ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

Q.➽

文字の大きさ
上 下
58 / 86

58(壱与side)

しおりを挟む

金色の、きらきらしたその宝石の、不思議な煌めき。
カッティングの違いなのか、ダイヤモンドのように華やかすぎる事もなく、光に透かしてみればシャンパンがたゆたう様なゆらぎが見える。
ランの無垢な瞳に、俺の目はこんな綺麗なものに似て見えているのか…。

石を抱きしめて、胸が熱くなった。

俺のアルファの、最初の贈り物。タダの誕生日プレゼントじゃなくて、特別なんだと言う。
婚約の証の、婚約首輪にする為のものだと言う。

剣持会長と長瀬先輩の左手に光っていた婚約指輪を、俺も見た。羨ましいと思わなかったと言えば、嘘になる。
でも会長達と違って、俺とランは運命の番ではあるけれど、両家間で正式に婚約を取り交わした訳じゃない。お互いの家族に挨拶はしたけれど、親同士が顔を合わせた事は、まだない。
18歳までは番にもならないと決めたし、つまり実質、俺とランは単なる恋人同士。
それに会長と先輩の家はどちらも結構な名家だから、その事もあって、家同士としてのけじめとして正式に婚約って事になったんじゃないかと思う。だから親御さんも諸経費を出してくれて、先輩は婚約指輪のお金も借金できたんじゃないだろうか。
だけど、俺とランの場合は違う。ウチは多少は資産のある家ではあるけど、ランの家はごく一般的な家だ。高校生の分際で、結納や指輪の金を捻出してくれなんて望んだりはできない。

(良いんだ。俺は、ランと居られる事が一番幸せなんだし)

人それぞれ状況は違う。だから、ほんの少しだけ羨んだだけだったんだ。本当に。


ランがあの店で俺への贈り物を買ったのだと知った時、本当に嬉しかった。贈り物をする為に夏休みの半分を費やして働いてくれたランのいじらしさに胸を打たれた。そして、何も知らないフリをして、誕生日を迎える今日のこの日を待っていた。


「それはね、婚約指輪の代わりなんだよ」

渡された小さな黒いショップの袋。あの日あの店から、ランが大事そうに抱えて出てきた袋に間違いない。
店員からチャームだとは聞いていたけれど、現物は見ていないから胸が踊った。そのチャームが展示していたスペースはぽっかり空いていて、周りにも洒落たチャームや指輪は並んでいた。この中のどれかに似て居るのだろうかと考えてみたけど、すぐに打ち消した。その日を楽しみに待とうと思ったから。


逸る心を抑えて、ゆっくり丁寧に包みを解いていく。俺は少し冷めた子供だったから、小さい頃にもらったどんなプレゼントを開けた時でも、こんなにワクワクした事はなかった。
黒い小箱を開いて、キラリと光ったそれを見た時、本当に心臓が一際高鳴ったんだ。

アンティークなクッションカットの、光を反射して煌めく黄金色。深みがあるようでいて、透明感もある。見た事もない、稀有な色だ。それを囲う上品な白銀には、細かい細工が入っていて、それがまた洒落ている。
あの店で見た他の物より、段違いに冴えたデザインだった。

俺は感動して、暫く声が出なかった。自分が泣いてるのを知ったのは、顔を覗き込んで来たランがびっくりした顔をしていたからだ。

「みずき君、どうしたの?」

声が戸惑っている。涙を流した俺をランが大きな瞳を見開いて見つめている。安心させてやらなきゃ。嬉しくて感極まった時にも人は泣くんだよ、ラン。

「ラン…。ありがとう、ありがとうな、ラン」

絞り出した声は、みっともなく上ずった涙声だった。だって嬉しい。

「気に入らないとかじゃ、ない?」

「気に入ったに決まってる」

当たり前。ランがくれるものなら、俺は何でも嬉しいんだ。それなのにこんな想像以上の代物を持って来られたら泣かずにいられるか。
俺はその石を注意深く摘んで、そっと手のひらに載せ、更にまじまじと見つめた。見れば見るほど、吸い込まれるように綺麗な色だったからだ。

「綺麗だ…」

だからその言葉は、意図せずに出てしまったものだった。

頼んでネックガードに付けてもらうと、ランは少し眩しそうに俺を見て、言ってくれた。

「目の色とお揃いでとっても綺麗だよ」

その時俺は初めて自分の瞳の色を思い出したんだ。
そして、ランがこんな風に俺をみていてくれた事を知って、余計に嬉しくなった。

そして、ランも同じような気持ちを抱いていた事を知った。
会長と先輩の、あの婚約指輪を羨ましいと感じていた事を。

別に、形じゃないんだと思う。指輪じゃなくても。高い指輪が欲しかった訳じゃないんだ。例え100円のおもちゃの指輪でも、何でも良かった。

俺はただ、不安だったんだ。

俺がランに固執するほどには、ランは俺に執着していないような気がして。愛しいと思う気持ちの分量が、俺から一方的に流し込んでいるだけのように思えて。
俺だけがランにマーキングをかけて、これは俺のものだと主張しているだけに感じていた。

俺は、ただ、ランに。

俺のアルファに、俺は自分のものだという独占欲を示して欲しかっただけだったんだと、気づいた。


まだ少し幼いランの中にやっと芽生え始めたその感情。それが初めて垣間見えたこの日を、俺はこの石を見る度に嬉しく思い出すんだと思う。


俺は一生、君と一緒だ。






しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...