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6 事実は小説よりも奇なりってこういう事
しおりを挟むそこからは碧夢の独壇場だった。
丈一郎の手前、日頃はキュートな猫を被っているものの、じつは碧夢はかなり力が強い。先天的な体躯には恵まれなかった碧夢だが、フィジカルは後天的な努力でも作れると言った父の教えを胸に刻み、柔術を辞めた後も平日の自主的な筋トレは欠かさなかった。
と言っても、やはり希望通りのムッキムキ筋肉は付かないのだが。
休日は...勿論、丈一郎の中の自分のプリきゃわイメージを崩す訳にはいかないから筋トレもお休みである。
それもこれも、丈一郎との関係を守る為...。碧夢は徹底していた。
しかし、丈一郎以外の男...しかも下心どころか邪心丸出しで襲いかかって来る不届き者に対しては、これまで通り容赦しない。
自分より遥かに体格の良い須賀谷の両手首を、碧夢は左手だけで頭上に纏めた。
「なっ...はァ?」
それに須賀谷は驚愕。まさかのまさか。友人の華奢な恋人をベッドに押し倒したと思ったら、胴体に細い両足が絡んで来た。その途端、目にも止まらぬ速さで視界が反転したかと思えば、次にはマウントを取られていたのだから、さもあろう。
目を白黒して、何が起きたか把握出来ずに、押さえられてビクともしない自分の腕と碧夢とを交互に見ている。
「???」
どういう事だ、と呆然としつつも、須賀谷は腕を引き抜こうと少し藻掻いた。だが、微妙に腕を動かしただけでも軋むように痛い。顔を顰めると、平坦な声が耳に響いた。
「無駄に動くと技かけて絞め落とすよ?」
「ヒッ」
さっきまでとは別人のような冷たい目の碧夢に見下ろされ、須賀谷は小さく悲鳴を上げた。
「な、何だ...これ...離せよ」
「うるさい。騒ぐな」
「ってえ!!」
ぎちっ、と須賀谷の腕と足に痛みが走った。何処がどうされてこんなに痛いのかわからない。
「信じられない。お前みたいな下衆が丈一郎さんの友達だなんて」
碧夢は嫌悪感丸出しで須賀谷を押さえながら、吐き捨てるように言った。突然豹変した碧夢の様子と軋むような体中の痛みに、須賀谷は眉を顰めながら唸る。体を捻る事も、ましてや逃れる事すら出来ないのが不思議だ。
何故、こんな小柄な男ひとり振り落とせないのか。が、馬乗りになった碧夢の方は、これだけぎっちりと須賀谷を押さえていても涼しい顔で、それがますます不可解だった。
「まあ、仕方ないか。クールに見えて案外お人好しだもんね、丈一郎さん。
そこがまた可愛いんだけど」
丈一郎の事を思い浮かべたのか、碧夢はそう言って表情を緩ませたが、それでもその力は緩まない。
ここに来てやっと、須賀谷は自分の状況の不味さを認識。
常に人生と他人を舐めて生きてきた須賀谷にも、碧夢が可愛らしいだけの普通の青年ではない事がわかったのだ。
「あ、碧夢、君?ちょっと落ち着こうよ...俺が悪かったからさ?」
引き攣りながらもへらりとした笑みを浮かべようとするが、額からは冷や汗が伝い落ちてくる。その様子に、碧夢は呆れながら返した。
「お前が落ち着けよ」
「...」
碧夢は内心の腸は煮えくり返ってはいたが、対処は冷静だ。テンパっているのは寧ろ焦っている須賀谷の方なのだが、このままではボコられてしまうと思っている須賀谷は必死だ。
「俺が悪かったよ。ちょっとした出来心だったんだ、碧夢君が可愛いから丈が羨ましくなって...」
「出来心にしてはいやに用意周到だったな」
丈一郎の居ない時間を狙って、オートロックを突破する為の言い訳まで用意して、と碧夢が言うと、須賀谷は目を泳がせた。
「手馴れてるよな。まさか、いつもこんな真似をしてたのか?」
「...」
「足りないか?ン?」
須賀谷は口ごもったが、無回答を許す気の無い碧夢はニコリと微笑んで、須賀谷の頸動脈に右手をかける。しかし、力を込める前に須賀谷は口を開いた。
「だってっ、丈に近づくから...っ」
「...あ?どういう意味だよ?」
首を傾げる碧夢に、須賀谷は続ける。
「俺は何年一緒にいたって丈の隣にはなれないのに、お前らみたいな連中は簡単にそこに収まってく!
面白くなかったんだよっ!!」
既に間延びも消えた、荒い物言い。しかしこれが本来の須賀谷なのだろうと碧夢は思ったが、それよりも気になったのは...。
「...お前、丈一郎さんの事、好きなの?」
「そうだよ!高校の頃からずっとな!だから腹が立つ!
