超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

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78 黒川さんリターンズ〜フラグを添えて

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オーナー達との話し合いの後から、何となく仕事に対して気がラクになった。

自分だけで決めて退店に向けて根回しのような事をしていたから、店側の了解が得られた事で罪悪感が薄まったというか…?やっぱり予定を途中で変えてしまった事で、各方面に少なからず影響が出ると思ってたし、営業スタイルはフリーとはいえ、今迄のスタイルでついてきてくれてたお客さん達に、もうそれ無理なんで、と言うのはサービスの質を落とすような気がしてた。でも、違うんだよな。個別にお客さんと話してると、俺が勝手に考え過ぎてたところもあるなと気づいた。案ずるより産むが易しって事だろうか。
只、易くなかった人もいて、黒川さんにはめちゃ泣かれた。でも、何故かその後。
 
『ごめんね。グイグイ迫って迷惑だったよね。
しかも全然他人の男に甘えられるとか、そりゃ嫌だよね。』

と、俺に対する反省の言葉を零したので、どういう心境の変化があったのか気になって聞いてみた。すると、何でも最近、やたらと急接近して来る後輩の新人俳優が居て、距離感に戸惑ってるんだそうだ。

現在ドラマで義理の親子役で新人俳優…という事は、当然男性な訳で…。

『なんかやたらと会うんだよ…。』

ドラマの現場は仕方ないとして、プライベートで親しい俳優仲間との飲み会に現れた時も未だ、仕方ないとして。
ふと、ちょっとした買い物に寄った店、テレビ局のトイレ、オフの日に散歩に出た途中で入った近所のカフェ、更には…。

『このマンションのエレベーターで、昨日会ってさ…。どうやら違う階に住んでるみたいなんだ…。』

『えっ、凄い偶然…。』

『偶然だと思うかい?』

『…いやぁ…。』

窶れた表情の黒川さんに聞かれて、俺は返答に迷った。…まあ、なんというか…。十中八九、そいつストーカーですよね。
しかしそれを口にしてしまうと、黒川さんがまた泣き出す気がして、取り敢えずスプーンに掬ったプリンを黒川さんの口に突っ込む。黒川さんは大人しく口を開けてプリンを咀嚼。
こんな場面を見られたら、俺ら間違いなくそのストーカーに殺されるに違いない。が、ひとつ気になる事が。

『え、でもその人、新人さんなんですよね?このマンション、分譲って言ってませんでしたっけ?』

疑問を口にした俺に、黒川さんは重苦しい表情で頷いた。

『…新人なんだけど、彼、あの歳で既に複数の不動産のオーナーなんだ…。実家が不動産経営してるらしくて…。』

『凄いですね。』

『そう、凄いんだ。…それで、部屋…隣なんだ…。』

それには、流石の俺もヒョッと喉が鳴った。

明らかに黒川さんは、そのストーカー俳優に狙われている。

『でもねえ…おかしくない?彼、未だ18歳なんだよ?何狙いで俺みたいなオッサンに付き纏ってんだろ?父性を求めてるのかと思ったりもしたけど、彼のお父さんは頗るご健在だしさ。』

心底不思議そうに首を傾げる黒川さんに俺も首を傾げながら答える。

『じゃあやっぱり、父性とかではなく恋愛感情ありのアピールなのでは?』

すると、黒川さんはプハッと吹き出して言った。

『いやー、ユイ君冗談キツいよぉ。それは無いって~。だってあの子、18だよ?18。俺とじゃ親子ほど歳が違うんだよ?倍だよ、倍。あはは!』

『……はは。』

その彼と俺、1歳しか違わないんですけど。アナタ、こないだ俺に、『ママ居なくてもユイ君が俺の傍に永久就職してくれたら頑張れる☆』って言ってませんでした?

黒川さんの未来はどうなっちゃうんだろうな…?





数日後、川口マネから見せてもらった予約スケジュールを見てみると、取り敢えず夏休みいっぱいで主要なお客への説明とお礼は済みそうだ。後は数ヶ月に一度のお客達を残すのみ。今の所、退店予定の半年先迄予約は埋まっているから、その日迄はお客さん達との時間を大切に過ごしていこう。
そんな事を考えながら過ごして、盆が過ぎ、今年も俺の誕生日が巡って来ようとしていた。
 
俺の誕生日、8月29日はつまり、三田の誕生日でもある。今年の29日は月曜日。夏休み期間中のシフト増で火~土はバイトで埋まってるけど、日月はそのまま空けたからそれが幸いした。
俺は三田に何かプレゼントを買いに行きたいと考えた。日中なら、子供でもなし、そう危険も無い筈だ。普段だって昼間は通学で出歩いているんだから。
前日の日曜日の昼に一番近い街迄出て、サッと行って帰って来ようと決めた。




「え、明後日行くの?プレゼント買いに?」

金曜日の夜、相変わらず指名で呼んでくれた一ノ谷さんに、『同級生だけど何が欲しいかわかんないんですよね。』と相談したら、『じゃあ明日は外商さんに来てもらおうか?』と恐ろしい提案をされる。
違う。相談してるプレゼントは三田のもので俺のじゃない。だから支払うのは俺だ。百貨店の外商さんなんか呼ばれてバカ高い品物勧められても、支払うのは俺だから。無理だから。

そういったような事を丁寧な言い方で言ってお断りすると、一ノ谷さんはキョトンとして仰った。

「え、ならついでにユイ君の誕生日プレゼントもまた何か買って、纏めて僕が支払えば良くない?」

良くありません。
誕生日プレゼントの支払いを全然関係ない人が払うとか、聞いた事がありません。

これだから金に頓着の無い人は…。






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