一般人な僕は、冒険者な親友について行く

ひまり

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104 それは恐ろしい事実

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 そこは宿場町と言えばいいのだろうか。
 門を抜けると、石畳の道が一直線に伸びており、その両側には多くの宿屋が並んでいる。
 行き交う人々は冒険者だったり、何かの商品を担いだ商人だったりと、様々な生業の人が見える。

「まずは、宿だな」
「そうだね。何処にしようか」

 何となく歩きながら辺りを見渡す。
 先ほど門番に聞いたところ、どこの宿屋だろうと料金もサービスもそれほど変わらないらしく、どこも当たりだと言っていた。
 なので後の問題はあいているかどうかだけである。

「宿をお探しの方、まだ空いてますよー!」

 前の方から聞こえてきた声に、視線を向け、聖はちょっと驚く。
 まだ子供だろう小さな少年が、一生懸命叫んでいるのだが、驚いたのはその頭の上に見える三角の耳。もちろん帽子ではない。

「……聖、猫族ってやつじゃないか?」
「うん、たぶん」
「聞いちゃいたけど、猫だな。……しっぽもあるし」
「ほんとだ」

 長い茶色のしっぽが、こちらを誘うように揺れおり、つい惹かれるようにその少年へと近づく。

「あ、お泊りですか?」
「えっと、そうです」
「いらっしゃいませー!」

 満面の笑みを浮かべた少年は、そのまま案内するように宿の中へと入っていく。

「母ちゃーん! 2名様ご案内だよー!」
「はいよ」

 出てきたのは恰幅のいい女性。もちろん耳としっぽがあり、それを見ながら普通の猫っていないのかな、なんてぼんやり思っていると女性が笑顔で近づいてきた。

「あらあらあら! 可愛い御嬢さんたちだこと! あら冒険者なの? 女の子2人旅だなんて物騒じゃない? 大丈夫? あら、ちょっと顔色悪いわね。ちゃんと食べてる? 疲れはその日のうちにとらないとダメよ? それから――」
「母ちゃん! お客さん疲れてるんだから早く休ませないと!」
「あら、ごめんなさいね。はい、鍵。2階の奥の部屋よ」
「ありがとうございます」

 怒涛のマシンガントークに、なんとか崩れそうになる笑みを維持してお礼を言い、そのまま階段を上がる。ちなみに春樹はずっと無表情だ。いや、無表情というか無だった。気持ちはわからないでもない。
 そして、部屋へと入り、扉を閉めて深く溜め息をついた。

「……無理だな」
「……無理だね」
「アレは誤魔化すなんて無理だと、俺様は思うな!」

 聖のポケットからぴょんと飛びだしたロティスが、くるりと決めポーズと共に着地する。
 そう、本当なら宿に着いたらとっとと元の姿に戻ろうと思っていたのだ。人が多いところだし、宿もささっと入ってしまえばそんなに顔も覚えられないだろうと。
 が、あの様子ではまず無理である。どう考えてもばっちり覚えられている。
 残念だが、元に戻るのはここを出てからにした方が無難であった。
 そんながっかりとした2人の様子を見て、ロティスが首を傾げる。

「そんな落ち込まなくても、別にどっちでもたいして変わらないだろ?」
「変わるわ!!」
「変わらなかったら困るよ!?」
「お、おう? ……そうなのか、俺様にはよくわからんが……」

 問答無用で食って掛かられたロティスは、数歩後ずさりして頷く。
 スライムにとっては人の性別はあまり意味がないと判明した瞬間だった。
 種族が違うと、いろいろと埋められない溝もある。

「……とりあえず、明日の午前中にお店を見て回って、午後から出発かな」
「ああ、そして早く元の姿に戻ろうな、早急に」
「もちろん」

 ここを出てしまえばこっちのもの。
 森の中に入ってしまえば人もいないし、魔物さえ気を付ければなにも問題はない。
 とにかく、一刻も早く元に戻りたかった。


□ □ □


 翌日。
 予定通りにお店を見て回り、いくつか必要なものを購入していたのだが、聖は恐ろしいことに気付いてしまった。

 常時おまけを貰える指輪を付けているのだが、今日は何故だかいつもの2倍おまけがついてくる。
 最初はちょっとおかしいな、と思うだけだった。
 2回くらいまでは、たまたまで済んだ。
 けれど。

「おう、嬢ちゃんたち別嬪さんだな! これとそれとあれも持ってきな!」
「こんな可愛い子がうちの商品を買ってくれるとは嬉しいねぇ、あれとそれとこれもおまけだ!」

 なんてことが3回、4回と続けばさすがに気づく。
 この姿だとたくさん貰えてしまうということに!

「まさか性別によって効果が違うなんてっ」

 思わず打ちひしがれ、項垂れる。
 早く元の姿に戻りたいと思う心と、どうせなら存分に買い物をしてたくさんおまけを貰った方がいいんじゃないかという悪魔の囁きが脳内でせめぎ合っている。
 ちなみにそんな聖の姿を見て、具合が悪いのだろうかと薬などを持ってきてくれる人々を春樹が捌いていたりする。もちろんその両手には、渡された薬たちが山盛りであり、その茶色がかった瞳は若干呆れて細くなっている。

「……聖、そろそろ移動しないか?」

 ちょっと居たたまれない、と呟く春樹に、ようやく聖が顔を上げる。
 そして、驚きで目を見開く。

「え? どうしたのその薬」
「あ、うん、そうだな。なんか親切な人たちがくれたな……」
「いつの間に」

 ちょっとの間に何があったのだろうかと、本気で不思議がる聖だが、もちろん原因は聖である。
 気づかないっていいな、なんて春樹は内心遠い目をする。
 その様子に聖の頭の中には『?』がいっぱいになるが、まあいいかと、あっさり放棄することにした。
 あんまり深く聞かない方がいい、と心のどこかで察したからかもしれないが。

「もう、買い物はじゅうぶんだろ」
「…………そうだね」

 答えるまでだいぶ間があった。
 だが、聖が頷いたことに、春樹は問題ないと先を進めることにする。

「それで王都まではどうやって行く?」
「んー、箒で飛んでってもいいんだけど、ちょっと味気ないよね」
「だよな」

 箒で行けば速いのだが、それではあまり採取もできないし魔物を狩ることもできない。
 では馬車はどうかと言われると、聖としてはあまり乗りたいものではない。というか、出来る限り避けたいものである。

「ちょっとのんびり行きたいよね」
「それじゃあ、歩くか」
「それもいいよね。散策しながらゆっくり行くのも」
「だよな」

 疲れたら休んで、あきたら箒で空を飛べばいい。

「やっと観光気分が味わえるよね」
「ああ、ついでに冒険気分もな」

 石畳の道を歩き、門番に軽く頭を下げて外へと出る。
 何処までも見渡すことが出来る草原を視界に収め、2人は足を踏み出した。



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