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選んで。
しおりを挟むカフェを出て、車で来ていたという覚は 俺を自宅近く迄送ってくれた。
初対面の男の車になんか、と思われるかもしれないが、俺は覚に言われた事でポーッとしてしまっていたし、何だかふわふわした気持ちのまま助手席に乗せられていたって感じだ。
運転中も覚は凄く優しくて、ついでに少し夜景ドライブしようと言って1番近い海迄行ったし、途中一緒にコンビニに寄って飲み物を買ったりしたのも楽しかった。
初対面なのに随分前から一緒にいたように錯覚するほど、俺達は馴染んでいた。
何だろう、凄く安心する。
自分を守るαがいる感覚をこの1日で思い出してしまった。
もう二度と、こんな事を言ってくれるαは現れないかもしれない、という打算も無かった訳じゃないけれど、何より俺のΩの部分が、覚を離すなと強く訴えている。
もう直ぐ家の近所、という所で俺は覚に言った。
「覚は本当に、俺で良いの?」
覚は何も言わず、少しして俺の家の手前の曲がり角で車を停めた。
カーナビに住所を入れていたから、俺が家族に見られたくないかと気を使ってそうしたんだろう。
「緋夜。」
「…うん。」
「俺は、緋夜が好きになった。」
「え」
それは、幾らなんでも早くないだろうか。
でも言われてみれば、俺だってもう覚に好感を抱いている。
「会ったばかりで、変だと思うだろ?俺も思ってる。
でも、惹かれて堪らないんだ。どうしようもない。」
「…変だなんて、そんな…。」
もう、思わないよ。
「緋夜に、選んで欲しい。
俺を。」
「……うん。」
幼馴染みしか知らない俺は、こんな熱烈な求愛をされた事なんてない。
それも、相手がこんな、同年代の超イケメンだなんて。
乙女ゲーみたいな展開が自分の身に起こるなんて、昨日迄は考えもしなかった。
「俺、で…、良ければ…お願いします。」
「緋夜、本当?」
覚の声が弾んでいる。
少し恥ずかしいし、照れる。
俺みたいな傷物でも、そんなに喜んで、望んでくれるのか。
帰り道で我に返って後悔したりとかしないかな、覚。
正直、それが不安だ。
何時もなら、やっぱりなって流せるだろうけど、覚はそうなったら嫌だなと思うくらいには、俺は覚を好きになりかけている。
「緋夜、嬉しいよ。ありがとう。 大事にするから。」
「うん。よろしく、お願いします。」
照れて少しの間下を向いていたら、覚がスマホを出して、LIME教えて、と言うので俺もスマホを出して覚のQRコードを読み取った。
「これで、何時でも連絡取れるね。電話しても良い?」
「ん、大丈夫。」
覚は嬉しそうに頷いた。
俺も嬉しい。もう少し一緒に居たい気もある。
でも、流石に初日だし、そろそろ…。
「今日は、本当にありがとう。
久しぶりにすごく楽しかった。またね。」
時間は22時過ぎ。そこそこの時間だ。
あまり遅いと、あまり干渉してこない両親とはいえ、流石に心配をかけてしまうだろう。
車を降りて手を振りながら歩くと、車の中から振り返していた覚も何故か降りて来てしまった。
何か、言い忘れかな。
LIMEでも良いのに、と思ったら、数歩で追い付いてきた覚に抱きしめられた。
驚いた。
驚いたけど、心地良い。
忘れていた、この感じ。
俺が拒否しない事に覚は微笑んで、俺のマスクを指で外した。
「緋夜、好きだよ。」
覚の端正な顔が至近距離で目を閉じて近づいてくる。
早い、未だ早過ぎる。
そう思うのに、俺の唇はすんなりとそれを受け入れた。
気持ち良い、覚の唇の弾力。
熱。匂い。
角度を変えて何度も重ねられる内に密着の度合いが高まる。
(…、このまま、噛んでくれないかな…。)
俺も俺だ。覚の事、言えない。
数分、そうしていただろうか。
覚は落ち着いたのか、ゴメンと照れながら俺のマスクを着けてくれた。
今度からは気をつけるから、なんて言いながら。
今度もあるのか、とぼおっとなった頭で思う。嬉しい。
路チューなんて絶対する事なんかないと思っていた事を、まさか自分が…と、今日はびっくりする事だらけだ。
「じゃあ、気をつけてね。
また連絡する。」
「直ぐそこだよ。
覚の方こそ、運転気をつけて。
後でLIMEするね。」
そう言いながらやっと離れ、今度こそサヨナラと手を振って歩き出した。
まさかそれを、よりによって幼馴染みに見られていたなんて。
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