ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

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翌朝、朝食を食べたあとに洗面台で歯磨きしてたら、チャイムが鳴った。
はいはーいというお母さんの声が聞こえる。あ、そういえば今日からみずき君が迎えに来てくれるって言ってたんだ。
僕は急いで口をすすいでタオルを掴む。拭いた後でまた気になって鏡を見てチェック。歯、良し。耳、良し。髪、たぶん良し。顔…まずまず!
一応置いてあるお母さんの櫛でもう一度全体をさっと梳かして整える。

うん、僕なりに完璧!!

スーパーチートオメガみずき君の恋人にふさわしく身だしなみには気を使わないとね。
そんで番になる頃にはみずき君と同じくらいおっきく…。

「嵐く~ん、嵐太~!壱与君来たわよ~!」

お母さんが呼んでる声がして、僕は急いで廊下に出て玄関に向かった。
そうしたらそこではみずき君とお母さんがニコニコしながら話してた。みずき君は廊下の奥から出てきた僕に朝のお日様よりも眩しい笑顔を向けてくる。

「おはよう、ラン」

「おはよー、みずき君」

僕は挨拶を返しながらお母さんの横を通って式台に下りて、スニーカーを履いた。
それから、シューズボックスの上に用意しておいた三段弁当入りのリュックを持ち上げようとして、みずき君にそれを片手でひょいと持ち去られてしまった。

「何の為に俺が来たと思ってんの」

「あ、そうだったね…」

みずき君は僕の体に過剰な負荷を掛けまいとお弁当の運搬役を買って出てくれたんだった。ありがとね…絶対おっきくなってみせるからね。

…しかし片手でいく?
現時点での力の差を感じます。

「はい、代わりにこれ持ってね」

「うん」

交換にみずき君のカッコ良いコンパクトな黒リュックを差し出されて、あまりの軽さに目が点。え、これって何か入ってるの?訝しげに持ち上げて目を細めて眺めてみたけど透けて見える訳じゃないからわかんない。ペンケースすら入ってない気がするのは気のせい?

「じゃあ、今日も美味しいお昼ご馳走になります」

「あら~、ご丁寧に。召し上がれ」

僕が目を細めてリュックの中身を疑ってる内に、横では和やかにお母さんとみずき君がお話を終えた模様。

「じゃ、行こっか」

「うん、行ってきまーす」

僕らは登校する為に朝の道を並んで歩き出した。



僕らの高校の方面に向かう電車は、郊外に向かう方だからか意外と混まない。逆方向の電車はすっごい混雑してるの見えて、あれが噂に聞く通勤地獄というやつか…っていつも思う。お父さんはそれが嫌らしくて、毎朝僕より30分早く家を出て行く。
お父さんも体がそんなに大きくないから、前に何度か満員電車に乗っちゃったらぎゅうぎゅう詰めの中で押し潰されそうになって相当怖い目に遭ったらしい。その時の恐怖でしっぽの毛がいつもの5倍抜けたって言ってた。恐ろしいよね…。
ただごとじゃないよ、そんな脱毛。
だから僕は大人になって就職してもそんな電車には乗りたくないし、何なら在宅とかで仕事できる職種に就きたいくらい。いや、おっきくはなるけどね?おっきくても満員電車はやだなって話だからね?

木の実町駅のホームで紅茶の海方面行きの電車の3両目に乗り込んだら、ほど良い席の空き加減。
僕とみずき君は車両の一番端の席に並んで座った。
同じ高校の制服もまあまあ居るけど、クラスメイトは居ない。別の車両には乗ってるのかも。学校行くのにゆっくり座って行けるのって良いよね。
ウチの高校はちょっと辺鄙で、校舎も小高いとこにある。周りの景色は住宅地だけじゃなく畑とかも多くて、何かのんびりしてるし。
でも隣駅とかは急行停車駅だから駅前はそれなりにお店もあるよ。僕は昨日みずき君と初めて行ったんだけど、美味しそうなパン屋さんとかあったし、お肉屋さんの揚げてるコロッケの匂いにもグッときた。また行きたいなー…とか考えたら、みずき君が不意に僕の耳に顔を寄せてきた。

「ラン、今日、昨日よりふわふわしてる」

「えっ、そう?」

「いい匂いもする」

「あっ、昨夜はトリートメントしたからかな」

「なるほどね。ランの匂いと混ざって美味しそうな匂い」

「えっ?」

僕の匂いと混ざってってどういう事?って聞こうとしたら、急にこそばゆくなってぴゃっと体が跳ねた。みずき君が僕の左耳をはむはむしている。

「あー、ふわふわしてやらかい…」

「うぅ…みずき君、こそばゆいよ…」

そんなとこ、朝から公共の場所ではむはむするなんて、なんてえっちな事をするんだ…。
じ、獣人間で、口での耳のはむはむやナメナメ毛繕いは親密度MAXの証なのに!!人前でやっちゃ駄目でしょおぉ…と頭では思うのに、気持ち良くて体が言う事を聞いてくれない。体がふにゃふにゃになって抵抗できない僕にみずき君は、ふふっと笑いながら今度はぺろぺろしてくる。しかも、な、中まで、だと…?!

みずき君、登校途中の電車の中で僕を沈めるつもり?僕、耐性ないんだからね?親にも舐められた事ないのに!!(赤ちゃんの頃除く。)

「きゅっ…みずきく、やめて…」

「ランのお耳は、おっきくて白くてかーわいいねぇ…」

やめてって頼んでもみずき君は全然やめてくれない。
それどころかぺろぺろしながら良い声で囁いてくる。
こんなの色気の暴力だよ!やめて…誰かタスケテ…タスケテ…。
周りの乗客は、最初見た時には、ふわぁ~…ってびっくり顔はするけど、次には(仲良しなのねえ~)みたいな微笑ましげな顔になって誰も助けてくれない。

多分僕は涙目になっていた…。

それなのにその毛づくろい地獄は岩清水高校前駅に着くまで続いた。

通勤地獄とどっちが恐ろしいかな…?











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