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過去 2 (覚side)
しおりを挟むその子の恋人が卒業して大学に進学し、俺とその子は2年に進級した。
校内での保護者が居なくなったしその子は、時折寂しそうだったけれど、基本的には友達と一緒で楽しそうに過ごしてた。
俺は相変わらず離れた場所からあの子を見ていた。
その教室の前を通り掛かる時に席にいるのを見ると、よく頬杖をつきながら眠そうにぼんやりしている事があった。細い手首の内側の白さに胸が高鳴った。
廊下ですれ違った時の、細い髪の揺れるさまが頼りない美しさだった。
少年期特有の不思議な美しさだったのか、Ωという性特有の儚さなのかわからない。
恋人の匂いは薄いながらも相変わらずついていたけど、あの子自身の匂いが勝つようになったように思えて嬉しかった。
もう数日で夏休み、という時期。俺は憂鬱だった。
学校が休みという事は、暫くあの子に会えないという事だ。
だからといって、毎日あの子の家の付近を彷徨くなんて事をしたら不審者扱いされてバレた時に不味いし、何より迷惑になる。
あの子の近所に住んでる友人もいなかったし、我慢して週一くらい様子見にいこうかな、なんて考えていた。
そんな浮かない気分で過ごしていた、夏休み目前の週末。
あるニュースの速報がテレビ画面の上部に乗った。
『17歳の高校生が男に駅で火傷を負わされ救急搬送。犯人は依然逃走中。
警察は怨恨、通り魔などの可能性を視野に入れて捜査。』
最初は同い年の被害者に同情するだけの気持ちで観ていただけだった。
結構近くの駅だな、物騒な…程度の。
だがその数十分後、友人から回ってきたグループLIMEで俺はその事件の被害者が誰だったのかを知る。
たまたまその現場付近を通っていた友人がいたのだ。
その子とその恋人は、校内ではちょっとした名物カップルだったから、顔を知っている生徒は多い。
確かに叫び声の後倒れて、搬送されたのはその子だったと、目撃した友人は言った。
俺は頭を横から殴られたような衝撃を受けた。
月曜日、学校にあの子の姿は無く、全校集会で事件の事が教師から話された。
生徒達の反応は様々。多方は、同情し、事件を恐れるものだった。
その後数日、アンケートや聞き取り調査のようなものが回ってきた。
恨まれていた様子はなかったかとか、ストーカーされていた様子はなかったか、とか。
ストーカー、と印字された文字に俺はドキリとした。
ストーカーの仕業だと思われているのだろうか。
自分のやってきた事も、立派なストーカーに該当するという自覚はあった。けれど、ちらと聞いた、後をつけたり付き纏ったり、盗撮なんか俺は絶対していない。
あの子がそんな目に遭っていた事なんて知らなかった。
あの子に別の奴が嫌がらせをしていたのか。
周りの友達に心配かけないように、黙っていたんだろうか。
俺は好きな人にそんな事をしたりしない。
傷つけたりなんか、しない。
でも、もしかしてあの子は全部、同一犯の仕業で、火傷をさせた犯人もそいつだと思ってるんだろうか。
俺のやってた物品の交換は確かに本人からしたら気持ち悪い事だろうけれど、好きです、だけの手紙も怖かったんだろうけど、火傷なんて酷い事をするような奴と同じに思われてるのかな。
胸が苦しかった。
でも学校から帰り、冷静に思い出してみると、ストーキングの内容には俺のやった事は記されていなかった事に気づいた。
何故、あの子がそれらを警察に告げなかったのかはわからないけれど。
あの子は入院している、
どれくらい先になるかわからないけど、学校に来るようになったら謝ろう。
そう思って、夏休み明けを待った。
あの子は登校して来なかった。
何ヶ月経っても。
そして、冬が来る前、あの子が辞めたと聞いた。
その後暫く、あの子の動向は伝わって来なかった。
犯人も未だに捕まっていない。
あの子の家は知ってた。
後を尾行けた訳じゃない。
たまたまあの子の知り合いが俺の友人になったから、少し話題に出た時に聞いただけ。
そしてその時に、あの子とあの子の恋人が数軒挟んだだけの近所に住んでいる事を知った。
家は知っていたから何度か近くを通ってはみたけど、あの子に会える事は無かった。
けれど、様子を見に行き出して半年くらいして、夕方家の近所を通って見た時にたまたまあの子が出かけていくのを見たんだ。
久しぶりのあの子の姿は、大きなマスクで顔を覆われて、また少し痩せて見えた。
元気そうではなかったけれど、俺は嬉しくて少し涙ぐんじゃったよ。
でも、何だか様子が変だなと思ったんだ。
犯人も捕まってないし、見たとこ1人みたいだし、心配だった。
だからその日初めて後を尾行けてみた。
あくまで護衛、って気持ちで。
そしてそんな事が何度かあってから、俺はあの子が何をしているのか知ったのだ。
毎回違う待ち合わせ相手。
会って間もなく別れる。
帰っていく数人を捕まえて聞いてみた。
あの子は会員制の出会い系のサイトを利用して、番の相手をさがしていた。
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