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しおりを挟む始業式を明日に控えた春休み最後の日。4月5日。
僕は17歳になった。
その日は夜中、日付けが変わった時にみずき君がメッセージをくれてたんだけど、僕がそれに気づいたのは朝起きてからだった。迂闊。すっかり寝落ちてた。でもね、寝る前までメッセージやり取りしてたから仕方なくない?僕、いつも22時には寝るんだもん。みずき君のお誕生日の日は張り切って起きたけどさ。
そんな訳で朝になっておめでとうメッセージに気づいた僕は、嬉しいけど申し訳ない気持ちでみずき君に返信した。
『ありがとう!!すぐ返せなくてごめんね!』
すぐに既読がついて、返事が来る。
『寝てると思ってたから大丈夫。気にしないで』
みずき君、オトナ。
『予定通り昼に行くから待ってて』
『わかった!待ってるね!』
みずき君は今日、お昼にウチに来る。夜は家族で誕生日のお祝いしてくれるんだけど、昼間は2人っきりでパーティーするんだ。お母さんもパートで夕方までは居ないから、僕が飲み物とか用意しなきゃ。
僕は布団に潜ったままポチポチ打ってたスマホを置いて、ベッドから起き上がった。
ようこそ、17歳の僕よ!
洗面所に顔を洗いに行って、顔を上げた時に見た自分の顔は、何となく昨日よりもシュッとしたみたい…でもないか。そう変わんないか。
顔を洗ってから、お腹空いたな~と思いながらキッチンに行ったら、お母さんが何か料理中だった。何かお鍋をぐるぐるお玉で掻き回してる。
「あら、おそよう。そんなんで明日からちゃんと起きられるの?」
むっ。確かにもう9時過ぎてるけどさ。
「大丈夫だってば。今日が最後だから良いじゃん」
「ほんとかしら~?
まあ、起きなきゃ瑞希君に担いでってもらえばいっか」
「……起きるもん。朝トレもあるし」
「まあ、それもそっか。あ、17歳おめでとう」
「ありがとう」
そうだよ。17と言えば、来年は成人。大人の階段待ったナシ。子供でいられるのもあと1年だと思ったら感慨深いなー。
「朝ご飯、早く食べちゃいなさい。食べたら食器は食洗機に入れといてね。お母さん、もう少ししたら仕事行くから」
「りょーかーい」
ダイニングテーブルの上にはハムエッグとサラダ、クロワッサンが10個くらい入った籠が並んでる。パンならやっぱり牛乳かなーと、僕は冷蔵庫を開けて牛乳を出そうとしたら無かった。
「お母さん、牛乳無い…」
「あっ、ごめん。今使っちゃったんだわ。リンゴジュース飲んでて」
「牛乳、使ったの?」
リンゴジュースのパックを手に取って冷蔵庫を閉めてから、お母さんの手元を覗きに行く。
「わあ、いい匂い!」
「グラタン作ってくから、みずき君と一緒に温め直して食べてね」
「ありがとう!!」
掻き回してたのは、グラタンの具材が入ったホワイトソースだった。グラタン大好き。お母さんのグラタンは具がたくさん入ってる。マカロニやエビや玉ねぎや鶏肉、コーン、マッシュルーム、ブロッコリー、あとジャガイモ。すっごく美味しい。一年中食べたい。
お昼からグラタン食べられるなんて、流石は誕生日~!
「さっきフィッシュカツ揚げてサンドイッチも作っといたから」
「最高!!お母さんありがとう!!」
僕はうきうきしながら朝食のテーブルに戻った。
お母さんのグラタンとフィッシュサンドイッチ、楽しみ。
昼になって、みずき君が来た。玄関開けたらニコニコしたみずき君が、
「Happybirthday、ラン」
って言ってくれて、ケーキっぽい箱を渡してくれた。
「ありがとう!!」
ケーキは用意するからって聞いてたけど、受け取った袋は何のロゴも無いオレンジ色の無地の袋で、どこのお店のだろう?って僕は内心首を傾げてた。
でも、その謎はすぐに解けた。
「見て良い?」
と聞いて、良いよって言われたから、僕はケーキの箱を袋から出した。やっぱり箱も真っ白で無地。それで、横から開けて出してみたら…。
「……みずき君、これ…」
「ランの作ったレシピで応用してみたんだ。」
「すごい!みずき君が?!」
それは、チョコクリームと白いホイップクリームでレッサーパンダの顔を模したケーキだった。白い耳もきちんと再現されてて、確かに僕が作った熊さんケーキと同じ要領だろうけど、そうとは思えない完成度だよ…!さすみず!!
「ありがとう!めちゃくちゃ嬉しい!!」
「良かった。昨日の内にスポンジ作って、今日は朝からクリームを…」
「すごーい、お店で売ってるのみたい」
僕は感心してあらゆる角度からケーキを眺め、後で絶対写真を撮ろうと決めてから、注意深く箱に戻して冷蔵庫に入れた。ケーキはね、グラタンの後だから。
後から聞いたら、みずき君は、この日の為に何度かスポンジケーキを焼く練習をしてくれたらしい。それもめちゃくちゃ嬉しかった。
「お誕生日おめでとう、ラン。これプレゼント」
「ありがとう、なんだろう?!」
笑顔のみずき君から差し出されたのは、手のひらに載るサイズの黒い袋。中に見えるのは、四角くて濃い青の箱……ん?袋に印字された金色のロゴに何か見覚えがあるなあ?
と思った僕は、まじまじと箱を眺めて、思い出した。これ、僕がみずき君にあげたチャームを買ったお店の箱だ!
そっかあ、チャームが気に入ってくれたから、お店の名前から調べて行ってくれたんだ。
僕は嬉しくて、早速袋から箱を取り出した。やっぱり同じだ。濃い青の包装紙、細い銀のリボン。それを解いて箱を開けると、キラキラした白金の何かがシャラッと出てきた。1箇所だけに小さなブルーの石が付いてて、オシャレ。でも、コレ何だろう?ブレスレット?
「きれーい…でも、これ何?ブレスレット?」
手に取って見つめながら正直に聞いてみたら、みずき君は不敵な笑みを浮かべながら答えてくれた。
「それはね、アンクレットだよ。足首に付けるアクセ」
「これがアンクレット…!!」
オシャレ番長なクラスメイトが休みの日に付けてるのは見た事あるけど、こんなに間近で見たのは初めて。
僕はじいっと見入った。カッコいいなあ、綺麗だなあ。でも、こんなの僕に似合わないんじゃないかな。
そんな僕に、みずき君は言った。
「これは絶対、左側に付けてね。」
「左?決まってるの?」
「そう、決まってるんだよ。」
そう言ったみずき君がニコニコしてるから、僕もつられてニコニコした。
「ありがとう!絶対絶対、左に付けるね!!」
「うん。…よろしくね?」
その後食べたレッサーケーキも美味しくて、最高の誕生日だった。勿論、夜の家族での誕生日にも、お父さんが買ってきてくれたホールケーキでお祝いした。
その晩、僕は寝る前に左足首のアンクレットの意味を検索して、なるほどと納得した。
恋人がいるって意味なんだね。お守りの意味もあるんだね。
今度のデートからは八分丈のパンツ履くようにしようかな。
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