ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

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いつもの中庭でお弁当を食べてる途中、僕は大事な事を忘れていたのを思い出した。

「みずき君、今日ね、放課後ウチに寄って欲しいんだけど、他に予定とかある?」

「いや、ないよ。大丈夫」

ホッ、良かった。
クロゼットの中にしまってある、みずき君への誕生日プレゼント。リュックに入れたりしてせっかくのピカピカな袋がぐちゃぐちゃになるのは嫌だから、学校には持ってこなかった。でも今日中には渡したい。だから学校帰りにウチに寄ってもらえるかお伺いを立てる事にしてたのに、今朝はみずき君がグイグイ来るもんだから忘れちゃってた。

そんな訳で放課後。

ウチに来てくれたみずき君を部屋に通してローテーブルのとこに座ってもらっといて、僕は急いでキッチンへ向かった。いつもはみずき君が来ると、お母さんが張り切ってオヤツを用意して持って来てくれるんだけど、今日はまだスーパーでお仕事。

トレイにグラスと、みずき君の好きなアイスコーヒーのボトルと、僕の桃ジュース、冷蔵庫の奥に入れてたとある箱、小皿、ナイフ、フォークを載せて部屋に急ぐ。

「おまたせ!」

「そんなに急がなくて良いのに」

僕はローテーブルの端に箱を置いて、載せてたものを僕とみずき君の前にそれぞれ並べた。
それから箱を横から開けて、中からケーキを出した。

「…え、このケーキ…」

「あんまり綺麗な形にできなかったけど…ごめんね」

「これ…ランが作ったのか?」

箱から出てきたのは、チョコホイップで飾られた、少しいびつな熊さんの顔のケーキ。昨日、レシピを見ながら土台のスポンジケーキを3個焼いて、一番焦げてなくて上手くできたやつを採用した。チョコクリームは頑張ったからまずまずだと思うけど、デコレーションは絞りの大きさがまちまち。耳と鼻口部分にはクッキー、目には丸いチョコボール。
最初から最後まで僕が作った、初めてのケーキ。
ケーキ屋さんのガラス越しに見るパティシエさん達の手元はあんなに素早く鮮やかにケーキを飾っていくのに、いざやってみたらあんなに簡単じゃなかった。そりゃそうだよね。
何度かお母さんが助け舟を出そうとしてくれたんだけど、ノーサンキューで気持ちだけもらっといた。だって僕が作るって決めたんだから。
出会った時から、僕はみずき君にたくさんのものをもらってる。どうしようもなく人を好きになる気持ちも、楽しさも、たまにヤキモチで切なくなる事も。みずき君の笑顔の為にならいつもの百倍は頑張れる自分がいることも、初めて知ったんだ。

みずき君と恋人になれて、毎日楽しい。一緒にいると安心するんだ。僕なんかよりずっと大きくて強くて綺麗なみずき君。何でもできて優しいみずき君。そんなみずき君が僕の運命の人だなんて、すごい奇跡。

だから僕は、絶対に、絶対に。君の隣が似合うアルファになりたい。



「初めてとは思えないくらい上手にできてる」

みずき君は、熊さんケーキをスマホであらゆる角度から撮影している。そんなに褒めてくれるほどの出来栄えじゃない筈なのに、優しい。
写真を撮り終えて気がすんだらしいので、僕はハッピーバースデーの歌を歌ってあげた。ロウソクは熊さんが哀れだからというみずき君本人の温情で免除。良かったね、熊さん。
だけど次の瞬間にはナイフで切り分けられたから、温情とか関係なくなって微妙な気持ちになった。

ケーキを半分くらい食べてから、僕は立ち上がってクロゼットの中からプレゼントの袋をそっと取り出した。光沢のある黒い袋に、ゴージャスな金のロゴ。

「みずき君、お誕生日おめでとう」

そう言ってプレゼントを渡すと、みずき君は笑顔で受け取ってくれた。

「ありがとう。開けて良い?」

「うん」

「嬉しいな。ランからの初めてのプレゼントだ」

みずき君は声を弾ませながら袋から箱を取り出した。濃い青の包装紙に、細い銀のリボンがオシャレ。そのリボンがみずき君の長い指に解かれて、包みが開かれると黒い箱。真ん中にはやっぱり小さく金のロゴ。袋と同じカラーだ。

そしてみずき君は、大事そうにゆっくりと箱を開け…たんだけど、中を見た瞬間に固まっちゃった。
もしかして趣味じゃなかったのかな。気に入らなかったんならどうしよう?
動きを止めたみずき君の様子に不安になった僕は、どうしたんだろうと顔を覗き込んだ。


みずき君、泣いてた。

箱の中の、金色の石を見て、泣いてた。

「…みずき君、どうしたの?」

「ラン…。ありがとう、ありがとうな、ラン」

「気に入らないとかじゃ、ない?」

みずき君がぶんぶんと首を横に振って、涙があちこちに飛んだ。

「気に入ったに決まってる」

涙声でそう言って、石をそっと右手の指で摘んで、左の手のひらに載せた。

「綺麗だ…」

うっとりとした涙声。良かった、喜んでくれてるみたい。
僕が選んだのは、オメガ用のネックガードとか首輪に取り付けられるチャーム。但し、ちょっと高価。最近発見されたっていう珍しい石を使ってて、作家さんが1つずつデザインしたっていう一点物なんだって。
これから価値が上がっていく宝石ですよ、って説明された。

琥珀よりも深い金茶で、なのに透明感がある。光を反射すると色んな色が中に見える事もあるらしい。

みずき君の瞳の色。 

「ラン。取り付けてくれないか」

そう言いながらチャームを渡されたから、僕は注意深くそれをみずき君のネックガードに取り付けた。一度付けたら次に自分で外すまでは絶対外れないってセールストークされたけど、確かに意外としっかり装着されてる。黒いネックガードを付けたみずき君の長い首に、それはとてもよく映えた。僕、ご満悦。

「目の色とお揃いでとっても綺麗だよ。鏡見る?」

「ありがとう。見る」

僕は立ち上がってクロゼットを開けた。扉の裏が鏡になっていて、みずき君はその前に立って、そこに映った首元を嬉しそうに眺めていた。

「でも、何で?かなりしただろ、これ」

みずき君の言葉に、僕は素直に頷いた。みずき君は僕が夏休み中バイトしてたのを知ってるし、誤魔化しても仕方ないかなと思ったから。

「うん。まあまあ。でも、それがみずき君に一番似合うと思った。それに、今回のは誕生日プレゼントでも、特別な意味があるから」

「…特別?」

僕はそこで、チャームに込めた本当の意味を言う事にした。

「それはね、婚約指輪の代わりなんだよ」

「え?婚約指輪の?」

みずき君、目をぱちくりしてる。

「会長と猫先輩の指輪を見て、良いなって思ったんだ。アレって、この人は自分だけの人だよって示してるみたいで」

「そう、だな」

「でも、ウチは普通の家だし、会長達みたいにお家がお金持ちじゃない。だから僕ができる範囲でみずき君に何か婚約指輪っぽいものを贈りたかったんだ。そのチャーム付けたら、婚約首輪って感じになるかなって」

僕を見つめるみずき君の目が、またうるっと潤んだ気がした。

「あんなに高い指輪じゃないけど、今の僕にできる、精一杯だよ」

僕の言葉にみずき君は、首元のチャームを右手で握りしめて、深く頷いてくれた。

「ありがとう。俺、この日を一生忘れないと思う。
俺はランのオメガで良かった。ランのもので良かった」

 
静かに言葉を紡いだみずき君の瞳は、僕を映して金色に光った。








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