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覚醒 (王子の記憶2・綾門)
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習わしにより、聖女は王宮から少し離れた神殿で丁重に養育される事となった。
実家は領主である為、元の土地に留まったが、流石に幼い娘が不憫だったらしく、赤子の頃からの側仕えを一人付き添わせてきた。
俺は自分より歳下の小さな可愛らしい少女が親兄弟と離れて寂しかろうと気の毒に思い、よくおやつの菓子を持って訪れた。
祈りを捧げている少女の白金の細い髪が微かな動きによってふわふわと頬にかかっている。
伏せられたまつげが可愛らしく美しい。
小さな体を護るように包む、光沢のある白い衣がまるで天使のようで、いつまででも眺めていられた。
11歳の俺は8歳の彼女に恋をしていた。
幼くして発現した聖女は聡明だった。
自分の立場を理解し、役目を理解し、穏やかに微笑んで、年相応の我儘ひとつ言わなかった。
神に仕え、人に仕え、世に仕え、何時でも惜しげもなくその力と慈愛を注いだ。
全てに公平で、分け隔てなく。
世に平和が訪れていた。
それから3年の月日が流れ、俺と彼女の婚約が決まった。
他の世界ではどうかは知らないが、俺のいた世界では聖女の婚姻は本人の意思に任されていた。
生涯独身であろうと、結婚して子を設けようと、聖女が聖女として健やかでありさえすれば。
ただ、立場上そうならざるを得なかったのかもしれないが、歴代の聖女達の中で婚姻した聖女の記録を辿ると婚姻相手は例外無く王族や皇族だった。
勿論、彼らは可能ならば聖女の血をひく子供を設けたい。
しかし無理強いはできない。選択肢は絶対的に聖女にあった。
聖女は神の眷属、王族皇族は人間である。
力関係は明らか。
だから聖女が俺の求婚を、戸惑いながらもはにかんだ笑顔で承諾してくれた時には天にも昇る思いだった。
彼女も俺の事を想ってくれていたのだ、と。
幸せにする。
きっと幸せにする。
生涯、側室を置かず君だけを愛すると誓う。
愛している、私の聖なる少女、
ただ一人の乙女、アリアナ。
当時14歳だった初心な俺は本気でそう誓った。
本気でそうするつもりだった。
その時は。
結果として俺は、とある女の、醜悪且つ稚拙な策略に踊らされ彼女を裏切った形で最悪の結末を迎える事になった訳だが。
今現在、目の前に立っている、ちょっと目つきの鋭い男子高校生バイト。
彼こそがその、手酷く裏切り、哀しい死に方をさせてしまった元婚約者…
つまり、聖女アリアナであった彼女が転生を重ねた姿であると、目が合った瞬間、確信してしまった。
あの、薄紫色のの瞳とはまるで違うのに。
どこもかしこも、共通点などひとつも見当たらないのに。
なのに、その一瞬で全ての記憶が覚醒した。
脳が、混乱している。
計り知れない速度で記憶の処理をしようとしている。
この新しい肉体の脳の海馬に、果たして想起を促されるような残存記憶が存在するとは思えない。
とすると、これは魂とやらに刻まれた記憶なのだろうか。
この記憶が紛れもない本物である事を、記憶の中で揺れるアリアナの涙だけが物語っている。
実家は領主である為、元の土地に留まったが、流石に幼い娘が不憫だったらしく、赤子の頃からの側仕えを一人付き添わせてきた。
俺は自分より歳下の小さな可愛らしい少女が親兄弟と離れて寂しかろうと気の毒に思い、よくおやつの菓子を持って訪れた。
祈りを捧げている少女の白金の細い髪が微かな動きによってふわふわと頬にかかっている。
伏せられたまつげが可愛らしく美しい。
小さな体を護るように包む、光沢のある白い衣がまるで天使のようで、いつまででも眺めていられた。
11歳の俺は8歳の彼女に恋をしていた。
幼くして発現した聖女は聡明だった。
自分の立場を理解し、役目を理解し、穏やかに微笑んで、年相応の我儘ひとつ言わなかった。
神に仕え、人に仕え、世に仕え、何時でも惜しげもなくその力と慈愛を注いだ。
全てに公平で、分け隔てなく。
世に平和が訪れていた。
それから3年の月日が流れ、俺と彼女の婚約が決まった。
他の世界ではどうかは知らないが、俺のいた世界では聖女の婚姻は本人の意思に任されていた。
生涯独身であろうと、結婚して子を設けようと、聖女が聖女として健やかでありさえすれば。
ただ、立場上そうならざるを得なかったのかもしれないが、歴代の聖女達の中で婚姻した聖女の記録を辿ると婚姻相手は例外無く王族や皇族だった。
勿論、彼らは可能ならば聖女の血をひく子供を設けたい。
しかし無理強いはできない。選択肢は絶対的に聖女にあった。
聖女は神の眷属、王族皇族は人間である。
力関係は明らか。
だから聖女が俺の求婚を、戸惑いながらもはにかんだ笑顔で承諾してくれた時には天にも昇る思いだった。
彼女も俺の事を想ってくれていたのだ、と。
幸せにする。
きっと幸せにする。
生涯、側室を置かず君だけを愛すると誓う。
愛している、私の聖なる少女、
ただ一人の乙女、アリアナ。
当時14歳だった初心な俺は本気でそう誓った。
本気でそうするつもりだった。
その時は。
結果として俺は、とある女の、醜悪且つ稚拙な策略に踊らされ彼女を裏切った形で最悪の結末を迎える事になった訳だが。
今現在、目の前に立っている、ちょっと目つきの鋭い男子高校生バイト。
彼こそがその、手酷く裏切り、哀しい死に方をさせてしまった元婚約者…
つまり、聖女アリアナであった彼女が転生を重ねた姿であると、目が合った瞬間、確信してしまった。
あの、薄紫色のの瞳とはまるで違うのに。
どこもかしこも、共通点などひとつも見当たらないのに。
なのに、その一瞬で全ての記憶が覚醒した。
脳が、混乱している。
計り知れない速度で記憶の処理をしようとしている。
この新しい肉体の脳の海馬に、果たして想起を促されるような残存記憶が存在するとは思えない。
とすると、これは魂とやらに刻まれた記憶なのだろうか。
この記憶が紛れもない本物である事を、記憶の中で揺れるアリアナの涙だけが物語っている。
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