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37 (壱与side4)
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俺はかつてないほど困っていた。
ついさっきの事だ。
初めて俺の家に来てくれたマイダーリン・ランに、うっかり自尊心を傷つけるような事を言ってしまった。完全な失態。ランが小さい事を気にしていたのは知っていたのに。
対・ランのNGワードはデリケートだ。
可愛いはセーフでも、小さいとかチビとか低いとか、それらを連想させるワードはNG…日頃からそう自分に言い聞かせて慎重には慎重を期していたというのに、まさか記念すべきこの日にやらかしてしまうとは…。いやもうマジ10分前の自分の口を塞ぎたい。
俺達獣人はある程度成長すると、実は相手の元の獣姿がある程度見えたりする奴もいる。普段取っている人型に、薄ら重なって見えるというか…とにかく見えるようになる事が多いんだ。見える奴と見えない奴の割合いは、半々くらいだと言われていて、見えない奴にはベータが多いらしい。獣臭でもわかるけど、姿もある程度見えてると余計に強さの優劣がわかり易い。だからと言って、別に御先祖様達みたいに捕食したりされたりする訳じゃないんだけどな。
そんな訳で、俺には日頃、人型獣人のランと、それに重なるようにちんまいレッサーパンダの姿が見えてたって事だ。俺は普段のランの姿も獣姿のランもどっちも可愛くて可愛くてずっと見てたんだけど…それが悪かったんだよな。
兄貴とシンクロで放ってしまった、
『『もとが大体同じくらいだもんな』』
という言葉。
まさか2歳の甥っ子と同じくらい、なんて言ってしまうなんて。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、俺の馬鹿。死して贖いたい。でもランの居ない死後の世界なんて行くのは嫌だ。ジレンマだ…。
今現在、へやの中央のテーブル横のクッションに座っている俺の胡座の中にはレッサーパンダ姿のランがちょこんと座ってくれてはいるが…前を向いたまま、こっちを向いてくれない。
ジュースを飲んだり、ついさっきからはテーブルの上の芋ようかんに手を伸ばしてはモグモグ食べているんだが、食べるのに忙しいとばかりに喋ってもくれない。従ってここ10分ほど俺はランのふわふわの後頭部と白い毛がモフッとした3角の耳ばかりをじっと眺めている。
出会った日から、こんなに長い時間喋らないのは初めてだ。保健室での初対面のあの日だって、まあまあ喋ってた…。
……それにしても、ずっとモグモグ言ってるな…。
少しくらい触っても平気だろうか、と俺はランに声をかけた。
「…ラン?美味い?それ、昨日俺が選んで買ってきたんだけど気に入った?」
モグモグモグモグ…チラッ
(あ、ちょっとこっち見た。)
それに少しホッとした俺は、続けて声をかけた。
「ラン、リンゴ好きだろ?あとアップルパイもあるよ」
モグモグモ………チラッ……グモグモグ
くっ……まだ駄目か…。
意外にも強硬な姿勢に凹みそうになった俺は、とうとう奥の手を出す事に。
「…幻の最高級蜜入りリンゴ、○み○を使ったリンゴチップスも入手したんだよ」
モグモ……
「キュルッ……まじで?」
「まじで」
「みずきくんだいすき」
「よーしよしよし」
大好きが出たのでやっと安心してランの耳を両手でナデナデする俺。
しっかし機嫌は直ったけど、俺はリンゴチップスに負けたのか?とやや複雑な気分ではあるが、そもそもランのナイーブな心を不用意に傷つけたのは俺だから仕方ない。
「11月になったら生のこ○つを手配してあるからな」
「やったー!キュルル…!」
食い物で釣れるランで良かった。ランの単純さをプラスに捉えた俺は、気を取り直してランの太いしましましっぽに触れた。あー、気持ち良い。俺らの毛並みより柔くて気持ち良い。
「ラン?ごめんな?いつもレッサー姿のランを見慣れてるから、絵瑠の後に見ちゃうとレッサーの方で見ちゃってさ」
「僕、エルくん抱っこしてたのに?」
「うん、そうだよな。ごめん」
「まあいいけど。というか、僕、みずき君の前でレッサーパンダになった事ないのに?」
「え?いや、まあそうだけど…見えるだろ?ランも」
「え?何が?」
「俺のグリズリー姿」
「え?」
「え?」
おかしい。何だか話が噛み合わないな。そう思った俺は、ハッとした。
そっか、ランは見えない方なのか。いや、ランは成長が遅いからまだ見えないってだけの可能性もあるな…。ランのお父さん、ベータだっけ。そっちも見えてない可能性あるな。
「友達とかから聞いた事ないか?他の獣人の元の姿が見えるって」
「…そういえば、聞いた事あるかも?ならみずき君はずっと僕のレッサー姿も見えてたの?」
「うん。まあでも、ごめんな」
「いいよ。1個さんぜんえん、楽しみだなー」
「……そうだなー」
そういう事は全然気にせず生きてるとこ、好きだ。
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