言えばお前たちの職業は?」
「守護者」
「主夫」
「……なるほど。春樹はともかく聖。若干どころか納得以外しようもない気もするが、かける言葉がないな」
「うん、知ってる!」

 言われるまでもない。

「ん? じゃあ聖は正確には冒険者ではないのか?」
「うん、違うね。春樹のお付きだよ」
「……なるほど。まあ、一緒なら問題ないか……」

 何やら納得したように頷く友康。
 そこで話がひと段落したと判断したのか、ラグイッドが手をひらひらとさせた。

「さて、お話はこれで終わりかなー。あとの補足はそこの壁さわってもらって、あっちから受けてねー」
「は? 壁?」

 友康の視線の先には何の変哲もない、ただの白い壁。
 ただ一人何も知らない友康が、やや困惑したようにこちらに向き直る。

「……壁に何かあるのか?」
「うん、不思議空間」
「ああ、不思議空間だな」
「……不思議空間……」

 友康の困惑度が増した。
 だが、それが分かっていても、聖も春樹も特に説明する気はなく、壁をさわれとにこやかに促す。
 あの衝撃をぜひとも味わってもらいたいとの思いが、そこにはあった。

「行ってらっしゃーい」
「さあ、行ってこい」

 そして全力で驚いてこい。
 笑顔で手を振る聖と春樹。

「……まあ、いいだろう」

 そんな2人に、何処かで何かを感じ取ったのか、若干呆れたような顔になりつつも、促されるまま友康はその壁に手をついた。

 そして。

「「あれ?」」

 次の瞬間、何故だが聖と春樹も不思議空間にいた。
 もちろん壁にはさわっていない。ソファに腰かけたまま、友康を見送ったはずである。
 そんな困惑しきりな2人の前方には、初日に見た光景。ソファと、大きな額縁のようなもの。そして首を捻りつつもソファへと腰掛ける友康の姿。

「友康ー! ……って、あれ?」
「なんか透明な壁みたいなのがあるな……、声も聞こえてないみたいだし」

 目の前にはガラスのようなものがあり、叩いても呼んでも友康は振り返らず、そうこうしているうちに英雄王の姿が現れ、あの映像が映し出されていた。

「まあ、友康があれを見るためにここに来るのはわかるんだけど、僕らってどうしたらいいのかな?」
「そもそも何のために俺らはここに……?」
『何故ここにいるのかと不思議がっているあなたに朗報です。ボーナスステージ! ……って他に言い方ってものがなかったのかしら、まったく』
「「――っ」」

 突然聞こえた声に驚いて振り返ると、派手な巫女服のようなものを着た少女がそこにいた。
 年のころは聖たちとそう変わらないくらいで、長い黒髪を後ろで一つに束ねたその姿は、どこからどう見てもあちらの世界の住人であり、若干透けていることから映像なのだろうとすぐさま納得した。
 たぶん、英雄王が生きていたころの落ち人であると。

『たぶん初めまして、私の名前はミカ。美しい歌と書いて美歌よ。そして、2回目のこの場所は、新たな同胞を連れて来たことによるご褒美みたいなものね。あのバ、じゃくて英雄王による映像が流れてる空間とは、同じ場所のようで違う場所。まあ、あんまり気にしなくていいわ』

 連れて来たというか、偶然遭遇しただけなのだが、おそらくあのギルマスの部屋にいたということが、ここにくる条件なのだろう。
 しかし、いろいろと気になることが多すぎる。

「……いま、英雄王をバカって言いかけたよな……?」
「うん、そこもすごく気になるけど、そもそも誰なんだろうねこの人」
「あの時代の落ち人だよな。どんなとんでもないことをやらかした奴だろうと驚かないよな! ……いや、驚きはするか」
「驚きはするよね、納得はするかもしれないけど」

 まあ、ここでどれほど議論しようとも目の前にいるのは本人ではなく、映像である。
 言葉のキャッチボールは出来るわけがない。

『まあ、とりあえずいろいろ気になることは山ほどあるでしょうけど、そうね……。今がいつの時代なのかは不明だけど、たぶん、私の痕跡は残ってるんじゃないかしら? どうにもアホみたいな偶然が重なりすぎて聖女様って崇めてくる奴らが多すぎるのよね。……なんか、国とかできちゃいそうっていうか、できちゃったというか……』

 何処か遠い目をして語ったその内容に、2人は理解してしまった。

「あ、これあの聖女様だ」
「聖ディモーナ王国だな。……英雄王の言ってた聖女か」

 そう『私が出来るって言ったら出来るのよ!』が口癖だという聖女。その意志の強そうな瞳に、絶対に間違いないという変な確信があった。
 それにしても『アホみたいな偶然』とやらが気になりすぎる。

『まあ、私のことはどうでもいいわ。それよりもご褒美についてよ。人によってはいらないかもしれないけど、必要だったら持っていきなさい』

 その言葉と共に、ぽんという軽い音がしたかと思うと目の前に現れたそれは――。

「枕!」
「枕!?」

 そう、どこからどう見ても枕だった。寝る時の必需品な枕。しかも、程よい硬さと弾力、そしてちょうど良い大きさ。
 この世界ではまずお目にかかったことのない良質な枕であった。

『私、枕が変わると眠れないのよね。ほんと苦労したわよ、最高の枕を作り上げるのは! 素材も方法も明かせないけど、ていうかなんでできたのかよくわかんないけど結果が全てよね! 出来ると思えば出来るのよ!』

 ぐっと拳を握りしめた、力強い宣言だった。
 内容は枕についてではあったが。

『私に感謝するといいわ! これで人生勝ち組間違いなしよ!』

 たかが枕。されど枕である。
 良質な睡眠は大事である。

「あ、【伝説級の枕】だって」
「すごいな、……枕で伝説級を作り出すその執念が」
「ほんとにね。まあ、ありがたいけど」
「ああ、すごい寝心地よさそうだよな。どうせなら布団もセットで欲しかったな」
「……ダメ人間になりそう」
「……ああ、起きれなくなりそうだよな」

 枕だけでよかったかもしれない。
 そんなことを思っていたが、こちらの会話などわかる筈もない聖女の言葉は続く。

『ああ、それと。今布団の試作品も作ってる最中なのよね。上手くいったら何処かに隠しておくから、探してみるといいわ! 期待していいわよ!』
「マジか!」
「うわぁ……」

 まさに悪魔の如き囁きだった。
 こう宣言されてしまえば探さないなんて言う選択肢はもはや存在しない。
 なにせ、この枕だけでも抗いがたい誘惑感が半端ない。これだけでもきっとすごく、幸せに眠れるという確信がある。
 これに布団までついたら、どうなってしまうというのか。

『さ、そろそろ時間ね。枕をもっていくならちゃんと持っててね。いらないなら手放しなさい』

 言われて、しっかりと枕を掴む。
 いらないなんて言うやつがいたら見てみたいものである。

「遠慮なく」
「ありがとうございます」

 その言葉が聞こえたかのように、ふわりと聖女が笑みを浮かべる。
 それはまさしく聖女と呼ばれるのに相応しい、とても優しげなもので。


『……そうね、最後に1つだけ言わせてもらうわ』


 その姿が徐々に薄く、遠ざかっていき、そして声だけが鮮明に聞こえた。


『――どうか、楽しい異世界人生でありますように』


 そんな言葉を最後に、目の前が真っ白に染まった。


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