番、募集中。

Q.➽

文字の大きさ
上 下
9 / 30

選んで。

しおりを挟む




カフェを出て、車で来ていたという覚は 俺を自宅近く迄送ってくれた。

初対面の男の車になんか、と思われるかもしれないが、俺は覚に言われた事でポーッとしてしまっていたし、何だかふわふわした気持ちのまま助手席に乗せられていたって感じだ。

運転中も覚は凄く優しくて、ついでに少し夜景ドライブしようと言って1番近い海迄行ったし、途中一緒にコンビニに寄って飲み物を買ったりしたのも楽しかった。
初対面なのに随分前から一緒にいたように錯覚するほど、俺達は馴染んでいた。

何だろう、凄く安心する。

自分を守るαがいる感覚をこの1日で思い出してしまった。

もう二度と、こんな事を言ってくれるαは現れないかもしれない、という打算も無かった訳じゃないけれど、何より俺のΩの部分が、覚を離すなと強く訴えている。

もう直ぐ家の近所、という所で俺は覚に言った。


「覚は本当に、俺で良いの?」

覚は何も言わず、少しして俺の家の手前の曲がり角で車を停めた。
カーナビに住所を入れていたから、俺が家族に見られたくないかと気を使ってそうしたんだろう。

「緋夜。」

「…うん。」

「俺は、緋夜が好きになった。」

 「え」

それは、幾らなんでも早くないだろうか。
でも言われてみれば、俺だってもう覚に好感を抱いている。

「会ったばかりで、変だと思うだろ?俺も思ってる。
でも、惹かれて堪らないんだ。どうしようもない。」

「…変だなんて、そんな…。」


もう、思わないよ。


「緋夜に、選んで欲しい。

    俺を。」

「……うん。」


幼馴染みしか知らない俺は、こんな熱烈な求愛をされた事なんてない。
それも、相手がこんな、同年代の超イケメンだなんて。
乙女ゲーみたいな展開が自分の身に起こるなんて、昨日迄は考えもしなかった。



「俺、で…、良ければ…お願いします。」

「緋夜、本当?」

覚の声が弾んでいる。

少し恥ずかしいし、照れる。
俺みたいな傷物でも、そんなに喜んで、望んでくれるのか。

帰り道で我に返って後悔したりとかしないかな、覚。
正直、それが不安だ。

何時もなら、やっぱりなって流せるだろうけど、覚はそうなったら嫌だなと思うくらいには、俺は覚を好きになりかけている。


「緋夜、嬉しいよ。ありがとう。 大事にするから。」

「うん。よろしく、お願いします。」 

照れて少しの間下を向いていたら、覚がスマホを出して、LIME教えて、と言うので俺もスマホを出して覚のQRコードを読み取った。

「これで、何時でも連絡取れるね。電話しても良い?」

「ん、大丈夫。」

覚は嬉しそうに頷いた。
俺も嬉しい。もう少し一緒に居たい気もある。
でも、流石に初日だし、そろそろ…。


「今日は、本当にありがとう。
久しぶりにすごく楽しかった。またね。」


時間は22時過ぎ。そこそこの時間だ。
あまり遅いと、あまり干渉してこない両親とはいえ、流石に心配をかけてしまうだろう。

車を降りて手を振りながら歩くと、車の中から振り返していた覚も何故か降りて来てしまった。
何か、言い忘れかな。
LIMEでも良いのに、と思ったら、数歩で追い付いてきた覚に抱きしめられた。

驚いた。
驚いたけど、心地良い。
忘れていた、この感じ。

俺が拒否しない事に覚は微笑んで、俺のマスクを指で外した。

「緋夜、好きだよ。」


覚の端正な顔が至近距離で目を閉じて近づいてくる。


早い、未だ早過ぎる。

そう思うのに、俺の唇はすんなりとそれを受け入れた。

気持ち良い、覚の唇の弾力。
熱。匂い。

角度を変えて何度も重ねられる内に密着の度合いが高まる。


(…、このまま、噛んでくれないかな…。)

俺も俺だ。覚の事、言えない。

数分、そうしていただろうか。

覚は落ち着いたのか、ゴメンと照れながら俺のマスクを着けてくれた。
今度からは気をつけるから、なんて言いながら。

今度もあるのか、とぼおっとなった頭で思う。嬉しい。

路チューなんて絶対する事なんかないと思っていた事を、まさか自分が…と、今日はびっくりする事だらけだ。


「じゃあ、気をつけてね。
また連絡する。」

「直ぐそこだよ。
覚の方こそ、運転気をつけて。
後でLIMEするね。」


そう言いながらやっと離れ、今度こそサヨナラと手を振って歩き出した。


まさかそれを、よりによって幼馴染みに見られていたなんて。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

エンシェントリリー

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

なぜか大好きな親友に告白されました

結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。 ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。

処理中です...