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植え付けられた恋の種

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家に入る迄見とくから早く入りな、と言われて手を振りながら玄関に入った。
急いで階段を上がり、2階の自室に入ると電気を点けて窓のカーテンを開ける。
覚は車に向かって歩いていたけど、電気が点いた事に気づいたのか振り返って、こっちに笑顔で手を振る。


(あ、好きだ……。)


覚が車に戻ると直に発進音が聞こえ、走り去る音。

車が去っていくのが見える位置なら良かったのに、と思って ハッとする。

俺って、チョロい。

初めて会った人にたった数時間、優しくされてまんまと好きにさせられるなんて。

幼馴染みの彼とは小さい頃から一緒で、本当に自然に一緒にいるのが普通になっていたから、ときめくような恋とかドキドキとか、そういうのを俺は知らなかった。
彼の事は好きだしそれで良いと思ってたけど、何かこれは…、何だか彼の時とは全然違う。

熱烈に求められる感じとか、強引な迄の優しさとか、まるで自分がすごく価値ある美しいものになったような、ふわふわした気持ちになった。
覚が王子様みたいに綺麗で素敵だからかも。


(…キス、しちゃった…。)


欲しい欲しいと、覚の目は言っていた。
唇からも伝わってきた、覚の欲。

覚は本当に俺を欲しがっている。


ーーこんな、醜い俺を、可愛いって…。好きだって。ーー


胸の奥に灯った熱が、どんどん大きくなる。

俺は、覚と番になる運命なのかな。

少なくとも、幼馴染みは俺の運命じゃなかったんだろう。 





シャワーから帰って来てスマホを見ると、覚から 帰ったよとLIMEが来てた。
もう5分も前…しまったァ…。

急いで返事を返す。

『おかえり。
今日は本当に楽しかった。
ありがとう。
またオムライス食べに行きたいな。』

…図々しかったかな…。

直ぐに既読がついて返事が来た。

『美味しいとこ、たくさん連れて行きたいな。
緋夜が楽しくなる事、いっぱいしようね。』

俺は胸がいっぱいになった。

俺が、楽しくなる事。

覚って、俺を優先してくれるのか。

ドキドキが止まらなくなって顔に熱が集まる。
堪らなくなって手のひらで口を押さえた。


どうしよう、こんなにされたら俺、マジで覚の事ガッツリ好きになって嵌っちゃう。

何なんだ、モテ男ってこんな風に女の子とか落としてんの?

一夜の夢とかじゃ、ないよな。
あんなαが、本当に俺の番になってくれるのか?
俺を番にしてくれる?


ダメだ、上手く頭が回らない。



『ありがとう、おやすみ。』

『おやすみ、またね。
好きだよ、緋夜。』


文字だけなのにカッと体が熱くなる。


「も、もう…なんなんだよ…急に距離詰めすぎ…。」


俺はどう返して良いかわからなくて、ありがとうとだけ返してLIMEを閉じてしまった。

ありがとうって何だ。
なんか凄く上からじゃん、俺。

覚、気を悪くしないかな。
俺も、とか返せば良かった?

でも、でも未だ恥ずかしい…。


それでも、覚の気持ちが勘違いじゃなくて安心してる自分がいる。


布団の中で1人で悶えてた俺は、久々に穏やかな気持ちで安眠できた。













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