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49 夏休み突入編

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夏休みに突入した。
僕は今、人生初めての絶賛アルバイト中。



コアリクイ会長と猫先輩の婚約報告を聞いた日の帰り、僕は夏休みにアルバイトする事を決めた。9月のみずき君のお誕生日に、自分が働いたお金で何かプレゼントしたいと思ったからだ。小学生の時からしてたお小遣い貯金はあるんだ。でも、僕がみずき君にあげたいものは、それを使ってってのは違う気がして。

アルバイトしたいと決めてから、僕は夕飯を作ってくれてる最中のお母さんに相談した。夏休み中、バイトしても良いかなって事と、どんなバイトが良いと思うかって事を。
高校は、夏休み中のアルバイトを禁止はしてない。自由な校風バンザイ。
初めての事だから、初心者でも出来そうな仕事が良いよね。

僕の相談に、お母さんはう~んと首を捻った。

「そうねえ。何でも経験してみるのは良い事だから、目的があるなら反対はしないけど…。嵐太に向いてそうなお仕事かあ。」

お母さんがすごい考えてるのを見てちょっと不安になってきた。そんなに悩むほど、僕に適性ありそうなバイトって、無いの?

「あの、隣町の駅前のファストフードとかどうかな?」

「隣町?ああ、う~ん、そうねえ…。」

煮え切らない返事。

「じゃあ、ファミレスは?」

「食べ物の匂いに囲まれて仕事するの、辛くない?」

「辛い…?」

言われて、試しに想像してみた。
休憩時間とか帰りにめちゃくちゃ買っちゃうかも。運んだ料理食べてるお客さん、羨ましくてずっとガン見しちゃうかも。

「………適性ないかも。」

「そうよねえ。」

お弁当たくさん食べても、動いてる内にお腹は空くもんね。作りたての美味しそうな食べ物見たら、別腹で空くもんね。

僕は食べ物関係のバイトを諦める事にした。

「じゃあ、何が良いかなー。」

駅前でもらってきたバイト情報誌をパラパラ捲る。近所なら、本屋さんとかもあるけど、少ない。隣町の駅は少し大きいから高校生の募集も幾つか載ってる。でも、大体飲食関係。

困ってた僕に、天ぷらを揚げていたお母さんが首だけ振り向いた。

「ウチのスーパーは?こないだ
店長がギフトコーナーとかレジの募集、出すって言ってたわよ。」

スーパーかあ。でもスーパーって、お母さんと同じくらいかもっと歳上の主婦の人しか見ないじゃん。ちょっと気が進まないなあ~。

「高校生、見た事ないじゃん。」

「あら、ギフトコーナーには居るわよ。高校生と大学生のコが。」

「そうだっけ?」

僕、たまにしかスーパーにいかないし、ギフトコーナーなんて用事が無いから行かない。大箱の、美味しそうなお菓子とか缶のクッキーとかたくさん並んでるけど、全部贈答用だもんね。

「ギフトコーナーかあ…。」

「夏休みと冬休みは増員するのよ。ホラ、お盆や年末年始の帰省の手土産とか、お中元やお歳暮に売れるから。」

「そうなんだ…でもなぁ…。」

「短期だから通常の時給より高い筈よ。」

「すごく興味わいてきた。」

「じゃあ店長に頼んどくわ。面接の準備しなきゃね。」

「ありがとう!」

時給がちょっと良い。その言葉に僕はコロンと落ちた。魔法の言葉だよね。いくらくらいなんだろ。

それから3日くらい後に、お母さんの指導のもと、初めて書いた履歴書を持ってスーパーに面接に行った。
店長さんは50代くらいの、優しそうな羊獣人の男の人だった。


「お母さんから聞いてるよ。岩清水高なんだってね。僕も岩清水だったんだよ。」

柔らかい笑顔でそう言われて、緊張でカチコチになってた体から少し力が抜けた。

「大丈夫だよ。ウチは他にも高校生がいるし、仕事内容も覚えちゃえばそんなに難しくないよ。」

店長室のデスクの椅子に腰掛けた店長さんは、僕の履歴書を見ながらそう言ってくれた。僕は店長さんの向かいで置かれた丸椅子に座って、ウンウンと頷いてた。

「ギフトコーナーの仕事って、どんな事をするんですか?」

袋に入れた商品を渡してるとこしか見た事無いから、どんな事してるのかわからなくて僕は質問した。

「お客さんがお買い上げになった商品を包んだり、必要なラッピングをしたり、どこかに送りたいって言われたら、その配送手続きをしたり…。他にもあるけど主な業務はそれかな。」

「僕にも出来るようになりますか?」

「大丈夫だよ。最初は元気にいらっしゃいませって言えれば。後は先輩達がおいおい教えてくれるから。」

優しい声で言われて、僕は安心した。良かった、大丈夫そうだなと思った。
それから、週に何日入れるかとか希望を聞かれたりして、帰りには採用をもらえた。

僕は嬉しくて、興奮してみずき君に電話をかけた。みずき君にはバイトする事は言ってたんだけど、めちゃくちゃ心配されたんだよね。バイトしたい理由を聞かれたけど、欲しいものがあるんだとだけ答えたら、何か言いたげな顔はしてたけど、それ以上は聞かれなかった。みずき君はいつでも僕を尊重してくれる。

「みずき君、バイト受かったよ!」

『おっ、良かったな。面接、怖くなかった?』

「全然!店長さん、優しいおじさんだったよ。」

『そっか、良かったな。毎日顔見に行くから、頑張りな。』

「毎日なんていいのに。でも、頑張るね!」

みずき君の誕生日に向けて!!
…と心の中で思ったのは、秘密だ。




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