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8 これは味見に過ぎないと狼はほくそ笑む(※R18描写あり)
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と、内心気が気ではなかった丈一郎。不穏な空気を打破するべく手段を探していたその脳内に、はたと閃く事があった。
「あっ、そ、そうだ碧夢。お誕生日おめでとう、プレゼントを選んできたんだ」
そう、そうだ。その為に多忙な中、仕事を調整して午後休を取り店を回ったのではないか...!
丈一郎は名残惜しげな碧夢の腕から抜け出し、そうだったそうだった~、などとわざとらしく呟きながらベッドルームへ歩いて行く。そして、帰宅時にチェストの上に置いたブリーフケースの中から小さな箱を取り出して戻って来た。
「ハッピーバースデー、碧夢。25歳、おめでとう。」
「ありがとう丈一郎さん...!」
ぱあっと満面の笑顔になって箱を受け取った碧夢は、
「開けても良い?」
と、少し上目遣いで聞いてくる。こういう故意なのか天然なのか判別し辛いあざとさも、可愛いと丈一郎は思った。可愛いばかりの青年ではなかったのを知ってしまっても、その気持ちは変わらない。それに安心したような複雑な気分で丈一郎は微笑んだ。
「勿論だ」
先ほどまでの緊迫した空気が嘘のように、碧夢は嬉しそうにはしゃぎながら箱に掛けられたリボンを解く。その姿を見て丈一郎もホッとした。
(どうにか気が逸れたか...)
そして、箱を開けた碧夢の瞳が見開かれ、きらきらと輝くのを見て、丈一郎は自分の選択が間違いではなかったと思った。
「すごい...素敵な時計...高そう...」
そう言いながら碧夢が箱から大切そうに取り出したのは、黒いベルトの腕時計だった。
趣味で腕時計を幾つか集めている丈一郎とは違い、碧夢には腕時計をする習慣が無い。それはおそらく、碧夢くらいの年代ならそう珍しくもない。時間はスマホを見れば確認出来るし、わざわざ時間確認をする為だけに腕時計を持つ必要性は無いからだ。それに、今は在宅で仕事をしている碧夢には、更に不要なもの...。それは丈一郎にもわかっていた。
しかし、丈一郎は腕時計は仕事をする上で大切なアイテムだと考えている。
今は若く、人に直接接触せずとも仕事が出来ている碧夢も、この先はわからない。何処かの会社に就職するかもしれないし、全く別の仕事がしたくなる日が来るかもしれない。そうなればリモートでは済まされない面接などもあるだろうし、もしフリーでやっていくにしても、案件によってはクライアントとの打ち合わせの席に着く事も出てくるだろう。
そんな改まった席には当然、それにそぐう装いが必要だ。そして、丈一郎はそういった場でのさり気ない自己アピールに、上質な小物は有効なアイテムだと考えている。
あまりにも分不相応な一点豪華主義は勿論いただけないが、少し背伸びしたくらいの良い時計を身につけるのは良い事だ。それによって自信もつくし、仕事のモチベーションも上がる―――。
...などというのは建前で、実際は丈一郎の趣味で見立てた物で碧夢を飾りたいだけだったのだが、それは言わぬが花だろう。
「うわ...僕、こんな高そうな時計初めて。すごく格好良いね...」
碧夢はピカピカの時計を手にのせてあらゆる角度から眺めては、ほうっと溜息を吐いた。時計自体は落ち着いたシンプルなデザインなのだが、よく見れば青い針が白い文字盤に映えて美しい。地味に見えるが、見る者が見れば洒落ていて高品質な品である事がわかるドイツ製の時計だ。せっかく一緒に迎える初めての誕生日プレゼントだからと張り込んだ。
丈一郎は碧夢の手のひらからその時計をそっと取り、彼の右手首に着けてやった。少し俯いた丈一郎の端正な顔。額にぱらりと落ちる前髪が色っぽく、伏せた睫毛が長く、碧夢はうっとりと夢見心地でそれを見つめた。
「碧夢もこれから先、仕事でもプライベートでもきちんとした服装で行かなきゃならない事が増えていくだろうから、これくらいのものは持っていても良いかと思ったんだ。
喜んでもらえて良かった」
時計を巻いた碧夢の細い手首を見て、丈一郎は満足気に微笑んだ。
「やっぱり良く似合う」
「...っ」
堪らず、碧夢は丈一郎の首に腕を巻き付かせて唇を奪う。弾力のある熱い唇は心地良く、碧夢は夢中で舌を割り入れて貪った。一瞬驚いていた丈一郎も、間もなくそれに応えて碧夢の腰を抱く。
暫くの間、ちゅくちゅくと唾液を啜り合う濡れた音が室内に響いた。
そうしてやっと唇を離した時、息が上がっていたのは丈一郎の方だった。そんな事は初めてで、丈一郎は戸惑いを隠せない。気づけば半勃ちになっている自分の下半身も、解せない。
「可愛い...丈一郎さん...感じちゃったんだ?」
すり、と股間を撫でられて、思わず吐息が漏れた。
「あゆ...」
「硬くなってる...熱いね」
「んっ...う...」
碧夢がスラックス越しのソレを、確かめるように握る。いつもならこれくらいの刺激で声を上げたりはしないのにと丈一郎は恥ずかしくなった。
「丈一郎さん、来て」
そんな様子を見ていた碧夢は、丈一郎の手を引いて、ダイニングに隣接するリビングのソファに誘導し、座らせた後、押し倒した。そして丈一郎の長い脚の間にがっつり体を滑り込ませたかと思うと、丈一郎のスラックスのベルトを外し、ジッパーを下ろして股間を寛げさせた。むくむくと頭をもたげてくる丈一郎のペニスは大きく、長い。それにうっとりと見蕩れて、碧夢は呟く。
