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しおりを挟む年末年始、みずき君ちにはお客さんが多いみたいです。
『もううんざりしてる。早くランに会いたい』
ってメッセージが何度も入って、その夜には電話も来た。
どうやら、遠くに住んでる親戚が何組も来るからご挨拶しなさい、って言われて、こっそり出かける事も出来ないんだって。ウチは一日の昼間におばあちゃんちに行ったら、伯父さんや従兄弟達もいて、それで年始の挨拶を済ませたらもう終わり。毎年こんな感じだよ。
だから2日目からは全然暇だし、『僕が行こうか?』って言ったら、全力で止められた。みずき君の親戚は熊の家系で、おじさん(みずき君のお父さん)やお姉さんに似たタイプの、小さくて可愛いもの好きな人が結構いるらしい。その中に僕が行くと、初訪問の日の再現みたいになる事が予想される…って事で、モフグシャにされるのが嫌なら絶対に来ないようにって言われた。
モフグシャ……恐ろしいひびき…。
『三が日は絶対にウチに近寄っちゃ駄目だ…アイツらが束になったら俺にも防ぎ切れない』
って言われたから、僕は想像してしっぽの毛をブワッと膨らむのが抑えられなくて、ウンウンと頷きながら返事をした。おじさんもお姉さんもお兄さんも良い人なんだけど、あのモフりにかける勢いがなあ…。
それでもやっぱりちょっと寂しいから、
「でも会えないの寂しいな」
って言ったら、
『年始の4日くらいになったら一緒に初詣に行こう。だからそれまでもう少し我慢な』
って初詣デートがまとまった。でもそれまでは忍耐の日々だったな。たった3駅しか離れてないのに、そのたった3駅が海の向こうみたいに遠く感じた。でも今回は、ヒートの時みたいにみずき君が1人で苦しい思いをしてる訳じゃないってわかってるから、寂しいけど前ほど辛くはなかった。
ウチは例年通り、一日の夜からは家族3人でのんびりまったりコタツでテレビを見てお節を食べたりしながら過ごしてた。今年のお正月は、お母さんが働いてるスーパーで割引きで買ったお節のお重と、お母さんが大量に揚げてくれたフライドチキン。コタツのお供にはミカンって家が多いらしいけど、僕んちはミカンの他に箱買いのリンゴもある。もしゃもしゃリンゴを齧りながら見る正月番組は最高だよね。お笑い系しか観ないけど。
お節は一日に食べ切ったから、2日目からは普通にカレーとかコロッケが出てきたんだけど、普通は三が日はお節食べたりするものなのかな?お節が2日目まで残ってたためしが無いんだけど。
あと、3日目は僕のリクエストしたホワイトシチューが出てきた。普通のシチューも美味しいけど、やっぱりホワイトシチューの方が好き。
そうしてゴロゴロしながら過ごしてて、1月4日。
やっとみずき君がウチに来てくれた。
約束の時間にインターホンが鳴る前から玄関先でソワソワして待ってて、鳴った瞬間ドアを開けた。5日振りに見たみずき君は、新年から一段と輝いてる。今日のみずき君は、前髪を半分上げてセットしてて、いつもより更に大人っぽい。そしてやっぱり金色のチャームを付けて来てくれてる。
「あけましておめでとう、ラン。今年もよろしく」
「あけましておめでとう!僕こそよろしくね。寒かったでしょ、上がって上がって!」
「うん。おじさんおばさんにも年始の挨拶しないとな」
礼儀正しいみずき君は、お父さんお母さんにも綺麗なお辞儀で年始の挨拶をした。それで、お茶を飲みながら少し話してから、僕とみずき君は電車に乗って何駅も向こうの、少し大きな神社に向かった。4日なのに参拝客はまだまだ結構多くて、露店もたくさん。僕らは参拝を終えてから、屋台を順番に見て回った。
お祭りやこういう時にしかない屋台の食べ物って、見るだけでも楽しくて、でも見てたらお腹が空いてくる。
特に目を引いたのは、お箸にぐるぐる巻かれたトルネードポテトと、更に大っきくぐるぐるのトルネードウインナー。勿論食べたよ。
で、そういうのを食べたら今度は甘いものが食べたくなるよね。だからその後は、奇をてらってない普通のリンゴ飴と、チョコバナナと薄皮のたい焼きを食べた。ハズレ無しの安定の美味しさだった。
帰りは近くに寄り道しながら本屋さんとかに寄って、もらったお年玉で欲しかったマンガを何冊も買ってから、カフェに寄ってあったかいカフェラテを飲みながらお喋りしてから帰った。楽しかった。
それから三学期が始まって、またいつもの毎日がゆっくり過ぎて、そしてまたみずき君と出会った季節が巡って来た。
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