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宗像の家
しおりを挟む宗像家の中の冬弥の自室は離れにある。
高校在学時にΩ判定を受けてから、冬弥は家族に気を使って自宅敷地内にある離れに居を移していた。
母屋からも少し離れたそこは、生前 文筆家だった祖父が仕事部屋として使っていた、小さな古い和風建築の建物だ。
祖父は亡くなる迄の殆どをここで過ごしていた為、それなりに生活できる設備が整えられているし、何よりここに移ってからの方が冬弥は気楽に過ごせている。
たまに知られたくない客を連れ込んでも、家族とかち合わないのが良い。
別に両親や弟と不仲という訳ではない。なんなら普通に仲の良い家族であり、兄弟だと思う。
だからこそ、距離を取った。
Ωである事がわかっている以上、今は良くても何時、手を煩わせる事になるかわからない。
特に弟は大学受験も控えている。
それなりに優秀で素直で可愛い弟だ。
只、αなのだ。
万が一の事があるとは思わないが、もしも冬弥の匂いなどが感知できてしまうと気が散るかもしれない。
家族には心穏やかに過ごして欲しい。
特に、思春期真っ只中の弟には。
宗像家は、元々はα家系の分家である。
だからこそ、冬弥も当初、αであるものと疑いすらされなかった。
だが、蓋を開けてみればまさかのΩ。
将来は冬弥を当主に据えようと考えていた宗像家の本家筋の親戚達は ちょっとしたパニックになった。
なったのだが、それは一時的なものだった。
冬弥がそれ迄に積み上げて来た実績は
そこらのα以上のものであり、何より冬弥自身を見てしまえば、バース性などは些末な事に思えてしまう。
これだけの逸材ならば、別にΩでも…と。
冬弥にはそれだけの魅力とカリスマ性があった。
一見、世間的なΩの評価が見直されそうなものだが、実際にはそうもならない。
メディアに取り上げられる度、それは冬弥がイレギュラーな存在でしかない事を浮き彫りにするのを助長するばかりで、その他のΩ達の劣等感を更に深めただけだった。
結果、今でも冬弥にΩの友人知人は1人もいない。
ベッドサイドに2Lのミネラルウォーターだけを何本も開け、相変わらず冬弥は苦しんでいた。
受け身で待つ辛さを知らずに生きてきた冬弥には、この本格的なヒートはかなり堪えた。3日目にして相当窶れたのではないかと思う。
全身がずっと熱を持って疼き続けるので、発汗も凄い。
発情し続けるのに満たされないのがこれほど切ないなんて。
冬弥はもう自慰すら無駄に感じた。
だってどんなに出してもどんなに濡れた穴を擦っても達せないのだから。
そのもどかしさに気が狂いそうになるだけで、結局同じ状態が継続されるだけ。ひとつもラクになんかならない。
信奉者の中から適当に見繕って呼び出そうかとスマホに手を伸ばしかけては、最後の理性がそれを踏みとどまらせる、の繰り返し。
言い方は悪いが 通常、ヒート中のΩが理性を働かせられる事なんて殆ど無いと言われている。
それを鑑みれば、冬弥はやはりイレギュラーであると言えた。
だが今そこは問題ではない。
…この熱を、何とか鎮めたい…。
シャワーでも被れば少しは頭も体も冷えるかもしれない。
既にこの数日で性器と化してしまったアナルから指を引き抜いた。
吐く呼吸が熱い。
よろよろと壁伝いに風呂場へ向かうが、足が縺れるので通常よりも時間がかかった。
冷水でシャワーを出すと、その下に身を置いた。髪を伝い全身を濡らしていく水が心地良い。
暫くそうしていたが、体の芯から湧く熱が収まる事は無く、冬弥は再び途方に暮れた。
「…兄さん?」
不意に呼びかけられて心臓が止まりそうに驚いた。
だが体は普段のように動いてはくれず、鈍く声の主を見上げた。
「…純生…。」
久しぶりに見る弟が、心配そうにシャワーでずぶ濡れになった冬弥を見下ろしていた。
「何してんの、こんな…。風邪ひく。」
純生はシャワーを止めて冬弥を抱き起こそうとして、はた と動きを止めた。
「……か…。」
「…?」
純生の声は聞き取れなかった。
ずぶ濡れているのに熱を持った冬弥の体。
純生は兄の裸体に生唾を飲んでしまった自分を恥じると同時に、欲情している自分を認めざるを得なかった。
(既読、つかないなあ。)
普段、冬弥が1、2週間顔を見せないなんてザラにある事だが、それでもLINEくらいはきちんと返してくれる。
それが、ここ2、3日は既読すらつかない。
それなりに仲の良い兄弟だと思って兄を慕っている純生は、少し寂しくなった。
勉強の気晴らしに散歩にでも出ようかと思った。
ついでに、音沙汰の無い兄宅がどうなっているのか様子を見に来たのだが、一応見に来ただけで、本当に居るとは期待はしていなかった。
冬弥は不在時と来客時には必ず鍵を掛けている。だが、扉は開いた。
開いた瞬間、鼻を衝いた、痺れるほどに強烈で甘美な匂い。
最初、兄のものとはわからなかった。
わからずに、あまり耐性の無い下半身が漲ってしまった。
理性を失う前に、来客なのだろうと引き返そうとしたが、何時に無く乱暴に脱ぎ散らかされた靴は、兄のものしか無かった。
(まさか…。)
普段は失念していた兄のバース性を思い出した。
今でも信じられないが、尊敬してやまないあの兄はΩだったんだった、と。
ならば、これは、まさか
震える指で扉を閉め、内鍵を掛けた。
スニーカーを脱ぎ捨て、框を上がった。
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