超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

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この世の何もかもに恵まれた、一ノ谷さんのような人がこの手の色事に免疫が無いのを意外と思う人は多いだろう。だがしかし。
前にも少し触れたと思うをんだが、この世には程度問題という言葉もある。
過ぎた祝福は、神々し過ぎておいそれとは近づけないものなのだ。
簡単に言うと、セレブも過ぎると近寄り難いって事な。一ノ谷さんが行ってた学校は良家の子弟ばかりが集うとこだったが、一ノ谷家レベルとなると、やはりそうはいなかったらしい。セレブの方々の間にこそセレブなりのカーストがあって、家格からしても一ノ谷家に並ぶ家の出の生徒がいなかったから、格下の方から話しかけるのも憚られるって感じで、(そんな昔の王侯貴族みたいなルール、未だあるの?)結果敬遠。
いやわかるけどさ。下手に話しかけてご機嫌損ねたり、何かあったらその影響が怖いって事だろうな。
でもその結果、一ノ谷さんは中学で男鹿が現れる迄、孤立してた訳だしそれ以降も男鹿以外の友人はできなかった。
勿論、その間も好意を告げられたり交際を申し込むような命知らずはいなかったんだろう。傍にはあの威圧感満載の男鹿もいるし、益々近寄り難くなっていたと思われ。
大学で渡米した時にもSPにがっちりガードされてたっていうし、現在だって俺みたいな男をレンタルで呼んでる始末。つかそんなにもセキュリティがっちがちだったのに、どの辺でアベレー神に傾倒したんだあの人は?
…まあそれは置いといてだ。そんな訳で、俺と違ってあの高スペック振りに目眩しされてるけど、一ノ谷さんだって恋愛免疫はほぼ無い筈なのだ。ナマーカ。

しかし頭の中でそんな失礼な事を考えている俺に、一ノ谷さんは困ったように話してくれる。

「ユイ君に結婚迄申し込んどいて、こんなに気持ちがブレるなんて。申し訳無くて。」

「でも俺は了承してないんだし、そんなに気に病む事じゃ…。」

「自分がこんな気の多い男だった事がショックなんだ…。」

気が多い?って事は…やっぱり。

「あの、もしかして圭人さん、男鹿さんの事…満更でもなかったり?」

窺うように聞くと、一ノ谷さんがピキっと固まる。
そしてみるみる内に、瞳に膜が張った。

「ぼ、僕は…。」

「あー、すいませんすいません、責めてるんじゃないんです。全然そういうんじゃなくて。」

俺は泣き出しそうな一ノ谷さんに違う違うと胸の前で手を振るジェスチャーをして笑った。

「あの、もう流れ的に言っちゃいますけど、俺も好きな人が出来たんです。友人で、ずっと好きって言われてたのを拒否ってたんですけど…最近色々あって。」

「えっ?友人、を?」

キョトンとする一ノ谷さん。

「はい、同じ歳の。」

「あ…そう。そうなんだね…。」

一ノ谷さんは呆けたように俺の顔を見つめた。…もしかして言うの早かったかなー?
俺がしくじったかと迷っていると、一ノ谷さんはぽつりと言った。

「そうか。そうなんだね。」

そして自分の胸に手をあてる仕草を何度もして、首を傾げた。

「…変だな。ユイ君にそんな相手が居る事がショックと言えばショックなんだけど…思っていた程辛くはないんだ。」

「でしょうね。」

それは俺も前からわかってた。一ノ谷さんの俺に対する感情は、恋愛じゃない。可愛いとか、好きだとか、それは嘘じゃないんだろうとはわかるんだけど、恋じゃないんだ。三田から感じるような、全身が焦がされてしまいそうな激しい熱量を、俺は一ノ谷さんから感じた事が無い。
一ノ谷さんは、ただただ俺を甘やかす、可愛がる、優しく庇護する…大切にはされてるけど、愛玩動物に与えるような慈愛だけを俺に注ぐ。
決して嫌じゃなかった。寧ろ心地よかった。でも、俺は人間の男だから。
一ノ谷さんが望むようには生きてあげられないと思った。
一ノ谷さんには、俺じゃ駄目だ。俺とでは、一ノ谷さんが満たされる恋愛はきっとできない。。一ノ谷さんの愛情は、俺を王子さまという名のペットか、よくわからない神様にしてしまう。そして多分一ノ谷さん自身も無意識にそれがわかってるから、俺に好きな誰かが居ると知っても少しのショックしか受けてないんだ。
それで気づいてくれたら良い。
そんな不毛な関係より、この人はもっと激しく愛されて良い人だと思うから。

俺は続けて話した。

「だから圭人さんが俺に罪悪感を感じる必要は無いんです。」

「…うん。」

「もし男鹿さんの告白に心が揺れたなら、その気持ちをそのまま伝えてみたらどうでしょう。」

「…そのまま…?」

考え込むように顎に手をあてる一ノ谷さん。
ついでだ。今、言ってしまおう。

「俺、友人を好きになっちゃったって気づいた時、自分の仕事の事を伝えました。彼に呆れられてしまえば、彼が俺から離れて強制的にこの恋が終われると思いました。仕事、辞めたくなかったんです。でも彼は、俺の仕事を知っても待ちたいって言ってくれたんです。
お客さんに嫉妬するだろうに、それを我慢して待つって言ってくれたんです。
だから俺、来年の3月でこの仕事上がります。
彼に辛い思いをさせたくないと思ってるんです。
今日はそのお話もしようと思って…来ました。」


全部、一気に言ってしまった。


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