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待ち合わせ
しおりを挟む同い年のαなら、あまり気負わない方が良いかもしれない。
どうせ望み薄だ。
俺とαなら、選択肢も決定権も全て相手にあるのだから。
そう、最初から期待せず待ち合わせた場所に、相手は時間よりも早く来ていた。
何時も10分は早く来るようにしている俺よりも早く。
相手も俺が同い年のΩとしか知らないので、妙に期待させてしまっているのだと思い 何時も以上に申し訳無く思った。
「アメさん、ですよね。」
目印にと告げたブルーのリュックと、黒いコートに黒のマスク。
声を掛けられ相手を見ると、茶色いコートに黒のパンツ、黒いバッグ、赤いシューズ。
聞いていた服装と合致する。
「リョウタさんですか。初めまして。」
俺は挨拶をしてから聞いた。
「俺、実は顔に火傷があるんです。黙っててすみません。」
「火傷ですか。わかりました。」
(わかりました?)
どう捉えて良い言葉なのだろうか。
あっても大丈夫、って事?
少しマスクをズラす。
手のひらで隠れて他の通行人には見えない筈だが、リョウタにははっきり火傷痕が見えている筈だった。
びっくりさせるだろうが、先に告げておかねば判断を仰げない。
するとその時、突然リョウタの右手が伸びてきて、頬を撫でた。
こんな事は初めてで、俺は呆気に取られ動くのを忘れてしまった。
「……もう、痛くは?」
「…………無いです。」
「じゃあ、移動しましょうか。」
「……え、」
「知ってる店を予約してあります。取り敢えずそこに行きましょう。」
「は……はあ…。」
こんな事は初めてだ。
完全に相手のペースに持ち込まれ、俺は毒気を抜かれて着いていくしかなかった。
リョウタは俺の火傷痕に顔色を変えなかった。
驚きも嫌悪も、その顔には無かった。
俺にはそれが嬉しかった。
連れていかれたのは南国調のカフェ。個室スペースがあって、俺達はそこに通された。
正直、助かる。
座って飲み物をオーダーする時に、
「お腹空いてませんか?ここ、オムライス美味しいですよ。」
と言われ、オムライスが好物な俺はまんまと頷いてしまう。
店員が立ち去った後、俺はマスクを外すか否か迷っていた。
拒否感は感じなかった。
食事を勧めたという事は、外しても大丈夫という事なんだろう。
でも、やっぱり飯が不味くなる、なんて言われたら?
判断に迷っていると、
「大丈夫ですから、ラクにしてください。外しても、俺は気にしないので。」
と言われた。
そんなにわかり易かったのか、俺。
でもこれではっきりした。
リョウタには、偏見は無いようだ。
少なくとも、これを理由に差別したりする人種ではない。
誰もが目を背けるか逃げ出す事も、彼にとっては俺を拒否する理由にはならないようだった。
リョウタは同い歳とは思えない程落ち着いていた。
容姿は優男、と言って良い程、優しげで整った顔をしている。
鼻梁が高く、唇が少し厚めでセクシー。
長身できっちり筋肉のついた体躯。
これぞα、というテンプレなαだ。
これ、絶対番じゃなくても誰かいるだろ、と思った。
何故あんなサイトなんか利用したのか不思議でならない。
俺はマスクを外し、
「何故、君のような人が、あんなサイトを?」
と思わず質問してしまった。
あまりに、不思議過ぎて聞かずにはいられなかった。
するとリョウタは微笑んで答えた。
「運命の人に、何処でどんな出会い方をするかわからないじゃない?」
なるほどな…。
でも俺みたいなのと出会ってちゃ、世話ないんじゃないかなと少しおかしくなって笑ってしまったら、リョウタはそんな俺を見て目をみはり、
「可愛いな、アメさん。
名前、教えてよ。」
と、思いもよらない言葉を放ったのだった。
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