ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

Q.➽

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61(壱与side ※ちょっぴりヒートが来ていますが大丈夫です御安心下さい。)

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自宅最寄り駅に着いて電車を降りると、自然と足早になった。

早く、早く、早く。

頭の何処からそう言われているようだ。右肩に食い込んだエコバッグの紐の柔らかな重み。この中身は俺にとっては宝物。これからの数日間を慰めてくれる戦友でもある、愛するアルファの衣類や寝具のカバーetc...。まあ多分、その中でも主戦力はパンツになるだろうな。

駅から10数分の道を何時もの2倍以上の速度で歩き、家に到着。玄関を入ると母が顔を出したので、『これから籠る』と言ったら頷いて、色々準備した物を持って行くと言ってくれた。
オメガのヒートは、期間中自室に籠るのが基本だ。家族に番を持たないアルファが居る場合、不幸な事故が起きたりする事もあるらしい。いや冗談ではなく。最強種の1つと言われている熊獣人の俺をどうにかしようなんて近づいて来る奴はあまり居ないからピンとは来ないが、ヒート時のオメガが放つ発情フェロモンというのはアルファの理性を容易に失わせるものらしい。これはかかりつけの担当医師に口酸っぱく言われてるから間違いないんだろう。肉親であろうと発情期にうなじを噛まれれば、未婚のアルファとオメガでありさえすれば番は成立してしまうんだから。まあでも普通は肉親の発情フェロモンは高確率で忌避したくなる臭いらしいんだけど…そうじゃないケースもあるって事なんだろう。
俺なんかは父親や兄貴や姉貴となんて、考えてみてもゾッとするけどな。幸い皆、番やパートナーがいるから、有り得ないが。それでも一応、ヒートの間は部屋の内鍵も掛けるし、窓も閉め切る。
ヒート中ってのは、とにかくセックスしたい、孕みたい、そんな種の保存欲求との戦いだ。体の奥からとめどなく湧き出るアルファへの飢餓感で、自分で何度自慰をしようが満たされる事は無い。逆に虚しさばかりが狂いそうな程に募っていく。俺は中学の頃にまだ不安定な擬似ヒートは短期で何度か経験したから多少は知ってるつもりだ。完全にオメガになってからの本格的ヒートは初めてだが、今回はランの服があるから心強い。きっとあの虚しさも軽減される筈だ。

食事が摂れるかはわからないけれど一応はと、簡易な食糧品と水分補給用の経口補水液を母が運んで来てくれた。それを手に取れる場所、特にベッドサイドやテーブルの上に何十本も置いておく。
それから急いで風呂場に向かい、サッとシャワーで体を洗った。これから4日近く風呂には入れないから、少しくらい体が重くなっていても無理して綺麗にしておきたかった。
まあ、これから汗やら色々な体液で汚れる事になるんだが。
シャワーから自室に戻ってから、ランの服入りのエコバッグをベッドに運ぶ。布団の中にそれを詰めて、自分もそこに身を潜らせた。

「…はー…ランの匂い…」

布団の中に匂いが籠る。俺の熱い吐息もランの匂いに混ざる。
ぬるいシャワーに打たれていた間にも、徐々に体温が上がってきているのがわかった。そのまま風呂場で下肢を弄ってしまいたくなるのを、部屋にあるランの服を思って耐えた。

ベッドの中で愛しいアルファの匂いに包まれる多幸感。最初、グレープフルーツの爽やかな香りに感じたランの匂い。それは時を経て、今ではグレープフルーツティーにたっぷりと蜂蜜を入れたような、とろんと甘い香りになっている。これだけ甘さが増したのは、膨れ上がった恋愛感情のせいだろうか。それに体の奥からムズムズと甘い疼きを呼び起こされて、自然と下半身に手が伸びた。

「…ラン…」

指で先端に触れると、早くも濡れていた。我ながら堪え性が無い。いや、違う。俺は我慢していた。なんたって今日1日、目の前のランにむしゃぶりつきたいというムラムラを、理性で耐えたんだ。学校はともかく、ランの部屋に2人で居る時にも我慢したんだから、大した忍耐力だと思う。それなのにランときたら、そんな俺の気も知らないで…。帰ると言ったら『え、もう?』だからな。
きらきらの大きな目で見上げて来るランは、何時にも増して愛らしかった。その後、駅まで送ってくれたランを背に、どれだけ後ろ髪を引かれた事かわからない。

あの無垢な瞳、あのぷるんとした健康的な淡い色の唇、まだ発展途上中の小さな体。小さな頭に白いフワフワの大きな耳、俺のとは違う、モフモフの大きなしましましっぽ。手のひら同士を合わせると、俺の手より全然小さくて。守ってやりたくなるような、可愛い、俺の…。
まだ大切にしておきたい。汚したくないと思うのに、あの唇で、頼りない指で、この体に触れて欲しいと思ってしまう。

ソコを扱く指がどんどん濡れていく。

「はぁ…ラン、好きだよ…好きだ…」

この身の内に滾る激情を君にぶつけてしまいたいと思う俺を、お願いだから嫌わないで。










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