上 下
62 / 86

62

しおりを挟む


とぼとぼ


朝っぱらから悲しげな足音をさせて歩く僕。

おはようございます。半年を経て超久々に1人登校中の吉田嵐太です。
毎朝恒例化してたみずき君のお迎え無しで、だから今日は背負ってるリュックの中のお弁当も最初の頃と同じ2段で軽くなってる。だけど自分で持つのが久々だからか、この重みが新鮮。電車内での毛繕いが無かった事に寂しさを覚えつつぼんやりと車両を降りて改札を出て、てくてく歩いてたら後ろからポンと肩を叩かれた。
振り向くと、クラスメイトの友人・佐久間君だった。佐久間君はみずき君と同じ熊種の獣人だからか、背が同じくらい高くて毎回見上げちゃう。

「おはよう佐久間君」

「おはよ、ヨッシー」

「珍しいな、1人か」

佐久間君はそう言いながらキョロッと周囲を見回して、ハッと何かに気づいた様子で僕に視線を戻した。

「あ」

「ん?」

「ヨッシーの彼ピ、ヒート入った?」

「えっ?!どうしてわかるの?」

「……アルファだからだな?」

あ、なるほど。あまりにみずき君フェロモンが匂ってるのが恒常化し過ぎてて違いがわからなかった!他のアルファにはそれがわかるのか…。だから電車に乗った時からチラチラ見てく人がいたの?
その事に気づかなかった自分に、何となくしょんぼりしてしまう。やっぱり僕、アルファとしてまだまだなんだな。こりゃみずき君のヒートを癒してあげられる日もまだまだかなぁ…。
少しだけ胸がどんよりしてしまった。それにしても、みずき君以外の人と並んで登校するの久しぶりだな。

「じゃあ、今週はクラスで飯食えるんだな」

しょぼくれながら歩いてたら、自称・空気を読むのが苦手な男佐久間君がそんな事を言ったから、そうだったと思い出す。

「そうなんだ。一緒に食べてくれる?いつも超絶イケメンな恋人とイチャイチャしてる癖にとか言ってハブらない?」

「…ヨッシーってちょいちょい彼ピ自慢うぜぇよな」

…僕、そんな風に思われてたの?ちょっぴりショックを隠しきれないんですけど…。

「でもま、これから何日かは気楽に話せるな。」

佐久間君が言った言葉に、えっと驚く。

「今まで気楽に話してなかったの?」

「え…おま…ニブぅ…」

逆に鈍さを驚かれてしまった。でも毎日普通に話してたじゃん、と首を傾げると、佐久間君は呆れたように言った。

「お前の怖ぇ彼ピ君が睨むから、気を使って近寄らなかっただろ。いつもちょっと離れて喋るようにしてたの、気づいてなかった?」

「あ…そういえば?」

言われて思い出してみたら、確かにここ何ヶ月か、佐久間君との距離は微妙に遠かった気がする。クラスでは普通に話すのに登校中に姿が見えても近寄って来なかったのはそういう事だったのか。

「ヨッシーの彼ピさあ、俺にはアタリがキツいんだよな。同じ熊だからなのかね…」

「…そうかなあ?」

それはごめん、ちょっとよくわからない。でも、オメガのみずき君がアルファの佐久間君にそんな事するかなあ?アルファ同士ならライバル意識とか持つ事もあるらしいけど…。

でもその辺りの事は僕が考えてもよくわからないから、結局その話はそこで終わって、2年生が行ってる修学旅行先の話なんかをしながら登校した。
 



その日のお昼は賑やかだった。
稲取君と湯川君と佐久間君は前と同じようにずっと一緒にお昼を食べてるから、僕もそこに混ぜてもらった。
いつもはみずき君と中庭で周りは静かだけど、教室でわいわいい賑やかな中で食べるのもたまには楽しいなぁ。

「ランたん、今日から何日か寂しいな」

僕が説明しなくてもみずき君の休みの理由も期間も察してるらしい稲取君。やっぱわかるんだ。

「パートナーがヒート中の場合って、そんなにわかるものなんだね」

と、僕が感心しながら言ったら、3人は顔を見合わせて急に静かになってしまった。え、どうしたの?と思ってたら、稲取君が少し言いにくそうに口を開いた。

「いや、つーかさ。普通はあんまりそこまでハッキリはわかんねーよ。嗅ぎ取れても、微かにそれっぽい残り香がするかなって程度だし」

「…そーなの?アルファならみんなわかるのかなって思った…」

僕はまたまた首を傾げた。
じゃあ、何で佐久間君も稲取君もわかっちゃうの?
そんな僕に佐久間君が言った。

「あー、ごめん。朝の俺の言い方が悪かった。
アルファだからみんなわかるんじゃなくて…あぁ、いやそれはそうなんだけど…」

「?」

「つまり、それくらいわかり易く匂い付けされるって事なんだよ」

と、佐久間君を加勢するように口を挟んだのは湯川君。そして、稲取君も…。

「普通のオメガはヒートが来てる事を隠したがるもんなんだけどな。ランたんの彼ピはすげーな。流石はグリズリー。
ヒート中のオメガフェロモンでもグリズリーのものとなると他のオメガ避けにもなるよなー」

「というか、アルファすら避けちゃうよね。何時も嗅がされて耐性付いてる僕らだから我慢出来るけど」

「……」


みずき君、みずき君?
今頃はどうしてますか。

あのね。オメガの人は普通、ヒートは隠すんだって。知ってた?
あと、知らない内に僕のクラスメイト達の忍耐スキルが上がってたみたいだよ。すごいね…。






しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...