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94 話は通じない模様
しおりを挟む指示に従って、って何をさせられるんだろう?
女王様の言葉に俺は困惑し、黒川さんはキョトンとしている。
「…指示って?」
俺が聞き返すと、女王様はニヤッと歪んだ笑いを浮かべた。すごい。美少女と見紛う顔立ちなのに笑い方が物騒。性格めちゃ悪そう。いや実際、悪いんだっけ。
嫌な予感。
「アンタらにはこれからセックスしてもらうよ。
そんで、それ撮るから。
それを観たらきっと祐也だって…。」
ふん、と顎をそらしながら座ってる俺達を見下ろす女王様。
祐也って誰さ?と訝しむ俺。だが隣にいた黒川さんはピクッと眉を寄せて、
「…裕也?」
と何か引っかかった様子だった。
「まさか、樋越 裕也君の事…か?」
黒川さんの問いかけに、一瞬女王様がしまったという顔をした。けれど直ぐに不機嫌そうな表情に戻る。
「…そうだよ。樋越 裕也。今アンタに熱を上げてる男。」
誤魔化し切れないと観念したのか、意外に素直に答えたのが少し意外だ。
だけど熱を上げてる、のところがいやに悔しそうなのは気の所為だろうか。
っていうか、ちょっと待って。そのフルネーム、どっかで聞き覚えがあるなあ…。
「……あ!」
思い出した。
樋越 裕也って、最近人気のイケメン新人俳優じゃん。
確か高校生の時にイケメン俳優の登竜門なんて言われてる特撮ヒーローの主役で電撃デビューしてから一気に人気に火がついて、最近では日曜夜のドラマにも出演して……あれ?
あのドラマって、確か…黒川さんも…。
「あ、もしかしてこないだ言ってたストーカー俳優って?!」
「裕也はストーカーじゃない!!」
思わず出た俺の言葉に被せるように叫ぶ女王様。やっぱビンゴらしい。
「裕也がこんなオッサンに本気な訳無いし!!こんな…こん…」
「…?」
黒川さんを指差してそんな事を言い放ち始めたけど、何故か語尾が弱まる。
どうしたどうした、と思ってたら、すんごい唇を噛みしめてワナワナ震えてる。マジでどうした。情緒不安定?
だがその様子からして、コイツはどうやらストーカー俳優の知り合いらしい。
だから擁護してるんだろうが、俺は以前黒川さんから聞いている。
狙いはわからないが、やたらと距離が近く、行く先々に出没し、とうとう同じマンションの隣の部屋に住み始めたらしいと。らしいというか、実際に住んでいるとな?
親が持っている金と動産を最大限に利用してストーカー行為に及んでいる、黒川さんガチ勢…と、俺は認識しているんだが。
「君は樋越君の知り合いなのか?」
困惑する俺の傍で、自分も困惑しているであろうに果敢に質問を投げる黒川さん。女王様は黒川さんを睨みながら甲高い声で答えた。
「裕也は僕の従兄弟!」
え、従兄弟?
ぼんやりと脳裏に樋越 裕也の姿を思い浮かべてみる。
う~ん…似て…るかあ?
樋越はシュッとした和風凛々しい系イケメンって感じだけど、この女王様はどちらかと言うと西洋の精巧なアンティークドールみたい。気の強そうな美少女めいた小顔で、吊り目がちの大きな瞳に小さな形の良い鼻、小さめの唇。髪もふわふわ茶色くて…。
まあ、世の中似てない血縁者なんていくらでもいるがな。
それにしても完全に別種の美形だな~と思いながら、まじまじと女王様を眺めてみたら、不快そうに顔を歪められた。
「裕也は僕の、歳下の可愛い可愛い従兄弟。」
可愛い…?
もう一度思い浮かべる樋越の姿。…かなり背が高かった記憶があるんだけど。画面で観た事しかないけど、少なくとも180以上はありそうだよな。目の前の彼はどう見ても170そこそこ。
第三者から見れば可愛いという表現はむしろ、この彼の方に適してるように思えるけれど、関係性からしてそういう問題ではないよな。
まあ、それはそれとして。
「君、俺と同じ大学だよな?」
思わぬところから判明した俳優・樋越 裕也との関係よりも、俺としてはこっちの方が聞きたかった。
「最近、ずっと三田と居た…。」
そう言うと女王様は、意地の悪い笑みを浮かべた。この人結構喜怒哀楽豊かだな。
「なんだ、気づいてたんだ?」
「そりゃまあ、あれだけベタついてりゃみんな気づいてると思うけど。」
人目も憚らずな、苦々しく思い出す。ついでに三田んちの前でのキスシーンもフラッシュバックしてきたけど、打ち消した。
「お前の相手だったんだよな?ごめんな、奪っちゃってwww」
俺の相手、という言葉に黒川さんが少し反応したのがわかった。黒川さんにも辞める経緯については話してあったけど、実際にそういう存在に関しての話を聞くと何か思うところはあるようだ。何か申し訳ない、と思いながら俺は女王様に言葉を返した。
「俺の相手?でも俺と三田は付き合っては…。」
いないんだが、未だ。
だけど女王様は俺の言葉を高圧的に阻む。
「お前、このオッサンの部屋に出入りしてたじゃん。オッサンのお気に入りなんだろ?」
「お気に入り…って…。」
確かに指名で呼んでもらってるからお気に入りには違いないが、それが何だと言うんだろうか。
「裕也を惑わせてるこのオッサンも、オッサンが気に入ってるお前も気に入らないんだよ。」
「…え、そんな理由で?」
「惑わせたつもりは更々無いんだけどなあ…。」
俺と黒川さんは、それぞれに困惑。
それって、三田は俺の所為でコイツにちょっかい掛けられたって事?
つい、睨みつけてしまった。
でも凡面の俺の睨みなんてそう効果がある訳でもないようで、鼻で笑われてしまう。
「でも、アイツも馬鹿だよね。自分が僕を張ってればお前を助けられるなんて本気で思ってたのかなぁ?」
「え?」
「そんな訳、無いのにな。」
女王様の唇は吊り上がる。
「僕、僕を優先しない奴って大っ嫌い。最初に僕をそでにしようとした三田の事も絶対に許さないし、僕より選ばれるお前もキライ。
そんで、僕の裕也の心を奪う奴はもっとキライ。
これからお前ら2人に薬ぶっ込むから。
そんでお前とオッサンのポルノ撮れたら、それで裕也の目を覚まさせた後でネットに流してやる。
お前らなんて、全員纏めて地獄に落ちたら良いんだよ。」
完全にとばっちり。
そんな見境の無い恨み節、初めて聞いたんだが。
薬ってつまり、その手の薬?性欲催します的な?
横を見ると、ネットに流すという言葉がヒットしたのか、青ざめている黒川さん。
どうやら目の前の女王様には話し合いが通用する気がしないなあ、と俺は俯いて小さく溜息を吐いた。
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