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‪不能の定義 (宗像冬弥)

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不能。

一口に不能と言っても、冬弥が使っている意味合いは、世間一般で認識されているのとは、少し違う。

男としての機能には全く問題は無い。
寧ろ、元気過ぎるくらい元気。
冬弥が言っているのは、Ωとしては、不能…なのではないか?

という意味だ。

つまり、通常、Ωに求められる事。
それは、中性的な美しさだったり華奢な体躯であったり α‬の生殖本能を刺激する妖艶なフェロモンであったり、、、。
とにかく、寄る辺無く頼りなく、手に入れたら囲い込んでしまえるような、そういう庇護欲を掻き立てられるような雰囲気であり、実際にもそうでなければならないというのが通例である。
勝手だな。

そして冬弥はΩでありながら、それらを一切所持していない。
これはバース性の概念に於いてはゆゆしき事態なのでは、とは思う。


こうして、‪α‬のセフレを抱いている時なんかは、特に。




男の部屋のベッドに座り、対面胡坐で抱き合う。
スラックス越しでもわかる、ハリのある尻っぺたを鷲掴んで揉みしだくとわかり易く腰をくねらせるのが可愛い。
男の尻は硬いというが、揉むには丁度良い弾力だと冬弥は思っている。
寧ろふにゃふにゃした頼りない女の柔肉より断然好み。
やはり自分の性嗜好は男の方に圧倒的に偏っているな、と冬弥は思った。

「…ん…とうや…それ、ヤダって…」
「だって俺、遊佐さんの尻、大好き。」
「…しょうがないな…。」

そのまま腰を抱き唇を重ねると途端にふにゃりと力が抜けた体を預けてくる。

(可愛い男だな…。)


遊佐 響、26歳、‪α‬。

とある一流企業の御曹司である。
遊佐とはナンパで知り合った。
ナンパと言っても、企業間の交流会みたいなちょっとしたパーティに知り合いの付き添いで行った時に名刺とプライベートな連絡先を渡されたから、身元ははっきりしている。

冬弥にとってはありふれた出会いのひとつに過ぎなかった。
だが今、こうして彼を抱いている理由はただひとつ。
単に遊佐が頗る好みのタイプだったからだ。

逞しい体に凛々しいシャープな顔立ちと、相反する快楽への従順さ。
全てを持てる‪α‬様然としているのにどこか隙がある。

冬弥はバース性に関わらず、男臭いタイプの美男子が好きなのだ。
そういう傲慢にも見える自信満々の男が、自分には可愛らしく繊細な表情を見せるのが。


唇はミントの清涼感に少し煙草の匂いと遊佐本人の唾液の匂いが混じっていて、それが生々しい。
首筋からは体臭混じりのオーデコロンの香り。
冬弥のブツは少しだけ反応してしまう。

舌を差し入れキスを深めていくとしっかりした眉根が寄せられて、やや苦しげな表情になるのに顔は紅潮していく。
必死で舌を絡めて自分を求めてくる姿に、普段の余裕は微塵も無い。

薄目でこちらをみつめてくる瞳も、既に情欲に濡れている。

「可愛いよ、響さん。」

閨事で、冬弥は相手の名を呼ぶ。
名字ではなく、名前をだ。

呼ばれた遊佐は、うっとりと目を閉じて、長い腕に更に力を込めて巻き付けてきた。
遊佐のネクタイをするりと抜いて、シャツのボタンを外す。
指先がその乳首に触れると、息を詰める音。
感じてしまったらしい遊佐が、照れたように呟く。
大人の男の恥じらう顔は、可愛い。

「お前だけだ、俺にそんな事を言うのは…。」
「それは光栄。」
「だから、」


可愛がってくれ。


遊佐の低い艶のあるバリトンが耳元で秘めやかに囁く。
甘い媚態を含む、誘う声。
Ωならひとたまりもなく濡れるだろう。
βや、‪α‬だって、この声に逆らえる人間がどれだけいるだろうか。
冬弥は遊佐の唇を指先で撫でながら、思う。

遊佐の強烈な‪α‬の匂いが部屋中に漂っている中、それを上回る強烈な“香り”が、冬弥の体から滲み出していく。

Ωのようでいて、そうでもないような、‪かといってα‬のものともまた違う、異質で、なのに五感を麻痺させ制圧するような“香り”。

それを感知した遊佐の目が恍惚と蕩ける。
腕だけではなく脚までも絡みつかせて、冬弥に強請る。

「はやく…、」

急かす遊佐の耳朶を甘やかすように食みながら、冬弥は思う。


(今夜も朝まで離してくれなさそうだなあ…。)



長く密な夜が始まる。





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