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しおりを挟む4月。
僕達はH大生になった。
入学式に着た新しいネイビーのスーツは僕にはまだまだ借り物みたいだったけど、みずき君は流石だった。あまりに似合い過ぎて世界的モデル感を醸し出しちゃって他の新入生や出席者の視線を釘付けにしたからね。入学式が終わって外に出たら、在校生の先輩方の視線も欲しいままにしちゃってた。
高校とは比べ物にならない広い敷地に大きな棟がたくさん。学生の数も、たくさん。高校と違って私服だし、お化粧をした女の子もたくさんいる。みんなが僕より大人っぽく見えた。
サークル勧誘を掻い潜ってオリエンテーションを受けつつ、初心者大学生はなかなか忙しい。コアリクイ会長に電話で履修登録の相談とかしつつ、みずき君と話し合って決めたけど、最初は単位の計算がよくわからなくて面倒だったな。
サークルは、迷ったけど入らない事にした。高校でも部活は入らなくて良かったし、大学でも特に興味を引かれるサークルは無かったしね。それに僕、大学生になったら高校の夏休みにお世話になったスーパーのサービスコーナーでアルバイトするって決めてたから、サークルで時間が取られるのは嫌だったんだ。それに、みずき君との時間も減りそうだし。
それにみずき君の方も、勧誘の女子の先輩達とか同じ新入生の女の子達に囲まれてウンザリしてるみたいだから。獣人の学生は逆にあんまり寄って来ないんだけど、純人の学生は普通に寄ってくるからなあ。マーキングが効かないってのがみずき君にも悩ましいところらしい。そりゃ、行く先々で囲まれたり、許可無くベタベタ触られるのってやだもんね。僕も、大学に入ってから再開した女生徒からのスキンシップに困ってる。
『レッサーって珍しいよね、可愛い~』
とか言いながら触られるのは小さい頃からしょっちゅうだから慣れてるけど、大学生になってからの触られ方って、何だか変な感じなんだよね。
耳としっぽ可愛い~とか言いながら、肩とか腕に触るの何で??セクハラかな??
そんな理由もあって、僕とみずき君はサークルには入らないキャンパスいちゃモフライフを選択した。
入学式から5日。
誕生日を迎えた僕は19歳になって、今や身長178センチ。高3の秋くらいには止まった感じ。成長期、終わっちゃったのかもね。でもね、僕達レッサー種の中では前代未聞って言われてるんだよ。大学に合格した時にお祝いに来てくれた親戚達の話では、僕はレッサー界のミラクルって言われてるらしい。(奇跡、じゃダメだったのかな?)
理由は、レッサーには滅多に出ないアルファで、難関大学に現役合格して、その上高校3年間で18センチ伸びたから。確かにお父さんを始めとして、親戚軒並み160センチ半ばくらいまでしかないからね。自分でも自主トレとか頑張ったなって思うし。でも大半みずき君のお陰だよね。重い物持っても成長に影響は無いっていう説もあるけど、実際僕はみずき君がお弁当持ってくれるようになってから伸び始めたんだもん。絶対関係あるよ。
で、実は話は戻るんだけど。
今年の誕生日は、初めて2人で外食に行ったんだ。みずき君の叔母さんがオーナーシェフをしてるっていうフレンチレストラン。みずき君が僕の誕生日なんだって話したら、
『合格したお祝いも兼ねてご招待するから連れておいで』
って言われたんだって。
「嬉しいけど、フレンチなんて行った事無いし、何着てったら良いのかな」
聞いた時はわくわくしたけどすぐに不安になった僕に、みずき君は言った。
「こないだ買ったスーツがあるじゃん」
僕、目から鱗。なるほど、そうだよね!僕らには大人の正装・スーツがあったよ!入学式に着たやつ!似合ってるのかよくわかんなくて微妙だけど、ドレスコードってやつには引っかからないはず!
インナーを少し遊び心のある薄いピンクのストライプのシャツにして、みずき君がプレゼントしてくれたお洒落なネクタイに替えたら、あら不思議!なかなかイケてるスーツ男子の出来上がりだよ!みずき君も、入学式の時とは違う、ちょっと派手めな柄のネクタイで、伸びた髪を緩くポニテにしててカッコ良さが大気圏突破。いい匂いマックスだし、ドキドキして心臓破裂しそうにイケメン。
迎えに来てくれたウチの狭い玄関先がパリコレのランウェイに(以下略)
そうして2人でお洒落して向かったレストランは、実は普通の大学生には敷居が高い星が付いたレストランだった。
緊張する僕に、
「どうせ個室だから好きなように食べて良いわよ。」
と、優しく言ってくれたみずき君の叔母さんの頭にはやっぱり茶色くて丸い耳が付いていた。…熊一族なんだなあ。
席に通されてから運ばれてきた料理も、見た事無いようなのばっかりだったけど、美味しかった。最後に出てきたデザート…デザートってほんとはデセールなんだね。知らなかった。リンゴがたくさん使われたデセールが何故か3皿出てきて、ケーキまで別で出してもらった。びっくりして目を丸くした僕に、みずき君によく似た叔母さんは
『瑞希の彼氏の誕生日だから特別』
と笑いながら言ってくれたんだ。向かいでみずき君も笑いながら自分のデセールのお皿を僕のとこに寄せてきてくれた。
「大きくなったのに、よく食べるのは変わらないな」
「もっと大きくなれるかもしれないじゃん」
「キスをするのにも抱きしめるのにも、今くらいがちょうど良い。」
綺麗な金色の目を細めてそんな事を言われたら妙に気恥しくなって、僕は目の前に置かれたケーキを食べてドキドキを誤魔化そうとした。
僕、最近おかしいんだ。
みずき君が色っぽく見えてどうしようもなくなる時があるんだ。こう、胸とお腹の奥がムズムズする感じ。
わかってもらえるかなあ?
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