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しおりを挟む同じクラスになった僕とみずき君は、教室でお弁当を食べる事が多くなった。理由としては、新入生が入って来て、中庭も先客が居る事が多くなってきたからって事が1つ。あそこは1年生の教室のあるとこから近いから、まあ先輩として譲ってあげた感じかな。それにもう1つは、1年の時はクラスが別だったから、学校にいる間は昼休みが2人でいられる貴重な時間だったんだけど、今は同じクラスだからいつでも姿が見える。安心感と満足感が半端ないよ!
同じクラスに恋人がいるって、何かすごい。
そんな風に、毎日楽しくラブラブスクールライフをつつがなくエンジョイ(古)してた僕達だったんだけど…。
今年の夏休みも、僕はスーパーのギフトコーナーのアルバイトをした。宮地先輩にはたまにスーパーに寄ったら挨拶してたから、良かったら今年もおいでよって言われてたんだよね。店長さんもそう言ってくれてたし、せっかくだから今年もお世話になった。みずき君のお誕生日のプレゼント代も欲しかったし。別に、去年みたいに高い物をなんて考えてないけど、どうせならお小遣いより、自分で働いたお金でプレゼント買いたいなって。
それに、来年は受験生だから、アルバイトなんて絶対出来ないしね。
それで今年は、僕の誕生日にくれたのとよく似たデザインの、紫色の石の付いたアンクレットをあげた。みずき君は喜んでくれて、次のデートには早速付けて来てくれたから、お揃いみたいで嬉しかった。
…と、そこまでは順調だったんだ。
実は2学期に入って水面下で発生していた、とんでもない台風に襲われるまでは。
10月に入って2週目の週末。我が岩清水男子高等学校は文化祭真っ只中。
実はウチの高校、体育祭と文化祭が毎年交互に行われる。去年は、思い出すのも黒歴史の体育祭だったから、今年は文化祭。僕の2年Sクラスは全員一致で変わり種タコ焼きの模擬店をする事になった。変わり種だから、中の具がタコだけじゃない。エビを入れたり、ソーセージのタコさんを入れたり、ホタテを入れたり。一舟の中にマシュマロ入りとかバナナ入りを1個紛れ込ませたりして遊んでたら、それが当たりなのかハズレなのかわからないと何故か妙に評判になってた。お陰で客足は絶えなかったから、まあ良いんだけど!
僕はお会計係、器用さを買われたみずき君は焼き手で活躍。ウチの学校の文化祭は外部の人達も入れるように解放してるんだけど、そうしたら、超絶イケメンがタコ焼き焼いてるって拡散されて、2日目には食材が間に合わないくらいにお客さんが殺到してしまった。
でも、そこはさすみず。他校の女子達に話しかけられても、
『食べ物作ってるとこで大声出すな。非常識だな』
って、心底迷惑そうに蔑むようなセリフを放ったみずき君はクールを通り越して極寒だった。…一応お客さんだよ、みずき君。
それでも遠巻きにきゃあきゃあ言われるみずき君。
カッコ良いでしょ~。でも、僕のだから、と内心フフンとふんぞり返る僕。
みずき君は僕にしか優しくないんだからねっ!!
そうして、2日間の文化祭は盛況の内に終わりを告げて、片付けが終わった夕方からは後夜祭が始まった。
夜のグラウンドでファイヤーストームをバックに、軽音部内で内部分裂して2組あるっていう仲の悪いらしいバンドがそれぞれに演奏を繰り広げるっていうカオス状態を誰が予想しただろうか。まさか相手より後になるのが嫌って理由で同時に演奏するなんてね。しかも、仲悪いから当然同じ曲じゃなくて、ボーカルがダミダミのデスメタルと、キャッチーな曲調とエモい歌声がオシャレなJポップ。
最初は止めようとしてたコアリクイ会長達も、意地っ張りな2組のバンドに諦めたみたいで傍観を決め込んだもよう。
結果、全く相容れる気の無さそうな2組の同時演奏を、死んだ魚みたいな目をした全校生徒が無言で見つめてるっていう地獄みたいな時間だったんだけど、これも過ぎたら青春の1ページになるのかもねって割り切って見てた。
在学3年間で唯一の文化祭がもうすぐ終わるんだな…。みずき君と寄り添いながらそう思ってた時、背中から聞いた事の無いハイトーンボイスが聞こえた。
「あの!すいません!」
振り返ってみたら、そこにはすっごい可愛い子が立ってた。パッと見、女の子みたいな、サラサラした黒髪のサイドだけ長くしたみたいな子。
でも、知らない子だ。でもウチの学校の制服だし、みずき君を先輩って呼んでるから1年生なのはわかる。
耳もしっぽも何も特徴が無いし、純人なんだろうなって見てたら、その子と視線がバチッと合った。可愛い顔の1年男子は、何故か僕を睨んでくる。初対面だと思うけど…えっ?僕、何かした?
不思議な気持ちになってたら、その子はみずき君に向かって言ったんだ。
「あの!壱与先輩、少しお時間良いですか!」
「良くない」
即断ったみずき君に、その子もびっくりしてたけど僕もびっくりした。でもすごい。その子、食い下がった。
「少しで良いんですけど…」
「くどい」
みずき君の容赦無い即答に、僕はピンと来た。こういうシーン、前にも見た事ある。
(あ、これ告白だぁ)
みずき君は告白されるのが大嫌い。去年の体育祭以降は特にそうみたい。だからその気配を感じたら、告白されるシチュエーションすら作らない。徹底してその気が無い事をアピールする。
それに校内では僕と付き合ってるのが周知されてるから、新入生が入ってきて僕とみずき君の事を知るまでの最初の1ヶ月と、校門に出待ちに来る他校生を別にすれば、校内ではまあまあ平和だったんだ。
だからこういうの久々だなって思って見てたんだけど…。
くどい、って言ったきり振り向かないみずき君に痺れを切らしたのか、可愛い1年生男子は何とその場で声を張り上げた。
「僕、1―Aに編入してきた各務 有栖です!壱与先輩、好きです!つき合って下さい!」
細い体に見合わない大音響に、びっくりしたらしい軽音部の演奏は止んで、周囲の生徒や先生達の目が全て僕らのところに集中した。
デジャブ。
………何だろうね。僕、学内イベント運、無いのかな?
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