ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

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85 最終回

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心地良い疲れに身を任せて目を閉じて、再び目覚めた時、天井がとっても高く見えた。

「……キュ(あれ)…?」

声を出した時、違和感。はっと何かに気づいて手を見たら、久しぶりに見るモフモフ。…爪…あ、うん、出るな。
ガバッと跳ね起きようとしたのに、全身だるくて起きられない。

「…キュッ(うそ)……」

どうやら僕は、久し振りに獣姿に戻ってしまっていたようだ。前に戻ったのは確か…みずき君ちだったな。アレって確か高一の時だよね。メンタルダメージをMAXに負っちゃった時。今回は幸せいっぱいで眠りについた筈だけど、何で…。
何とか状況把握をしようと頭を巡らせる。

「………フー…?」

天井を見たまま寝っ転がってたら、部屋のドアが開く音がして、誰かが入ってくる気配。みずき君だ!
首だけをドアの方に向けると、スウェットパンツ姿のみずき君。裸の上半身に肩からタオルを掛けた格好で、手にはトレイを持っている。

「…あれ?ラン、起きたのか。ちょうど良かった」

シャワーでも浴びてきたのか、みずき君の髪は少し湿ってるみたい。薄らいだフェロモンの中に桃のボディソープの香りがする。リンゴに桃って相性良いよね。
でも、ちょうど良かったって何だろう?あれ?何か他にも良い匂いがする…。

みずき君はベッドに大の字の僕をひょいっと片腕の中に抱き上げた。ふわ…湯上りの良い匂い…。

「キュルル……」

リラックスするな~…胸板しっとり気持ち良い~…。

………ハッ!

そうじゃなくて!僕、何でこうなってるの?!

腕の中から見上げると、みずき君はすんごく優しい慈愛の眼差しで僕を見下ろしていた。

「ラン、お疲れ様。そんなになるまで頑張ってくれたんだな。俺は嬉しい。」

にっこり。
ふわわわ……きれーい…

じゃなくて!!

みずき君に褒められたのは嬉しいけど、どういう事なの…?
僕は首の辺りをみずき君の指でモシャモシャされながら、気持ち良さに負けまいとみずき君を見つめた。

「初めてだからお互い加減がわからなかったよな。体力ゴッソリ削られて一時的に戻ったんだろう。睡眠取って飯食ってれば自然に戻る筈だ。」

「フゥー……」

その言葉に思わず安堵の吐息を吐く僕。なるほどね。確かにね。獣種の違いや普段の体格から見ても、僕とみずき君では基礎体力値からして違う。僕は体力使い果たしちゃったんだな。
でも!途中からよくわかんなくなっちゃって、とにかく夢中だったから記憶が断片的だけど、僕達、無事に番になったんだよね!!

僕、やればできた子!!

悦に入ってた僕に、みずき君は言った。

「さつまいもとリンゴ煮たのとバナナ持ってきたけど、食べる?」

「キューーー!!!」

10秒後には、僕はみずき君の腕に抱えられたまま、スプーンで甘いおいもを口に運んでもらってモグモグしていた。

……あれ?僕、介護されてる?
普通はさ、エッチとかヒート後ってさ、体が強靭で体力があるアルファの方が、精根尽き果てたオメガを世話してない?だって僕、見たよ!少しでもセックスの参考になればってネット検索したらヒットした、男性アルファと男性オメガのエッチな恋愛マンガ。どのマンガでも、エッチ後はもれなくアルファがオメガを抱き上げてお風呂に入れたり食事させたりしてたもん。

(…これは…逆、だな?)

でも、甘く煮られたリンゴとおいもおいしい。相乗効果で3倍おいしい。
体は動かないけど口はもりもり元気に食べる僕に、みずき君は蕩けるような笑顔で言った。

「おいしいか?よーしよしよし。可愛いなあ、ラン」

「…………」

おかしい。僕がみずき君によーしよしする計画だったのに。
こんな状況、想定してなかったよ…。



みずき君の手厚い介…お世話で、僕が人型に戻れたのは翌日の昼前。夕方にはみずき君の家族が帰ってきたから、ぎりセーフだった。おじさんに見られたらまたエラい目に遭うとこだった。

僕はみずき君と番になれた事をおじさんおばさん、つまりみずき君のご両親に報告。
おめでとうって言ってもらえて、照れ臭くてみずき君と顔を見合わせて笑った。今度、僕の両親も一緒に食事会でもしようかって話になった。
大学生で番になるカップルは多いけど、皆がすぐに一緒に住む訳じゃない。大体は先に番契約届けを出しといて、卒業して就職が決まってから正式に籍を入れて独立して新居を構える。だから僕とみずき君もそうするつもり。
それまではヒートの間、みずき君ちに滞在する事になるかも。


送りついでに僕の両親にも2人で報告しようって話になって、夜には僕んちに向かった。
6日振りに帰った僕がみずき君と一緒なのを見て、お父さんとお母さんは察してくれたみたい。お父さんは何故か鼻を啜って泣き始めるし、お母さんは『お祝いしなきゃね~』なんて言いながらお父さんの背中をバンバン叩いてた。

「おめでとう。末永く、嵐太をよろしくね」

お母さんがみずき君にそう言って、みずき君は少し目を赤くして頷いてた。これじゃまるで僕がお嫁に行くみたい。僕達は番だけどどっちも男だから、嫁に行くも何も無いんだけどね。


それから?
うーん…まあ、そんなに劇的に何かが変わった訳じゃないよ。みずき君は相変わらずモテてるし、僕もちょくちょく声は掛けられる。でも、何だろ?前より全然平気なんだ。

番契約って、すごいね。
大好きな人と、魂まで結ばれるから、いつでも一緒だって思える。好きで好きで、これ以上は好きになんかなれないだろうなって思ってたのに、好きな気持ちってとめどなく湧いてくるものなんだね。びっくりだよ。
好きが積もって愛になるのかな。じゃあ、愛が積もったら何になるんだろ?


今日も僕はみずき君と手を繋いで歩く。みずき君に出会った日から積み重ねた年月の何倍も何十倍も、もっともっとたくさん一緒に歩いて行きたいから。


僕らは死んでも一心同体。世界一の幸せを掴んだ、運命の番だ。

きっと生まれ変わっても、僕はまた君と恋をするよ。


君は僕だけの、大っきくて素敵な最愛のつがい。








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