一夜の遊びなら構わない、でも丈の隣を独占する奴は許せない!」
「へぇ」
なるほど。
更に締め上げて聞き出したところによれば、驚いた事にこのチャラチャラした三十路男は、どうやら学生の時分から丈一郎に片想いしていたらしい。しかし、丈一郎の好みは当時から、男女共に小柄で華奢なタイプ。バスケ部に所属していて、丈一郎とほぼと殆ど身長体格が変わらない自分に望みなど無いと、須賀谷は告白を諦めた。そんな事をして友人としてさえ気不味くなるのは嫌だったからだ。
しかし、好きな気持ちが消える訳ではない。
須賀谷は行き場の無い恋情を嫉妬に変えて、丈一郎の恋人になった者達に向けた。丈一郎の目の届かないところで彼ら彼女らを誘惑したのだ。
須賀谷はそれなりに容姿が良く学内でも人気があったので、大抵の者は落ちた。だが中には簡単には応じない者も、当然ながら居る。
そんな時には無理矢理関係を結び、写メを撮って丈一郎と別れるように脅した。
『写真と動画をネットにばら撒くぞ』
どれだけ頑固な者も、その言葉には屈した。
だから今日も、碧夢に同じ事をするつもりで丈一郎のマンションを訪れた...というのが須賀谷の言い分だった。
「...最低だな」
汚物を見るような目で、碧夢は吐き捨てた。だが、須賀谷も言い返す。
「お前みたいな奴には俺の気持ちはわからない!」
それを聞いて、ぐつぐつと沸騰しかけていた碧夢の怒りに火が点いた。
「は?犯罪者の気持ちなんかわかってたまるか。そりゃ今までの被害者が言いたい事だろうよ」
ぐっ、と言葉に詰まり下から睨み上げる須賀谷。その態度に、須賀谷がこれまでの所業を全く反省などしていないのが見て取れた碧夢は静かに告げた。
「...なるほど。そういう事なら、僕がお前の汚ねぇケツに突っ込んで拡散用の記念撮影をしても文句は無いって事だよな。お前、僕とヤりたくて来たんだもんな?」
碧夢の言葉に、最初はポカンとする須賀谷。だが意味を咀嚼すると、その顔からはみるみる血の気が引いていく。
「え...冗談、だよな?」
信じられないと唇を引き攣らせながらそう言った須賀谷を、碧夢は嗤い、冷たく答えた。
「冗談かどうかはこれからわかるんじゃないのか?」
それからは早かった。
碧夢は渾身の力で暴れ出した須賀谷をオモプラッタで何なく取り押さえ、その口に素早く猿轡をかけた。肩を極められた須賀谷に悲鳴をあげそうになるのも、それで封じられる。
後は簡単だった。
ズボンと下着だけを脱がせた須賀谷に、碧夢は申し訳程度の慣らしだけで突っ込んだ。見るからに素行不良な男のソコに素で突入する訳にはいかず、当然ながらゴムを使って。
そうして、激痛にくぐもった呻き声をあげて悶える須賀谷をスマホで動画撮影。勿論、涙と鼻水にまみれて汚れた情けない顔も収めた。
それから、須賀谷の心が折れて抵抗する気力を全て喪失した辺りで猿轡を外し、とっとと服を着るように命じた。駅まで引っ張っていき、念の為に裏手の路地に引き入れて、襟と腕を引き寄せ至近距離で視線を合わせて威嚇した。
「2度と、丈一郎さんに近づくな。破れば...わかってるな?」
自分のスマホを顔の横に翳しながら笑った碧夢を恐怖に満ちた目で見て、憔悴した須賀谷は壊れた首振り人形のように何度も頷いた。
「多分、さっき丈一郎さんが見たのは...その時だと思う」
鎮痛な面持ちで言う碧夢に、言葉を失う丈一郎。驚き、どころの騒ぎではない。情報過多で脳の回路が大渋滞だ。
だが、今の碧夢の言い方だと、自分が見たあの場面は...。
「...キス...」
「そんなもんアレとする訳ないでしょ」
「...あれ?」
「まあ、確かに陰になる場所だし、見る角度によってはそう見えたかもしれないけど...誓ってキスなんかしてないから」
碧夢がこれほどまでに語気を強めて断言するからには、おそらくそれが事実なのかもしれないが...何だか、上手く言えないが、話を聞いた今となっては、そんな事は些末な事に思えている。
衝撃の事実が多過ぎだ。
単純に、気のおけない友人と恋人の浮気だと思っていた15分前までが、とても懐かしい...と丈一郎は遠い目をした。
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