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98 合流 (俯瞰語り)

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20分ほど走った辺りで、車は静かに停車した。

「少々お待ちを。」

「はい。」

運転手は車を降り、暫く車の傍に立っていたが、直ぐに三田の乗っている後部座席のドアを開けに来た。

「どうぞ、あちらの車へ。」

「…?」

開いたドアからは、何時の間にやら横に同じような黒塗りの車が、やはり後部座席のドアを開けて待っているのが見えた。
三田はその奥に居る人物に目を凝らす。車内は陰っていて服装も何時もとは違うが、それは確かに大学の同級生であるミズキだった。
三田は車を降りて運転手に小さく会釈をし、ミズキの車に乗り込んだ。
大学を離れて初めて会うミズキは、仕立ての良いスーツを着て髪を上げて、眼鏡も無く整った顔立ちを隠す事なく晒していた。

「雰囲気が全然違うな。」

「仕事用だよ。」

「…あのさ。」

三田は、先程電話で話したミズキとの遣り取りを思い返していた。そしてこの、迅速な車の手配に合流迄の流れ。

「お前、キャストじゃなかったのか。」

「まあ、そうだね。」

「だよな。」

「取り敢えず、向かいながら話そう。笹生、出して。」 

ミズキの声を合図に車は走り出した。
妙だと思ったのだ、と三田はやっと得心がいったような気がした。。いくら店の売れっ子だとしても、人や物を動かせる権限を与えられているとは思えない。さっきのミズキの口振りは、明らかに人を使う側の人間のものだった。

「…ゆっ…唯斗の…、」

「カッコつけずにゆっくんでいいよ別に。何度聞いてると思ってんのさ。」

「あれ…刈谷ってそんな感じだったっけ?」

「…別に良いだろ、そんな事。」

ああ、なるほど。そう言えば刈谷は唯斗の事が好きだったのだった。だから唯斗の前では猫を被っていたのか、と思い至る。
それはともかくとして、と三田は頭を切り替えた。

「ゆっくんは知ってるのか?刈谷が、その…。」

「勿論知ってるよ。」

「そうか。…護衛付けてた事は?」

「…言わないよ、そんなの。嫌がるでしょ、絶対。」

「だよな。聞いた事ねえもん。」

もし唯斗が護衛に気づいていたら、安心させる為に三田にも言っていたのではないだろうかと思った。ミズキは続ける。

「日曜はほぼ家から出ないって聞いてたから安全かと思って、その日だけは付けてなかった。他の日は大学の敷地から出た時点から家に到着する迄って感じかな。」

「そんなにガッツリって訳でもなかったんだな。」

「日中やキャンパス内で人目があるとこはそんなに危険度高くないでしょ、僕らもいるし。問題は夕方以降、1人になる事だから。」

「なるほどな。」

ミズキも意外と考えて付けていたらしい。それなりにプライバシーも考慮していたのか、と三田は思った。

「君があの女王様と連み出してから、様子が変だっただろ。それも気になってたから、警戒はしてたんだけど…やられたよ。車だったのが良かったんだか悪かったんだか。」

そう言ってこめかみを押さえるミズキに、三田は告げる。

「でも車だったからゆっくんの現在地がわかってんだろ?」

「まあ、そうだけど。」

「なら、良かったんだよ。」

「…そう、だよね…。」

はあ、と溜息を吐きながら顔を上げて三田に視線を戻すミズキ。ミズキとしては、今回のような事態を避けたくて護衛を付けていたのだから、溜息も出る。しかし川口が力量不足だったのでは無い事もわかっている。川口でも避けられなかったのなら、他の誰にも阻止は無理だったと言って良い。
それに、彼はきちんと尾行を成功させ唯斗の所在地を確認して、何時でも乗り込めるよう待機している。
三田の言う通り、プラスに考えるべきなのだろうと思った。

