ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

Q.➽

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それから数秒もしない内に…。


シパァン!!


という、大きい音が部屋中に響いた。
襖って、あんな速度で開けられて、ホントにあんな音がするんだね。マンガやアニメの中だけかと思ってた。

「あっ、この子が噂のレッサー君?!かわいいいい!!」

背の高いショートカットの綺麗な女の人が大っきい声でそう言って、すっごい笑顔で僕を見てくる。なるほど、これがみずき君のお姉さん。ちょー似てる。茶色い髪に耳に…。

僕はぼへぇ、とお姉さんを見上げた。

「出かけたんじゃなかったのかよ!」

そう言いながら僕の前に立ちはだかるみずき君。なんで?どした?お姉さんでしょ?

「ラン、気をつけるんだ。わしゃモフにされるぞ、どこもかしこも」

「ええっ、わしゃモフにっ?!どこもかしこもっ?!」

みずき君の言葉に僕はビビッと耳としっぽを膨らませた。困るよ!お家訪問するからって、せっかく昨日トリートメントでしっぽの毛並みを整えてきたのに!!まあそのしっぽも緊急事態で毛が全部立って台無しなんですけど!!

でも気をつけろって言われても、どうしたら良いんだろ?お姉さんはずんずん近寄ってくるし、みずき君のお姉さんだって知っちゃったから逃げるのも失礼な気がするし…。

まごまごして迷ってる間にお姉さんはすぐ目の前に来てて、みずき君が体でガードしてた。ひぇ…。熊同士の組み合い…。

「ちょっと!アンタどいてよ!せめてひとモフ…!」

「ひとモフも100モフも同じだ!くっせえ雌アルファの匂いが移る!ランに触って良いのは俺だけだ!!」

「レッサー君、アルファなんでしょ!大丈夫よ!」

「獣臭だってつくだろが!!」

すごい。聞いてるだけでこんなにもたくさんのエクスクラメーションマークの存在感を感じるのは初めてだよ。!ね、!。

僕が感心してたら、お姉さんがとんでもない事を言い出した。

「じゃあレッサー君本人に聞いてみてよ!」

「えっ、僕?!」

「聞かなくたって察しろよ!!アルファだから大丈夫とかねーよ!逆に聞くけど、お前は自分の相手に触られるの平気なのかよ!」

「そっ…!」

がっぷりよつに組み合いながらのみずき君の必死の訴え(?)に、お姉さんの勢いが少し弱まったみたい。今かな、と思って僕はみずき君の脇の下から顔を出して、お姉さんに言った。

「あの、初めまして。吉田嵐太です。みずき君以外からのモフもワシャも苦手な15歳です」

そう言ってペコリと頭を下げると、みずき君の女性版みたいにそっくりなお姉さんは、ガクリと肩を落とした。

「そ…そう…。えらいのね…私は美森…大学2年よ。よろしくね、嵐太君」

ガックリとはしながらもきちんと挨拶を返してくれる、礼儀正しいお姉さん。でもいきなり覇気が無い。そんなに他の耳、モフりたい?自分にもあるのに?
僕がお姉さんの頭に付いてる耳をじっと見てると、お姉さんは急に右手で左胸を押さえて倒れ込んだ。

「…くっ…尊…っ!」

あ、これさっき見たやつだ。お姉さん、お父さんと同じタイプだ。

「ラン、相手にしなくて良い。まったく、付き合ってられるか」

みずき君は床に手をついてるお姉さんにそんな事を言って、振り向いて僕を庇うように抱きしめた。
守られてる安心感がすごい。
いやホントは逆じゃなきゃなんだけど。
てか、聞いていい?仲悪いの?
僕がみずき君の腕の中から静かになったお姉さんを眺めてたら、おじさんの威厳溢れる声が聞こえた。

「こら、美森。行儀が悪い」

わあ。カッコ良い。声が渋いからドラマ観てるみたい、と思ってたら、頭の上からボソッとみずき君の声がした。

「俺と母さんが言わなきゃ同じ事しようとしてた奴がよく言う」

「えぇえ~…」

おじさんも?
僕は一気にドン引いた顔になってたんだろうね、みずき君はすまなそうな顔になって言ったよ。

「姉貴と父さんは趣味と行動が完全に同じなんだ。ごめんな」

「そうそう、可愛くて小さいものを愛好する癖があるのよ。ハムスターとかうさぎとか。どうせ怖がられて懐かれないんだからやめときゃいいのにね。ほほほ」

みずき君の言葉に合いの手を入れるように、おばさんの口から頗る切ない情報。懐かれないんだ…。
でもおじさんとお姉さん、純人と獣人で性別も違うのに中身そっくりとか、面白い。親子の血を感じるね。

「あの…」

僕は両手両膝を畳についたままのお姉さんと、おばさんのセリフにダメージを食らって悲しそうな顔をしているおじさんを交互に見ながら口を開いた。

「1人10秒までならモフっても大丈夫です」

「ラン?!」

びっくりして顔を覗き込んでくるみずき君に、僕は決意の表情でこくりと頷く。

「大丈夫だよ。僕、小さい頃から突然のモフりに遭遇してばかりだったから苦手だけど、心構えができてれば耐えられる」

「ラン…そんな無茶を…」

「大好きなみずき君のお父さんとお姉さんの為だもん。平気だよ。まかせて」

「ラン…っ!!すまない、俺のポンコツ家族がすまないっ…!!」

「みずき君!!」

ひしっと抱きしめ合う僕とみずき君。


その後、計20秒のモフワシャ地獄を覚悟して臨んだんだけど、待っていたのはモフワシャじゃなくてナデナデ天国だった。
 
あれぇ?









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