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享楽主義者の宗旨替え
しおりを挟む宗像冬弥は別に清廉潔白でも禁欲的な訳でもない。
数々の輝かしい経歴と本人の眩い容姿などからやたら崇高なイメージを持たれがちだが、やる事は普通にやっている。
只、相手選びには結構慎重だった。
冬弥に惹かれる人間はバース性に関わらず数限りなくいるが、実際に接触を持とうと意図して近づいてくる人間は、余程の自信家か玉砕覚悟の人間だけだが そのへんは冬弥にとってはどちらもそんなに変わりはない。
容姿は美しいに越した事は無い。
しかし冬弥にとってはそこは最重要ではない。
見た目か内面、どちらかが好ましければ良い。
1番大事なのは、番になる事を要求しない事だ。後は、口が固くて、出来れば理性的だと更に良い。
トラブル防止の意味で、既婚者はそもそも相手にしない。
自分達の遊びの関係で傷つく誰かがいるのは後味の悪いものだから。
要するに、過分に要求せず、秘密を守れる独身の人間ならば、恋人にも番にもなれないが、セフレになるチャンスだけならそれなりにある、という事である。
実際、冬弥には中学時代から今日に至るまで、セフレだけは途切れず何人もいた。
番になれない関係に納得して足を踏み入れても、そこは人間。
段々冬弥に入れ込んで本気になる者も少なくない。だが大概は一向に進展しない関係に勝手に
見切りをつけて離れていく。
中には本人の意思ではなく、周りの重圧に負け、別に番を作って家庭を持って落ち着いた者もいる。
そして、秘密を守り続け、例え番になれなくても良いと、健気な誓いを胸に秘めたままずっと傍にいる者も。
あとは、セフレとしては最も適性の高い、単なる享楽主義者。
ここ1年の付き合いになる遊佐は、カテゴライズするならば元々は 享楽主義者に入っていた人間だった。
遊佐からしてみれば、初めは父親の代理で出席した退屈なパーティで、その場に不似合いなほど若くて飛び抜けた美貌の冬弥に興味本意で近づいただけ。
近くにいた知人に、あれは誰かと名前を聞いてみれば、聞いた名の有名人。
実物を見て、なるほどこれがあの宗像かと。
確かに圧倒される美貌だが、遊佐の持っていた宗像冬弥のイメージとは少しギャップがあった。
(どんなに優れていようが、ΩはΩじゃないか。
Ωにしては優秀だって事で騒がれてるだけだろ?)
αの中でも優秀とされる自分と並べば、霞むだろうーー。
見下す気持ちがあった。
只の時間潰しのつもりだった。
この会が終わる迄の。
なのに、言葉遊びで揶揄でもしてやろうかと近寄った冬弥と目が合うと、冬弥の唇の端が上がり、微かな微笑みを象った。
瞬間、全てが持っていかれた。
全てが冬弥に惹き込まれる。
音も周囲の全ても消えて、自分と冬弥のふたりきり…。そんな錯覚。
魂を抜かれる感覚とでも言うのか…。
真正面から見る冬弥の造形美は、神の叡智の結集かと思うほどに美しい。
人種も性別も善悪も超越して凄まじいまでに人心を蕩かすその微笑み。
脳髄が痺れた。
そして、それが今、自分に向けられているという、限りない優越感と愉悦。
(彼が欲しい。)
名刺と共にプライベートの連絡先を渡した。
彼が自分のΩだったならどんなに…。
思春期以来の高揚感だった。
直ぐに連絡が来ると踏んでいたのに、冬弥から連絡が来たのは1週間後だった。
それでも冬弥からすれば、それまでで最短の返信だったらしいが。
(まさかこの俺がこんなに待たされるとは。)
αの中でもかなり優れているという自負と、それに見合う傲慢さを身につけていた遊佐は、内心不満だった。
αとしての矜恃も、その1週間で結構傷ついていた。
そこに来ての、「電話大丈夫ですか?」という一言LINEの後の、直電。
スマホ越しの声に、心が震えた。
遊佐はとっくに恋の沼に落ちていた。
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