「丈一郎さんはどこもかしこも芸術品みたいだよね...」
それを裏筋に吐息がかかるような至近距離で言い、亀頭の先端にちゅっと口づける。そうして、硬く張り詰めていくペニスをリアルタイムで眺めながら、表面に浮き出てきた血管を指先で辿る。 碧夢は明らかに丈一郎の昂りを愉しんでいて、それは明らかに今までの彼の言動とは違っていた。
いつもなら碧夢は、もっと恥じらいながら丈一郎に触れる。こんな風に体を愛でられるのも、視姦するように見つめられるのも、与えられる愛撫に声を漏らすのも、碧夢の方だった。
なのに、今日は全てが逆だ。
「本当に、なんて逞しいペニスに腰...この筋肉のしなりがたまんない」
そう口にしながら碧夢は、丈一郎の腹や腰に手を這わせ、未だスラックスに覆われている太腿を撫で上げた。
「ン...っ」
鼻から抜けるような声は、まるで自分のものではないようで丈一郎は下唇を噛み締めて声を耐えようとした。だがそれは碧夢に見咎められてしまった。
「ダメ。唇、歯で傷めちゃう。噛みたいなら僕の指を噛んどいて」
細い指が唇をこじ開け、口の中に捩じ込まれる。碧夢の指に傷など付けられる筈が無くて、丈一郎は口を閉じられなくなってしまった。
「もう噛まないでね?僕、丈一郎さんには猿轡なんて無粋なものはしたくないんだ。
...いや、丈一郎さんが望むならゆくゆくは...」
猿轡、と聞いて先ほど聞いた須賀谷の事を思い出した丈一郎は、慌てて首を縦に振った。次いで横にも。声は押さえたいが、確かに猿轡は嫌だ。何かこう、嫌だ。
「そう、わかった」
何故だか少し残念そうな碧夢は口から指を抜いてくれ、丈一郎はホッとした。
碧夢は丈一郎の足の間に
「じゃあ、こっからは思う存分、セクシーな声を聞かせてね」
そこからは、凄かった。
いつものセックスでしてくれるフェラチオはもっと拙かった筈では?とツッコミたくなるような超絶技巧。丈一郎のペニスは碧夢の舌と歯と唇に翻弄され、口を閉じる暇も無いくらいに声をあげる事になった。
「ああっ、ああ...あゆ、碧夢...ダメだ、そんな...ンンッ」
ダメだと口では言いつつも、碧夢のディープスロートに腰の動きが止められない。こんな事は初めてだった。しかも、碧夢も加減をする気は無いのか、口内では絶えず舌を蠢かせながらペニスを包み込み、唇で扱き、締め上げる。
堪らず喉奥で精を放つ事、3回。三十路の丈一郎はもう、搾り取られてバテる寸前だ。碧夢が丈一郎のペニスから残滓をちゅう、と吸い上げると、疲れ果てた丈一郎はびくんと全身を痙攣させて、ぐったりとソファに沈み込んだ。
「丈一郎さん、可愛い...」
碧夢は唇の端に残った白濁を舌で舐め取りながら、膝立ちになって満足そうに丈一郎を見下ろした。今やはだけたワイシャツと靴下だけの姿に剥かれている丈一郎は、全裸よりもいやらしく、しどけない。
碧夢は、片足をソファの背に掛けて足を開いたまま力無く胸元を上下させるだけの丈一郎の姿に、ごくりと喉を鳴らした。
(ううん、今日はまだ。まだだ)
本当はこのまま抱いてしまいたい。けれど、ソファなどで丈一郎の初めてを奪う気にはなれなかった。とはいえ、ベッドは先ほど須賀谷を懲らしめレイ〇したままの状態だ。
そんなベッドで丈一郎を抱きたくはない。
(あのベッド、早急に買い替えなきゃな...)
頭の中で、明日以降の行動をシュミレーションしながら、碧夢は身を屈めて汗に濡れた丈一郎の額にキスをした。
実は碧夢には、丈一郎にまだ話さなければならない事がある。
会社が倒産したのは本当だが、家賃滞納で追い出されたというのは嘘だ。そう言えば優しい丈一郎は、ウチにおいでと言ってくれると思った。碧夢はどうしても丈一郎と暮らしたかった。
フリーランスになったのも本当だが、あまり仕事が無さそうだというのは単なる丈一郎の思い込み。実際には以前の同僚達の伝てなどもあり、コンスタントに仕事はこなしている。よって収入もそれなりにあるのだが、碧夢の不運を不憫に思った丈一郎が家賃や生活費の受け取りを拒否し、尚且つ家事をしてくれているからと小遣いまでくれた為、碧夢の口座にはこの半年でかなりの貯蓄がなされている。
そういった事はおいおい白状していくとして、碧夢はその貯蓄を使って早急にベッドを新しく買い替えてしまうつもりだ。
(でもベッドって買ったら1週間くらいかかるんだっけ…下取りも頼まなきゃ)
それまでは我慢してあのベッドで寝起きするしかないだろう。須賀谷など床でヤッてしまえば良かったと反省するが、反省すべきところはそこではない事に碧夢は気づかない。
(でもまあ、楽しみは先になるほど大きくなるもんね)
丈一郎の汗ばんだ首筋を舐め上げながら、子猫のガワの脱げた狼は舌なめずりをしてほくそ笑んだのだった。
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こちらこそおつき合いありがとうございました
まあ碧夢、寝技の申し子ですのでね☺️
あと体力も実はめちゃくちゃあります...怖
素晴らしいイマジネーションでの幻視ありがとうございます。
こちらこそ感謝でございます😊🙏
ありがとうございます、近々掘られます☺️