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しおりを挟む今年の夏休みは初めての事ばかりで、すごく充実してた。働いたのも初めてだったし、恋人と過ごしたのも初めてだった。で、今日は8月29日。今日を入れてあと3日で夏休みが終わるって日。ついでに、僕のアルバイトの最終日。
お世話になった先輩や、店長さん、よくおやつをくれた他のパートさん達にも順番に挨拶に回ってからお店を出たら、いつもより少しだけよけいにみずき君を待たせてしまった。
「みずき君、遅くなってごめんね!」
「お疲れさん。皆に挨拶できたか?」
「うん。またバイトしたくなったらおいでって」
「そうか、良かったな。頑張ってたもんな」
「うん、頑張った!」
みずき君の胸にぐりぐり顔を押しつけてハグを堪能しながら、僕の脳裏には走馬灯のように鮮やかにこの1ヶ月の思い出が駆け巡ったよ…。走馬灯って死ぬ時のやつ?っていうツッコミは今は置いとく。
みずき君は最初、宮地先輩にガルル気味だったんだけど、一度宮地先輩の彼女さんが買い物に来た事があって、その話をしたらいきなり態度が軟化した。宮地先輩がタダのモフ好きだってわかったからだね。それに宮地先輩、みずき君にも耳もモフらせてって頼んでたから、純人強いって思った。獣人なら獣臭嗅ぎ取れちゃうから、ガルルモードのみずき君には近寄れないっていうもん。純人強い。(2回目)
在庫を売り場に出したりとか、ちょっとした力仕事もあったよ。あまりにも重い物は先輩が持ってくれたり、台車で運んだりしたけどね。他には、僕の耳やしっぽを触って、欲しい欲しいって離さなくなった小さい子もいたし、毎日散歩ついでにお喋りに来るおばあちゃんもいた。お盆の日には店長から出勤してる人皆に2個入りのおはぎのパックが配られたっけ。1人2パックまで良いよって言われたんだけど、お母さんは勤務上がりにもらって帰ったって聞いてたから、1パックだけもらって帰りにみずき君と公園に寄ってベンチで食べたんだ。すごく美味しかった。食べながら話してたんだ。バイトも終わったし、残りの日で一緒に少し遠出したいねって。それで翌日、電車で1時間半くらいの一番近い海に行く事になった。
『次は~終点、紅茶の海~紅茶の海~。お出口は左側です』
到着する少し前から、車窓にはずっとキラキラ光る海が見えてた。紅茶の海って言うけど、別に紅茶の色はしてない。普通に青いからね。
さっき駅を出たすぐのところに石碑みたいなのが立ってて、その下に、何で紅茶の海って言うのかって事が書かれてた。
みずき君と読んでみたら…。
どうやら大昔、紅茶の輸出をする為に、いっぱいに茶葉を詰めた船が嵐で何隻も沈んだんだそうなんだ。そしたら辺り一面に海水を含んだ茶葉が広がって、何日も海が紅茶色になってたんだって。……事故じゃん。純然たる事故じゃん。とりあえず名前の由来はわかったけど、乗組員の人達はどうなったの?
メルヘンチックだと思ってた紅茶の海の名に実はかなりダークな裏事情があった事に、僕達は少しの間無口になり、でもビーチに着く頃にはすっかり忘れてはしゃいでた。
「あっ、アイス売ってるよ!みずき君、かき氷とアイスならどっちにする?」
「あー…アイスかなあ。ランは?」
「僕もアイス!」
だって、ほら見てよ。あのアイス、お花みたいだよ。近頃オンスタでよく見る、バラみたいに盛るやつ!!
駅から砂浜まで歩いただけで汗だくになってた僕は、嬉しくてみずき君の手を掴んだまま、アメリカンスタイルのアイスクリームパーラーに走った。
イエローとピンクの2色で作ってもらったバラは、レモン味とストロベリー味だった。おいしい。暑さで熱を持った体に冷たさが染みわたる~。みずき君はブルーの単色盛り。
何だろ、ファンシーなお花のアイスなのにみずき君が持ってると色男って感じ。道行く水着の女の人達も、みんな振り返っていく。
暑いからってTシャツ脱いじゃって、ハーフパンツの上は素肌に前を全開にしたウインドブレーカーという格好のみずき君。そんな胸筋持ってたなんて聞いてない。いや、嘘。服の上からハグして大体知ってた。ずるい。僕なんか、みずき君の真似をしてTシャツを脱ごうとしたら何故かすっごく止められたんだからね。もしかして貧相だから?
僕はみずき君の胸元に、羨ましさ満載の視線を送りつつアイスを食べてた。半袖から出てる二の腕の筋肉もカッコ良い~。
…と思ってたら、そんなイケメンが放置される筈もなく、逆ナン目的の女の子達が寄ってきたんだけど、みずき君は思いっきり僕を抱きしめて、
「この通り、ラブラブの恋人といるんで。馬に蹴られたい?」
なんて言ってた。どゆ意味?
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