10 / 30
植え付けられた恋の種
しおりを挟む家に入る迄見とくから早く入りな、と言われて手を振りながら玄関に入った。
急いで階段を上がり、2階の自室に入ると電気を点けて窓のカーテンを開ける。
覚は車に向かって歩いていたけど、電気が点いた事に気づいたのか振り返って、こっちに笑顔で手を振る。
(あ、好きだ……。)
覚が車に戻ると直に発進音が聞こえ、走り去る音。
車が去っていくのが見える位置なら良かったのに、と思って ハッとする。
俺って、チョロい。
初めて会った人にたった数時間、優しくされてまんまと好きにさせられるなんて。
幼馴染みの彼とは小さい頃から一緒で、本当に自然に一緒にいるのが普通になっていたから、ときめくような恋とかドキドキとか、そういうのを俺は知らなかった。
彼の事は好きだしそれで良いと思ってたけど、何かこれは…、何だか彼の時とは全然違う。
熱烈に求められる感じとか、強引な迄の優しさとか、まるで自分がすごく価値ある美しいものになったような、ふわふわした気持ちになった。
覚が王子様みたいに綺麗で素敵だからかも。
(…キス、しちゃった…。)
欲しい欲しいと、覚の目は言っていた。
唇からも伝わってきた、覚の欲。
覚は本当に俺を欲しがっている。
ーーこんな、醜い俺を、可愛いって…。好きだって。ーー
胸の奥に灯った熱が、どんどん大きくなる。
俺は、覚と番になる運命なのかな。
少なくとも、幼馴染みは俺の運命じゃなかったんだろう。
シャワーから帰って来てスマホを見ると、覚から 帰ったよとLIMEが来てた。
もう5分も前…しまったァ…。
急いで返事を返す。
『おかえり。
今日は本当に楽しかった。
ありがとう。
またオムライス食べに行きたいな。』
…図々しかったかな…。
直ぐに既読がついて返事が来た。
『美味しいとこ、たくさん連れて行きたいな。
緋夜が楽しくなる事、いっぱいしようね。』
俺は胸がいっぱいになった。
俺が、楽しくなる事。
覚って、俺を優先してくれるのか。
ドキドキが止まらなくなって顔に熱が集まる。
堪らなくなって手のひらで口を押さえた。
どうしよう、こんなにされたら俺、マジで覚の事ガッツリ好きになって嵌っちゃう。
何なんだ、モテ男ってこんな風に女の子とか落としてんの?
一夜の夢とかじゃ、ないよな。
あんなαが、本当に俺の番になってくれるのか?
俺を番にしてくれる?
ダメだ、上手く頭が回らない。
『ありがとう、おやすみ。』
『おやすみ、またね。
好きだよ、緋夜。』
文字だけなのにカッと体が熱くなる。
「も、もう…なんなんだよ…急に距離詰めすぎ…。」
俺はどう返して良いかわからなくて、ありがとうとだけ返してLIMEを閉じてしまった。
ありがとうって何だ。
なんか凄く上からじゃん、俺。
覚、気を悪くしないかな。
俺も、とか返せば良かった?
でも、でも未だ恥ずかしい…。
それでも、覚の気持ちが勘違いじゃなくて安心してる自分がいる。
布団の中で1人で悶えてた俺は、久々に穏やかな気持ちで安眠できた。
26
お気に入りに追加
934
あなたにおすすめの小説
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
エンシェントリリー
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。
なぜか大好きな親友に告白されました
結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。
ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる