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しおりを挟む湊も俺に嫌われてるのは前から気づいてるみたいで、数年振りに顔を合わせても挨拶を交わす程度でそれぞれ用意された席に着いた。テーブルは隣だったけれど、視界に入れないようにしてさ。
流石に結婚式みたいな場で睨んじゃったりするのも良くないじゃん。でも見たらムカつくから(笑)。
従姉妹の式は予定時刻の通りに始まって、退屈に進行して、恙無く終わった。親戚の誰かがスピーチとかしてたけど、そんな親しくない従姉妹の結婚式にお義理で出席しただけだから適当にしか聞いてなくて。でも料理は悪くなかったな。
式の終わった後に双方の親戚一同で画像だか動画だかって言われて、面倒だけど一応それにも収まった。その後、親に帰るわって告げて他の参列者達に混ざって会場のホテルを出て、迎えの車が待ってるって言ってた辺りに向かって歩いてた。その頃には逃げようなんて考えはなかったんだよ。逃げたりしたら後が怖いじゃん。とりま傍で機嫌さえとっときゃ優しいし、何でも買ってくれるし不自由しないし。保身とメリットで割り切れたんだ。俺、そういう人間だからさ。
二次会とかは冗談じゃないからさっさとホテルを出たら、外はもう夕暮れ。俺は迎えが何処にいるのかと歩きながらキョロキョロしてて、ふと反対側の道路に湊が歩いてるのに気がついた。でも最初は、あれ?おじさんおばさんと帰らないんだ…と思っただけだった。で、なんつーかな、何となく目で追ってた。
ちょうど横断歩道に差し掛かった時に俺の姿をみつけた迎えの車がスッと横に停まってさ。仕方ないから乗ったんだけど、他の従兄弟達にも飲みに誘われてた湊がそれを断って1人で何処に行くのか気になって、送迎係の2人に頼んだんだ。
『アイツ俺の従兄弟なの。ちょっとだけ跡を尾行けたいんだけど、良い?』
って。
出かける時の監視役って言っても、1年も経ってりゃ何度も顔合わせて馴染んできてるもんでさ。
大体運転してる寡黙な強面の方が遠藤さん、助手席にいる茶髪眼鏡が結城さんって言うんだけど。
2人とも、久我先輩が俺を甘やかしてるの見てるから、俺の機嫌を損ねるのは良くないと思ってるみたいで多少の我儘は聞いてくれるんだよ。内心はイロの癖にって感じなんだろうけどね。
でまあ、とりま結城さんが降りてきて、俺と一緒についてきた。それで一緒に湊の跡を追ったんだけど、湊の奴、それからすぐに1人の男と落ち合った。
なんだ友達かよ、って拍子抜けしたわ。てっきり女とでも会うのかと思ってたからさ。
でも、違った。
湊とその男の距離感が友達のものではない事はすぐわかった。わかるんだよ、俺も男を相手にしてるからさ。性欲を含む感情を持った触れ方とか、そういうただならない雰囲気って。
湊と男は、手は繋がないまでもぴたっと寄り添って、同じ緩い歩調で歩いていた。その内、コインパーキングに入ってったから、どっちかが車停めてるのかなと思って見てたら、一台の車の運転席に男が乗り込んで、次いで助手席に湊が乗った。
で、キスだよ。
ビンゴ、って俺、笑いが込み上げてくるのを抑えられなかった。
あの湊が。成績優秀で品行方正で、親族みんなのご自慢の優等生の恋人が、男。
とうとう踏み外しやがった、って、おっかしくておかしくて。
キスはすぐに終わったから間に合わなかったけど、その後すぐにスマホのカメラ起動して男を撮影した。
湊の恋人、湊が好きな男、湊の大切なもの。
――湊の、弱み。
やっとあの涼しい顔をぐしゃぐしゃに歪ませてやれる。そう思った。
久我先輩のマンションに帰ってから、毎日考えたよ。どうにかこの、湊の男に接触したいなって。
考えてる内に、そういえば湊は何処でこの男と知り合ったんだろうって疑問が湧いてきた。
結婚式で親戚達と近況を聞かれてるのはチラチラ耳に入ってきてたけど、バイトはしてないって言うし。
あの面倒臭がりが進んで出会いを求めるとも思えないから、出会い系とかでもないだろうし。合コンとかすらうざがりそうだし、第一、合コンなら大抵相手は女子だよな。
(…大学の同級生?)
今現在一緒にいるって事は、その可能性が高いのかなあって思った。同じくらいの年齢だったし…。
大学で知り合ったのか、もっと前から出会ってたのかは知らないけど、あの『面倒臭い』が口癖の湊が付き合ってるくらいだから身近な人間だろう。
そうあたりをつけた俺は、湊の大学付近で張ってみる事にした。
『従兄弟の様子が変だっておじさんに相談されてさ。心配なんだ。』
理由をつけて買い物に出た時、護衛の2人にそう愚痴りながら、偶然を装って湊の行ってる大学の傍を何度か通った。
そうすると何度目かからは遠藤さんの方から、
『今日も通りましょうか?』
って言い出した。
まあでもさ。俺、湊が何時頃大学に行って何時頃出てくるなんて知らないから、どうしたもんかなと思ってた。そしたらある時、本当に折り良く湊が出てきたんだよ。あの時の男と一緒に。
勿論、尾行してもらった。
そしたら2人はあの日と同じように近くのパーキングに入ってった。どうやらあの男、大学には車で通学してるらしい。親が金持ってんだろな。
マジで湊って、恋愛でも要領良いんだなって小憎らしくてさ。俺なんか、好きでもない男に掘られる毎日だったから、余計にムカついた。湊は昔からずるい。
飄々としてる癖に、面倒臭がりの癖に、自由で。良いもんばっか持ってくし、持ってる。
運転席で笑いながら湊に話しかけてる男を見たよ。
悪くない顔だなと思った。
ちょっと遊んでやるか、って思える程度にはね。
もしブサイクだったら、そんな事は考えなかったと思う。俺、面食いだから。
『湊…アイツに騙されてるんじゃ…。』
って、護衛の2人の前で心配するみたいに呟いてみた。そしたら少し間があって、
『お調べしますか?』
結城さんの方が俺にそう言ったんだ。
アンタなら言ってくれると思ってた、って内心ほくそ笑んで、俺は答えた。
『良いの?頼める?こんなことで裕さんに頼むのも気が引けてさ…。』
暗に、久我先輩を煩わせたくないってニュアンスを込めてな。先輩、大学卒業してから、叔父さんの仕事を手伝ってるのか何かで、とにかく忙しそうだった。夜は8時には帰ってくるし、体力おばけだから元気なんだけどさ。
『お易い御用です。』
結城さんの言葉に、遠藤さんも頷いた。
『本当?助かる~…おばさん安心させてあげられるよぉ…ありがとね。』
媚びを含んだ俺の笑顔に、2人の顔が微妙に赤くなってくのがわかった。
な?チョロいだろ?男なんてこんなもん。
俺は顔に笑みを張り付けながら、胸の中では調べがついてからの接近の仕方を算段してたんだ。
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