ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

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41 体育祭編

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帰っていく観客に混ざって映画館を出る頃には程良く小腹が空いていて、僕はみずき君を近くの商店街の中にある、お気に入りの台湾カステラ屋さんに連れて行った。食べ歩きにちょうど良いよね。出来たてでふわふわで美味しい。でもね?僕、こういうふわふわの食べ物を見ると毎回思うんだ。これ、両手できゅっきゅって握ったら、すごい小さく圧縮されるから実はあんまり大きくないよねって。だから10個くらい食べてちょうど良いんじゃないかなって思う。

「結構大っきいね、初めて食べたよ台湾カステラ」

「大っきいけどぎゅぎゅっとさしたらこんなんだよ、こんなん」

僕が親指と人差し指で丸を作ってみせたら、みずき君は『?!』って目からウロコみたいな顔してた。そうだよ、と僕は真面目に頷く。美味しいけど膨れてるだけだからね。食べてもお腹いっぱいにならないのがその証拠。(※個人差があります。)


食べ終わってからは靴屋さんや服屋さんを見て回って、服を試着したみずき君を激写したり、お揃いのシャツを買ったり。ゲーセンの前を通りかかってクレーンゲームで大箱のお菓子を取るのに挑戦したり、ちょっとだけゲームもした。外に出るとアーケードの隙間から見える空はオレンジ色で、いつの間にか夕方になっていた。

「もうこんな時間だねえ」

「そうだな。疲れた?ラン」

右手で僕の右肩を抱いてきながらそう言うみずき君。ちなみに左手は戦利品のお菓子とお母さんへのお土産に取ったぬいぐるみが入った袋でふさがっている。ほとんどみずき君が取ってくれたやつばっか。

「少し」

僕がそう答えると、みずき君は頷いて、

「ここのビルの裏に抜けたら公園があるから、少し休んでから帰ろ」

と言ってくれた。

ゲーセンの入っているビルの真裏には、商店街とほんの少ししか離れていないのが嘘みたいにすごく静かな公園がある。隅に喫煙コーナーがあるから、よく見たらあちこちに座ってる人は居るんだけど、大人ばっかだからかあんまり喋ってる人はいない。
僕らはそこに行って、ベンチの近くにある自販機でドリンクを買った。みずき君は強炭酸、僕はみかんジュース。ほんとはリンゴジュースが良かったけど、その自販機には残念ながら無かった。
ジュースを持って、ベンチに座る。なんか学校の中庭のベンチとはまた違う趣きがありますねえ。タバコ喫ってるおじさんやお兄さん、あっ、派手な髪のお姉さんもいる。この近所の服屋さんの店員さんかな。僕も髪をいつかあんなレインボーカラーに染めてみたい。
ウォッチングで目をキョロキョロしながらジュースを飲んでたら、みずき君が袋の中をガサガサしながら、さっき取ったぬいぐるみの中のひとつを取り出した。それは今日観た映画の主人公だったチキン魔王のぬいぐるみだ。目つきの悪さがカッコよ。ゲーセン入るまで知らなかったんだけど、タイアップでチキン魔王のキャラクターグッズがたくさん出てた。僕は2回失敗したんだけど、みずき君が一発で取ってくれたんだよね…。

そのチキン魔王を右手に握って見つめているみずき君。どうしたんだろう?

「…ラン、ほんとにコレ欲しかったの?」

「うん。あ、みずき君も欲しい?だよね、結果的にみずき君が取ったんだし…」

「いや大丈夫」

僕のセリフにすごく被せ気味に言って、袋の中にチキン魔王を戻すみずき君。良かった、やっぱり欲しいって言われたら残念に思うところだったよ。

それからしばらくは、2人でぼんやり暮れゆく空を眺めながらジュースを飲んでた。話そうにも、公園が静か過ぎるんだよね。商店街から一本入っただけでこんなに静かなんだぁ。

「みずき君、楽しかったね」

僕がオレンジジュースのつぶつぶをあますことなく飲み切ろうと缶の中のジュースをぐるぐる回しながら言うと、みずき君がクスッと笑う声がした。それでみずき君の方を見たら、すごい笑ってる。もしかしてみかん粒を残したくない僕の意地汚さがバレたのか。

「そうだね、楽しかった」

超絶イケメンの笑顔は夜でも眩しい。みずき君のおかげでさっき点いた街灯の明度が上がった気がする。最近はだいぶ慣れてきたと思ってたのに、急にドキドキしてきた。

僕、みずき君と出会う前は、朧げにだけど、恋愛するなら自分より小柄な女の子かなって思っってた。でもみずき君に会ってから、そういう事が全部忘却の彼方?っていうのかな、忘れ去っちゃってて。
みずき君だけを、綺麗でカッコ良くて、時々可愛いって思っちゃうんだ。

だけど今日、街中でみずき君とずっと居て、みずき君を見てる人達がすごくたくさんいる事に気づいた。みずき君はすごく素敵過ぎるから、僕以外の他の人達も、きっとみずき君を好きだよねって不安になった。

取られたくないって、すごく思ったんだ。

だから僕はジュースの缶を横に置いて、みずき君の方に乗り出して、その手を握って、真剣に目を見ながら言った。


「みずき君、絶対僕の番になってね。よそ見しないでね。浮気しないでね」

必死の訴えが届いたのかどうなのか、数秒後には耳はぐはぐ毛づくろいが始まってしまって、結局その公園にその後30分以上居た。登校電車と違って、わざわざ見に来るギャラリーが集まってきて恥ずかしかった。
外では興奮させないでって、帰りの電車の中でみずき君に注意された。

興奮する要素、あった?



















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