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93 持ち帰り用を確保する黒川さん
しおりを挟む「喚くなよ。うるさい。」
細身で中性的な女王様は、自分より遥かに歳上である黒川さんを冷たい声で一喝した。
そして、あろう事か黒川さんの上から下迄、値踏みするように不躾に見て呟いた。
「……も、何でこんな奴を…。確かにイケメンだけどオッサンじゃん。」
キョトンとする黒川さん、激昂する俺。
し、失礼~~~!!
しっつれいな奴だな!!
黒川さんはオッサンじゃないやい!!年齢なりの包容力と色気を匂わせつつ、常人離れした若さと美貌、卓越した演技力で他者の追随を許さない奇跡の俳優だろ!!!
お前なんか今は綺麗でも黒川さんの歳になったら絶対絶対メタボハゲだ!!今決めた!!主人公の俺が決めた!!!
猿轡が無かったら絶対反射で怒鳴ってた。
……つか、お前が親玉か?ン?
「んー、んーっ!」
俺が呻くと、女王様男子が目線を向けてくる。
「お前もうるさいよチンクシャ。」
ち、チンクシャだとぉ?!!
更に激昂しかけた俺だったが、
(…それもそうだな?)
と、一瞬で鎮火する。
確かにそんなキラキラした顔をデフォに生きて来た連中が俺を見たら、チンクシャ珍獣にしか見えないだろうな、と。
顔を真っ赤にして唸っていたのに急にスンッと静かになった俺を、女王様は気味悪げに見下す。でもすげぇ困惑した表情してる。
「三田も三田だよ…何でこんなチンク…」
「チンクシャなんて言葉はやめなさい。ユイ君は君なんかよりずっと可愛らしい顔立ちをしてるだろう。」
今度は俺に悪態を吐こうとした女王様の言葉を遮ったのは、黒川さんだった。
「は、はあ?僕よりコレが可愛い?」
(えっ、女王様より俺が可愛い?)
黒川さんの言葉に、思いがけずシンクロしてしまう女王様と俺の心。
そりゃそうだ。明らかに女王様の方がダントツ美しいし可愛い。
今この場で黒川さん以外の全員が絶対そう思ってる。
でもごめん。
この人(黒川さん)、ウチの店(※普通男子を愛でる会)の会員だからさ…。
自分の母親そっくりだという俺の容姿を最高だと思ってる黒川さんに、人並みの美的感覚を要求するのは酷だと思うんだ…。
「あ、アンタの視力どうなってんの?!」
しかし猿轡をされ、意思の疎通手段を取り上げられている俺の気持ちが女王様に伝わる筈も無く、彼は黒川さんに言い返してしまった。
黒川さんは、はぁ?と不思議そうな顔をして、呆れたように答える。
「両眼とも2.0だけど、何?君こそもう少し品性と礼節を磨いた方が良いんじゃないのか?
メンタルの醜さが面の皮くらいでは隠せてないぞ。」
「…フン。」
す、凄い。黒川さん、サラッと口悪い。そして、それで黙っちゃう女王様は自分が性格悪いって認めてるって事?ある意味潔しだな。
「ユイ君、大丈夫か?」
「あ、ちょ…、」
黒川さんは俺の猿轡を取ろうとしてベッドに乗り上げ、それを見ていた女王様が慌てた。だが彼の後ろの男達が動く前に、黒川さんは俺の猿轡を外した。使われていたのは大判のバンダナで、俺が咥えてた部分は唾液でぐっちょり濡れていた。うわ、ばっちい。
「苦しかったね、もう大丈夫。手足も直ぐに取ってあげるからね。」
そう言いながら真剣な表情をした黒川さんは、何故かそのぐっちょり湿ったバンダナをきちんと折り畳み、ズボンのポケットに仕舞った…。
「…ぅわ…。」
黒川さんの一挙手一投足を見ていた女王様はドン引きし、他の連中も明らかにザワついていた。
俺は何も言えなかった。
だって黒川さんはウチの店(※普通男子を愛でる会)の(以下略)。
だから、そんな黒川さんに対しての俺の対応としては…
「黒川さん、ありがとう。」
今見た何にも突っ込まず、只、猿轡を外してもらった礼を言うのが正解なのだ。
俺のお客さんって大抵クソ真面目にナチュラル変態だけど、根は良い人達だからさ…。(フォロー)
「ちょっと待ってね。」
黒川さんは俺の足を拘束している結束バンドの留口に爪先を少し差し込み、下にぐっと押したかと思うと、そこから一瞬で長いバンド部分を引き抜いた。
続いて両手首も。
さっき黒川さんにドン引きした為か、女王様とその配下っぽい連中も近寄って来ずに、黒川さんの動向を見守ってる感じ。
拘束の食い込みがなくなり、ホッとする俺。体中の血流が勢い良く巡り出した感じがする。絶対血流悪くなってた。
でも、俺達2人共拘束無しになって自由になった訳だけど、女王様的には良いのか?と視線をやると、彼は余裕顔で薄く笑っていた。
「どうせ解かなきゃいけなかったんだ。手間が省けたよ。」
食い込んだ跡がついて赤くなっている手首をさする俺と、横で彼を睨みつける黒川さんに向かって、女王様はこう言った。
「ここからは僕の指示に従ってもらう。」
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