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85 日常が戻ってきた

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9月の下旬に差し掛かって、夏休みが終わり、俺はまた徐々に元の忙しい日常に戻った。
20歳になった夏は、今迄にない、新鮮で賑やかな夏だったと思う。

大学が始まり、バイトをこなして、猫の世話をして。そんな俺の狭い世界の中で、新たなルーティンに加わったのが三田との時間だ。
と言っても未だそれなりに忙しい俺に、バイトをしてない三田が時間を合わせてくれて成立してる事なんだが。でもそれも、後数ヶ月の事だ。今の店を辞めてしまえば、別にバイトをする予定は無いから今よりずっと時間的余裕が生まれる。まあでも、言ってる間に5月に入って今度は三田が就活で忙しくなるだろうか。



俺とミズキの間は気不味くなるかと思いきや、以外にも普通に友達付き合いが続いている。夏休み明けからはメガネをとっ払い、髪を整えて大学へ来るようになったミズキには、忽ち女生徒が群がるようになった。意外だ。そりゃまあミズキもかなりの美形だが、どちらかと言えば可愛い系だから、何となく女子より男が寄ってくるかと思ってたのに普通に女子に囲まれてアプローチされている。何故だ。"普通"顔の俺には男しか寄って来ないっつーのに。

しかし考えてみたら、確かにミズキは美少女顔だけど俺より少し背が高いし、悲しい事実を言ってしまうと、身長が数センチしか変わらなくても、ミズキの方が頭が小さくて手足が長い。基本的なプロポーションが違うのだ…。背がどっこいどっこいでも、足の長さは違うのだ。そんな体型でオシャレな服を着てくるようになったミズキに、以前のような陰キャヲタクの面影は無い。あのダボッとしたシャツはスタイルを隠す為のものだったのか…。

そんなミズキは今日も、群がってくる女子をフルシカトして俺と学食に来ている訳だが。
今日は三田が実家関連の用事があって三限から来るらしい。何時もは三田がミズキを大人気なく威嚇してちょっとギスギスしてしまうから、久々にミズキと差し向かいの平和な食事風景である。

それにしても三田といいミズキといい、キラキラしくてモテ過ぎる。そんな2人に構われ過ぎている俺は、マジでそろそろ大学内の女性達に敵と看做されそうな気がする。いや、既にか?
三田はまだ取り巻き連中への辺りも柔らかいけど、ミズキは俺に一直線に来て、露骨に周囲を無視するんだよな。何故だミズキ。キャラが変わり過ぎてないか。



「多少見てくれが変わったくらいで態度を変えるような人間にロクな奴は居ないから。」

「や、まあ…そうかもしれないけどさ。」

「あの子達が言う言葉、大体一緒なんだよ。可愛い、カッコ良い、スタイル良い、その服○○だよね、お金持ちなんだね。」

「…あー、それは…。」

カレーうどんを食べながら、苛々を隠そうともしないミズキ。そうだな。露骨だよな。こないだ迄存在すら目に入らないって感じだった癖にって思う気持ちはわかる。

「でも、敢えてあんな態度取る必要も無いだろうに。」

「一度相手すると、隙ありと思われて図々しくなるんだよ、ああいう連中って。変装してみて、再確認した。」

憎々しげに言うミズキは眉を顰めてもやっぱり美少女フェイスだ。

「前は人目が怖かったけど、今は只々迷惑で鬱陶しいだけだよ。」

「仕方ねぇよ。人間、やっぱり綺麗なもんには目を惹かれるもんだろうし。」

宥めるように言うと、ミズキの箸が止まった。

「…ユイ君は、僕の見た目で態度変えたりしなかったじゃん。」

「いや、別に俺は…。」
 
つーか、そんなあからさまに態度変える奴ばかりでもないと思うんだけど、と返答に困っていると、ミズキは言った。

「僕、ああいう女子嫌い。それに、女の子自体が苦手。
…まあ、もしユイ君みたいな子が居たら話は別だけど。」

「…俺みたいな…女?」

脳内で想像してみる。
ぼやっと平坦な顔をした、無表情気味の女?

「……それは、キッツいだろ…。」

「そんな事無い。可愛いしカッコいい。居たらすぐ娶りたい。」

「めと?…お前は時々、不思議な事を言うよね。」

大真面目な顔で言うミズキに呆れながら言うと、ミズキは逆に首を傾げた。

「だって、現にユイ君、モテてるじゃない。ユイ君自身が三田君に決める迄、かなりの競争率だったよね?何で不思議だと思うの?」

「……いや、客にだけな?マニアが集ってるからってだけだな?」

「違うね。ユイ君は魅力的だから。あー、何でユイ君は1人しか居ないんだろうなあ~。実は双子だったりしない?」

「……すまんけど。」

「だよね~。ユイ君みたいな人が2人といる訳ないよね~。あー、三田君良いなあ。」

「……。」

40歳以上ならゴロゴロ居そうだけどな、とアドバイスすると、僕老け専じゃないからと言われた。
その辺は厳しいのかよ…。

「顔だけ似ててもってのもあるけど、僕、絶対抱きたい方だからさ。そんなに上の人だとイニシアチブ譲らないといけなくなりそうだし。」

「…そうなんだ。」

やっぱりミズキもそっちだった。俺の感覚、当たってた。


そんな風に緩く過ごしていた、ある週末。
例の如く出向いたパールパレス2001号室で、俺は思いがけない事を一ノ谷さんから聞かされた。






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