「ところで、三田君はさっき、樋越の仕業だって断言したけど…それは確かなのかな。」

ミズキの問いに、三田は頷く。

「ゆっくんの連れ去られたらしい場所って、ウチの近所の道路沿いだろ?」

「地図で確認したけど、そのようだね。此処でしょ?」

ミズキはスマホのマップアプリを表示して、赤いマーカーが付けられたある地点を指差した。それは唯斗と三田の家の近所の車道沿い、まさしく三田が唯斗の物らしきワイヤレスイヤホンを拾った場所だった。
やはりこれは唯斗の所持品だったのだ、と三田はイヤホンを固く握りしめる。落ちていたのを見つけらて良かった。これがあったから連れ去りに気づけたのだ。

三田はミズキの質問に頷いた。

「俺もゆっくんを探してて、そこでゆっくんの私物らしき物を拾った。」

「そう。」
 
「嫌な予感が的中したような気がして、樋越に連絡をしてみた。アイツは電話の向こうで笑ってたよ。俺が焦ってるのを面白がってた。」

「面白がってた?」

ミズキは不快そうに眉を顰めたが、三田は話を続けた。

「樋越が俺に近づいてきたのは、最初はマジでいつものお遊びの為だったんだと思う。靡かない俺にイラついてたみたいだった。そんな時に、樋越が誰かと電話してたのを偶然立ち聞きしたんだ。どうやら樋越には誰かを巡って恨んでるっぽい奴が居るらしい。それがそっちの店の客で、その客が毎回呼んでる若い男の名前が、ユイだって。 樋越はその客が呼んでるからそのユイを探して拉致るって言ってた。樋越はユイであるゆっくんを探してたんだ。」

一気に喋ったけれど、意味は伝わっているだろうか。自分でもあまり要領を得ていないような気がして、三田はミズキの顔を見た。どうやら店の上層部の人間でありそうなミズキになら、その客が誰なのか見当がつくのではと期待して。
少しの沈黙の後、ミズキは口を開いた。

「さっきの電話の後で、少し調べたんだけどね。
恐らく、と該当するお客様が御一方いらっしゃる。」

「わかったのか?!」

自分の方に身を乗り出してきた三田に、ミズキは嫌そうな顔をした。

「樋越の関係者と思われる人間と同じマンションの同じ階に住むお客様が。…ま、平たく言って隣なんだけどね。
で、そのお客様の所属している会社には帰宅したとの確認が取れているのに、当のご本人とは一向に連絡がつかない。ご自宅も不在、彼のマネージャーもあちこち探しているようだけど、まだ連絡は取れないようだ。」

「…それって…。」

「俳優の黒川琉生様だよ。
ユイ君の上客。隣りの部屋は若手俳優の樋越裕也。」

「俳優の、黒川琉生…。
…え、樋越裕也?…え、樋越…?」

情報を整理しようとする三田に、ミズキは言った。

「うん、女王様が溺愛してる従兄弟が俳優の樋越裕也。その樋越が、どうやら黒川様に相当入れ込んでるらしい。」

「何だよそれ…。」

「で、その黒川様はユイ君がお気に入り。」

「…ゆっくん、関係なくね?」

三田には何がどうなっているのかわからない。何故、樋越の溺愛している樋越裕也が大好きな黒川のお気に入りだからという理由で唯斗が攫われなきゃならないのか。

「…意味がわからない。」

「そうだね。何がしたいのか、僕にもさっぱり。
馬鹿の考えを理解しようってのがそもそも無理だよ。」

呆れたようなミズキの口調。三田も同意だ。全く理解不能だ。何故そこからそこに?という疑問でいっぱいだ。

そんな三田に、ミズキは告げた。

「樋越の狙いはともかくとして…。恐らくユイ君と黒川様は一緒に拉致されている可能性が高いと思う。

…着いたみたいだね。」

言われて窓の外を見ると、着いたのは極端に明かりの少ない場所だった。











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