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しおりを挟むその週末に届いた蜜リンゴは、カットした断面の9割方蜜っていう、とんでもないシロモノだった。
どうして?どうしたらこうなるの?すごすぎて逆に怖い。今まで食べたリンゴの中で断然美味しかったから余計に怖い。もう普通のリンゴに戻れない体になったらどうしよう。
でも、お土産にもらって帰った蜜リンゴを全部食べ切った後に食べたスーパーのリンゴも、いつも通り美味しかったから取り越し苦労だった事に安心した。
それから間もなく12月に入って、朝の登校時には吐く息もすっかり白くなった。1週間くらいすると期末試験が来て、結果はまずまずの現状維持。その後少ししたら終業式があって、冬休みに入った。
クリスマス・イブの日になって、午後3時くらいにみずき君がウチに来た。今日は夕方からイルミネーションを見に行く約束をしてるから、みずき君はオシャレなデート服。黒いコートの下に着た濃いブルーのセーターの首元から覗く、黒いネックガードに光る金色。休みの日には決まってプレゼントしたチャームを付けてきてくれる。それがもう、ホントに見蕩れちゃうくらいにカッコ良い。
あ~、僕の恋人、めちゃくちゃ綺麗。
「いらっしゃい!」
「オヤツ買って来た。一緒に食べてから行こ」
「ありがとう、何?」
「ウチの近所のパティスリーで出してる期間限定のホワイトチョコミルフィーユ」
「やったあ!」
みずき君、自分は甘いものそんなに食べないのに、僕んちに遊びに来る時は絶対に美味しいもの持って来てくれる。気を使わなくて良いのに。
お母さんにあったかいココアとみずき君のコーヒーを入れてもらって、部屋でミルフィーユを食べた。
それから濃紺のダッフルコートを着て、茶色のショート丈のスノーブーツを履いて出かけた。
2ヶ月振りくらいに出る街は、プレゼントを探しに来た時とはすっかり様変わりしていて、あちこちにサンタの人形やクリスマスの電飾が飾られていた。賑やかなクリスマスソングも絶え間なく流れてて、そしてカップルが多かった。
「みずき君、カップルだらけだね」
「そうだな。そういうランと俺もカップルだけどな」
「それもそうだね」
僕とみずき君だって、僕んちを出てから街に出るまでずっと手を繋いで来た熱々カップルだからね。降り積もる雪だって溶かすくらい熱々だから。…今年、まだ雪降ってないけどね。
2人で街中のイルミネーションを見ながらゆっくり歩いてたら、ふいにみずき君が指差した。
「ラン、あれ食べながら行こっか」
「なに?」
それは恰幅の良いおじさんが焼いているブルストの屋台だった。ずっとしていた美味しそうな匂いはアレだったんだぁ。
「食べる!」
「よし、決まり」
みずき君が2人分を買ってきてくれて、2人で熱々のブルストを食べながら歩いた。寒い中で食べるあったかいものって、何でこんなに美味しいのかな。みずき君と一緒だから余計に美味しい気がする。
街中のメインストリートを北へ向かって歩いて行くと、少し人の流れが少なくなってきた。それでも歩いていると、先の方に大きな白い建物が見えてきた。教会だ。
教会のイルミネーションは街中の賑やかなものとはまた違う雰囲気で、白に銀にブルーの、綺麗だけど厳かな感じで素敵だった。雪の結晶の形とか、天使の形とか。
こんなに綺麗なのに、見に来てる人は疎ら。街から少し歩くからかもしれない。ずっと歩くのも寒いもんね。
僕らは教会の前に立ってそれを見上げながら、どちらからともなくお互いの顔を見た。
「綺麗だね、流石は教会だね」
「そうだな。何か違うな。俗っぽくないって言うか」
そう話してたら、教会の中から綺麗な合唱が聴こえてきた。高く澄んでて、子供の声みたい。よくクリスマスシーズンに聞く曲だな。これ、賛美歌だったんだ。
2人でしばらく聞き惚れた。
綺麗な教会のイルミネーション、天使の声みたいな歌声。
「これで雪でもチラついて来たら、完璧なホワイトクリスマスなんだけどな」
教会を見上げながらそう呟いたみずき君の横顔は、イルミネーションの光に照らされて5割増しに綺麗だ。
あんまり綺麗すぎて、みずき君が天使になって羽ばたいて行っちゃいそうに見えて心配になった僕は、思わず繋いだ手をキュッと握った。そうしたらみずき君は僕の方を見て、ニコッと微笑んで、それから僕達は、いつものように触れるだけのキスをした。
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