4 / 30
淋しい
しおりを挟む幼馴染みの彼が番を作った事を知ったその夜、俺はとある交流サイトのアプリをインストールした。
未だ番を持たないα達が多数登録している、とされるサイトだ。
実際にはどんなものなのかはわからない。でも実際に、ここで繋がりカップルが成立した番もいるのはSNSでぼちぼち見かけた。
中には 番がいながらも独り身と詐称して遊び相手を探している悪質なαもいるらしいから、見極めは大事かもしれない。
でも中には真剣に相手を探している場合もあるからこそ、番成立という結果もあるんだろう。
この時、俺は半ばやけっぱちだった。いや、やけっぱちな気持ちだけれど、求めていたのだ。
こんな俺でも、良いと言ってくれる誰かがいないか。
醜い火傷痕のある、なのに何も人より秀でる所もない、ちっぽけなゴミみたいな存在の俺。
親にも友人達にも心配をかけて、面倒をかけて、予定されていた将来設計も無くなって、今ではもう、未来なんか想像も出来ない。
そんな、何故生きているのかわからないような俺でも、拾ってくれるような誰か。
長く同じ時を一緒に歩んだ幼馴染みですらも、見放す瑕疵物件。優しい彼ですら、見放した醜い俺を、どうか。
そんな俺を、彼のように…いや、彼よりも優しく包んでくれたなら、俺は俺の持つ全てでその人を愛するのに。
年齢とバース性を書き込めば、それなりにDMは届いた。
全員に返事をしてみて、出来るだけ優しく返事をくれる人を選んで遣り取りを続けた。
少し親しくなってくると、顔が知りたいと言われ、隠しもしていない自撮りを送るとそれからぱったり返事が来なくなる人もいた。
仕方ない。そういう事も想定済みだ。
顔画像を見ても会いたいという人も、当日になればやはり現れなかった。最初から冷やかしのつもりなのか、画像を見てやはりやめておこうと思い直したのかはわからない。
顔画像を求めないまま、会ってみたいという人数人とそれぞれ待ち合わせしてみた。
皆現れはしたが、俺がマスクをズラした途端、半数が急用を思い出した。半数は一緒にカフェに行ってみたが、やはり話は弾まないまま早々に解散となり、今のところ全敗記録更新中だ。
俺もいい加減、馬鹿らしい事をしているとわかっている。やめてしまおうかとも思った。
でも、彼と過ごした日々を思い出すと、どうしても人恋しくなるのだ。
友人はいる。決して多くはないが、以前と変わらず接してくれる。あくまでメッセージアプリ上だから、実際に友人らが俺の事をどう思っているのかは、わからない。
そもそもが、そんなに深い付き合いでもなかった。
そういう、友人達では埋められない、俺のΩとしての部分。
守られたい、頼りたい、可愛がられたい、甘えたい、愛されたい。
そこを当たり前のように満たしてくれていた幼馴染みの存在はあまりにも大きく、抜けられてしまった部分はぽっかりと空いて塞がらない。
なのに彼の新たな婚約で、何時かは思い直してくれるのでは、という微かな望みも絶たれた。
物心ついた頃から歳上の幼馴染みに庇護され、ひとりに慣れていなかった俺は、今ひとりだ。今迄が恵まれ過ぎていたのだ。彼のようなαを、独り占めしていたのだから。
だから、ひとりぼっちの醜い俺は、淋しいのだ。淋しいから、誰かを求めているのだ。
彼以上に俺を受け入れ、受け止めてくれる、誰かを。
38
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説

欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点

【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

なぜか大好きな親友に告白されました
結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。
ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。

運命の人じゃないけど。
加地トモカズ
BL
αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。
しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。
※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる