ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

Q.➽

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僕は手の中の食べかけのチキンを見た。重箱の中に目を移すと、まだたんまり残ったチキン…。今の騒動で、チキン5本しか食べられてない。でももう、お昼時間は終わってしまった。

「終わっちゃったな…。ラン、大丈夫か?」

「……。」

みずき君が気遣わしげに声をかけてきたけど、僕は言葉を返す事ができなかった。無念さにべそをかきながらお重に蓋をする。この陽気だ。帰りにはもう油回っちゃって、下手したらダメになっちゃって食べられなくなってるかも…。
悔しさに涙をこらえて唇を噛む。それでも午後の競技が始まる前に片付けなきゃいけないから、横でおいおい泣いてる猫先輩に向かってなんとか声を絞り出した。

「…あの、片付けたいので猫先輩、あっちで泣いてください。」

やっとの事でそう言ったら、猫先輩は泣きながら不満そうに顔を上げたけど、僕の顔を見てギョッとしたみたいに泣き止んだ。

「あっ…な、なんか…ごめんね?」

そう言いながらコアリクイ会長に支えられながらそそくさと立ち上がる猫の長瀬先輩。それは何に対しての謝罪ですか?

勝手に僕らのご飯タイムに乱入した事?
僕のすきピの唇を奪った事?
公衆の面前でみずき君と2人して僕にチビチビ言った事?
コアリクイ会長と幼馴染み告白僕らのお弁当スペースでイベントを大々的に繰り広げた事?
僕が三度の飯に輪をかけて好きなお弁当チキンを残さざるをえなくなった事?

どれに対しての謝罪でも、なんかごめんねは軽くないですか?

黙ったままの僕に、コアリクイ会長が

「本当に、申し訳なかった。」

って深々と頭を下げてくれたけど、だから何でコアリクイ会長が謝るんですかとしか思えない。
猫先輩がコアリクイ会長の事を好きで、気を引きたくてあちこちに茶々入れてきたって事だろうなってのは僕にもわかったけど、きっとそれで上手くいかなくなったカップルもたくさんいるんだろうね。自分の思い通りにならなかったからって他の人達に迷惑をかけてきた猫先輩は、性格が良くないと思う。コアリクイ会長がニブチンだってわかってて、それなら素直に好きって言えば良かったじゃん。
それにみずき君も、一度ならず二度までも不覚を取るって何なんだよ。あれだけ近寄られてたんだから、警戒してたら避けられたじゃん。みずき君、運動神経良いもん。そりゃさ、咄嗟の事で不可抗力ってのはわかるよ。みずき君だって、嫌だったのはわかるよ。でも、至近距離の真ん前で恋人が他の人とキスするのを見せられた僕の気持ちも考えてよ。

もう、もう今日は厄日だよ!!!

この時点で既に、それなりにワクワクしながら迎えた筈の高校最初の体育祭は、人生で始めての最悪な日になっていた。

午後の競技や閉会式も、あらゆるショックでぼんやりしてたからほとんど覚えてないよ…。帰りにみずき君が送ってくれたのは何となく記憶にあるけど、返事できてたのかもわかんない。

ただ、翌日お母さんに聞いたところによると、学校から帰ってきた僕はお風呂に直行して、上がったら『疲れたから寝るね。』って言って、晩ご飯も食べずに寝たらしい。前代未聞だよ…。絶対痩せたし縮んだ気がする。
そして僅か1日でセンシティブ・ハートに傷を負いすぎた僕は、翌日から今日までみずき君と口を利いてないという…まあ、そういう状況なのだった。




「ラン…なあ、マジでゴメン。許してくれなくても良いから、そろそろ声聞かせてよ。悪口でも良いからさ。
…俺、もうおかしくなりそう…。」

「……。」

体育祭から4日目の帰り。僕を家まで送ってくれたみずき君は、力の無い声でそう言った。
その言葉を聞いて、流石に僕も大人げなかったかなって思った。色々あったけど、みずき君に悪気は無かったのはわかってるし、みずき君だって嫌な思いしてるもんね。

(そろそろ仲直りしなきゃだよね。)

そう考えて、僕は振り向いた。そして、ギョッとした。振り向いて体育祭の日振りに見たみずき君の頬は少し痩けていて、顔色は悪くて、目からは涙が流れてた。

「み、み、みずき君!!」

僕は慌ててみずき君に抱きついたよ。だってびっくりした、びっくりするでしょ、そんなの。
大っきくて強いみずき君が、僕の所為なんかで泣いてるなんて。

「ごめんね、僕…嫌な事ばっかりあったからって、ずっと怒っちゃって。」

僕がそう言ってみずき君の背中に手を回して抱きしめたら、みずき君は泣きながらしゃがみ込んだから僕も一緒にしゃがむ。静かにずっと泣き続けるみずき君の顔を見てたら、僕も泣けてきた。今、すっごく後悔してる。何でこんなにしつこく拗ねちゃったんだろう。みずき君はずっと謝ってくれてたのに。

「みずき君、ごめんね。ごめんね。」

みずき君の首にきゅっと抱きついて謝ったら、みずき君の涙はよけいにブワッと溢れた。ええ~、なんでえ?

「…ラン…ラン、良かった…ラン。」

僕の背中に腕を回してきて抱きしめてきてしゃくり上げるみずき君。泣かせちゃった、僕が。

「ランに嫌われたら俺、生きてけないよ…。悪い事も嫌な事も、たくさん謝るから…だから嫌わないで。俺を無視しないで。」

「うん、うん、ごめんね。ごめんね、大好きだよ。」

僕は泣きながら、とってもとっても反省した。そして心に決めたんだ。

チビとキスとチキンの事はもう忘れようって。

僕は身も心もでっかい男になるんだから。




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