59 / 86
59
しおりを挟む僕なりに頑張ったみずき君の誕生日は、とっても成功の内に幕を閉じた。初めて作ったケーキのスポンジは冷蔵庫に入れてたせいもあってか少し固くなっちゃってたけど、みずき君には概ね好評みたいだった。だって、普段は甘いものそんなに食べないみずき君が、切り分けたのをおかわりして、トータルで2分の1も食べてくれたんだよ。これって意外とイケてたって事だよね?僕も自分で食べてみて、悪くないなと思ったもん。
来年はもっと上達して、綺麗な形に仕上げるぞー。
その後、みずき君は満面の笑みでチョコクリーム味のキスをしてくれたんだけど、ちょうどその時にお母さんが仕事から帰ってきたから、残念ながらちょっとだけで終了。
ま、いつもしてるんだけどね。
みずき君が帰る時、まだ6時半だったから駅まで送ったんだけど、みずき君、ずっとニコニコしてた。いつもの5割増ニコニコしてた。イケメンの笑顔の眩しさよ…。
『こんなに嬉しい誕生日も贈り物も初めてだ。今度はランのバースデーに俺がお返しする番だな』
って言ってたけど、僕の誕生日、4月の5日だからね。めちゃめちゃ先だから。こう見えてクラスの中で一番お兄ちゃんだからね、僕。実は昨日まではみずき君より歳上だったんだから!
それに、みずき君から改めて何かを貰おうなんて思わないよ。だって今回の事は、僕がしたくてした事だし。
僕はもうたくさんもらってるから良いんだ。毎日、みずき君の匂いをもらってるし、遊びに行くと珍しいお菓子やフルーツ、たくさんくれるもんね。
…あれ?僕の方がもらい過ぎ?
みずき君は僕が見送る時はいつも改札抜けてホームへの階段を上ってって、見えなくなるまで手を振ってくれる。今日はその時も最後まで笑顔MAXだったから、そんなにご機嫌だとたくさん逆ナンされちゃうんじゃないと心配になった。
家に帰り着いた後も、今日はありがとうってメッセージが来てて、頑張った甲斐があったなって思った。
それからはまた普通の毎日を過ごして、10月には中間テストがあったりした。みずき君と勉強したからか、一学期の期末よりちょっと上がってた。みずき君、すごい頭良いんだよ。でも中学の頃はホルモンバランスが安定しなくてずっと体調不良だったから、テストどころか授業受けるのもやっとだったんだって。一時期は保健室登校してたりして、何とか受かった高校でもきっと同じような生活になるって覚悟してたのに、あの日僕と出会ってから嘘みたいに体調が落ち着いたんだって。
『だから、今こうしてまともに授業受けられるのも、テスト受けられるのも、ランのお陰だ』
前からやってみたかったっていう、ファミレスでのテスト前勉強会を2人でしながら、みずき君は笑った。
楽しかった。ドリンクバーって利益出てるのかなって心配しながら帰ったり、テスト返ってきて、みずき君の点数すごいってびっくりしたり。
多分、中学生活を普通に過ごせてたら、みずき君はもっとすごい進学校に行ってたのかもしれない。それを考えたら、やっぱり運命のお引き合わせってあるのかなと思った。でもやっぱり、みずき君が苦しかったのを想像したら、悲しいな。
それでも今、みずき君はすごく元気だし、前の辛さなんて忘れちゃったよって言ってくれるから、良かった…なんて思ってた。
みずき君の身にあんな事が起きるまでは。
「明日から3~4日、休むわ。だからその間、クラスの友達と昼食べな」
11月に入って何日かしたある日、お昼を食べながらみずき君が言った。
突然そんな事を言われて、僕はびっくりした。
「3~4日?!そんなに、どうして?お家で何かあったの?」
僕は心配してみずき君に聞いた。そりゃそうでしょ?普通、聞くよね?
そうしたらみずき君は、慌ててる僕にクスッと笑って、落ち着いた様子で答えてくれた。
「いや、ここ2日くらい、朝起きると前兆があってさ」
「前兆?」
「ヒートの前兆な」
「えっ、ヒートの?!」
思わずちょっと大っきな声が出ちゃって、みずき君の大きな手に口を塞がれた。ごめん、みずき君。手のひらにご飯つぶ飛んじゃった。
みずき君は僕が静かになったのを見ると、周りをキョロキョロ見ながらそっと手を離してくれた。そして、その手を見て、僕が飛ばしたご飯つぶを舌で舐め取って食べた。僕が何かを食べてて口周りや頬っぺたに付けたご飯つぶやクリームを、みずき君が取って食べちゃう事は日常茶飯事だから今更驚かない。それは驚かないけど、ヒートって。
ヒートなんて、4月に出会ってから初めての事だから、ちょっと気が気じゃない。
「だ、大丈夫なの?!」
僕が聞くと、みずき君は頷いた。
「念の為に抑制剤を倍ぶっ込んできたから、今日までは何とか抑えられると思う。でもこれ以上は無理だろうな」
シャケのおにぎりを食べながら他人事みたいに淡々と言ってるけど、ヒートを1人で過ごさなきゃいけないのって、大変なんでしょ?苦しいんじゃないの?
僕はますます心配になって、みずき君をじっと見つめた。みずき君がうんうん唸りながら苦しんでるのを想像したからだ。詳しくは知らないけど、セッ〇スできないと苦しいんだよね?!
なのにみずき君は何故かケロッとしながら、僕に言ったんだ。
「だからさ、ラン。今日の帰り、ちょっと部屋に寄らせてよ」
「部屋に?いいけど、大丈夫なの?」
僕の言葉にみずき君は唇を片方上げて悪役みたいに不敵に笑って、とんでもない事を言いました…。
「明日からを大丈夫にする為に、ランの協力が必要なんだよ。帰ったら、着てる物全部脱いでパンツとシャツ回収するからな。それから、ランの部屋の匂い付きの…特に布物、生活に支障無い程度に借りてくから」
「ひ、ひえ…!」
う、うそ…。
僕のぱんつ、持ってかれちゃうの??
59
お気に入りに追加
1,379
あなたにおすすめの小説

捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。

オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる