超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

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立っている三田を、ミズキがぽかんと見上げている。

「…ゆっくん、って?」

不思議顔のミズキ。

「あ、いやえっと…。」

説明しようとする俺。

「ゆっくん、俺も一緒に食べたい。座って良いだろ。」

空気を読めないのかわざとなのか、笑顔満開の三田。

「えっ。いや、でも今はさ…。」

俺は向かいに座るミズキを見るが、やや三田を怖がっている節があるミズキが俺に助け舟を出せる訳も無く。

「あ、僕なら全然…。」

「あ、そう?ありがとう。じゃあ。ゆっくん、前ごめんね。」

三田は俺の横に座って、テーブルの端のメニュースタンドに手を伸ばした。

「俺、此処来るの久々~。ゆっくん何頼んだの?」

目を輝かせながら俺の顔を覗き込んでくる三田。
ヴッ…可愛いな、お前…大型犬かよ。

「俺は…何だっけ?」

「えっ…ユイ君はカルボナーラ頼んでなかったかな…。」

「あ、そうそれ。カルボナーラ。」

一応言っておくけど、突然の三田の出現にびっくりして思考も記憶力も一時的に吹っ飛んだだけで決して若年性なんちゃらじゃない。

「パスタかあ。じゃあ、俺はぁ~…。」

「「…。」」

本気でメニューと睨み合いを始める三田。そんなに悩む?

「……パスタ…いや、カツサンド?それともチキンライス…う~ん。」

「「……。」」

悩む三田、見守る俺とミズキ。まあ、わかる。そういう時もあるよな。全部美味そうに見えるっていう…。

「よし、決めた。」

意を決した表情の三田が呼び出しベルを押すと、女性店員がお待たせしましたーとオーダーを取りに来た。

「シュリンプサラダとアイスコーヒー。」

「嘘だろお前。」

俺は突っ込み、ミズキは絶句した。






「いや、昨日あんまり食べられなくてさ。今朝もゼリーしか飲んでないから突然重いの入れたら胃がびっくりしちゃうかなって。」

何時も大学で振りまいている爽やかな笑顔で言う三田に、思わず顔を凝視してしまう俺。
昨夜も疲れた顔をしていたけど、今日も目の下には隈がある。
一昨日から寝られてないんだろうか。昨日も結局、俺ははっきりした事を言ってないから、三田からすれば曖昧なまま終わったようなもんだし…。十中八九、俺のせいだよなあ…。
ミズキはミズキで俺と三田の距離感に動揺しているらしいのが顔に出てるし、幼馴染みって事は話した筈だけど、そっから何処迄話したら良いものか…。

「…三田君、幼馴染みだったんだってね。」

驚いちゃった、とやや引き攣った笑顔で三田に言うミズキは、見た目によらずチャレンジャーだ。俺もつられて曖昧に笑っていると、三田はそれに唇を片方上げて答えた。

「うん、そう。俺とゆっくんは幼稚園で運命の出会いを果たしてるんだよ。」

「え…。」

三田の口から飛び出したとんでも発言に笑顔のまま固まるミズキ。ですよね。そうなりますよね。

「こら、三田…。」

「だって、ホントの事じゃん。…言っちゃ駄目なの?」

ちょっと拗ねたように言う三田に、ぐっと言葉が詰まる。すっかり三田に弱くなってしまった自分を自覚。
それでも運命は大袈裟過ぎるだろ。
でもな~、と考え込む俺。

(いっそ、言っちまうか…?)

さっき話した中で言った、不安にさせたくない人という表現。爆速で距離の縮んだ俺と三田。ここ最近の出来事。
勘の良いミズキの事だから、この場で誤魔化しても何れ全てを繋ぎ合わせて、気づきそうだと思った。

「あのさ、ミズキ。三田の言い方はともかく、俺…此奴の事が好きで。」

「…へ?」

前髪の隙間から見えていた、メガネの奥の瞳が丸くなる。

「まあ、だから…そういう事、なんだ。」

「え、じゃあ…三田君の為に辞めるって、そういう事?」

ミズキの言葉に、三田はバッと俺を見た。
三田とミズキの、信じられないと言いたげな顔。まあな。俺も未だに自分で自分が信じられないし、あれだけ三田を邪険にしてた俺をリアルタイムで見てたミズキからすれば、そりゃそうなるよな。

でも三田の為ってのは訂正したい。

「三田の為に、じゃない。俺が俺自身の都合でそうするって決めただけ。」

「ゆっくん…。」

「ユイ君の都合?どうして…。」

俺はすうっと息を吸って、口を開いた。

「三田は待てるって言ったんだ、俺が卒業する迄、店で仕事を続ける事。でも俺の方がそれに耐えられないと思った。」

訝しげに首を傾げるミズキ。ついでに三田も…。
シンクロすんな。

「つまりさ。俺らの仕事って、ちょっと特殊だろ?」

「まあ、そうだね。」

頷くミズキ。え、と今度はミズキを見る三田。あれ?ミズキがキャストなの、知ってたんじゃなかったっけ?…知らなかったかも。
取り敢えず話を続ける俺。

「俺が俺に好意を持ってるお客さん達と会ってる間、此奴はそういうの想像しながら耐えるって事で、それを考えたら俺の方がいたたまれないなって。」

聞いていたミズキは何故か無表情になった。

「…そう、なんだ。三田君の為にそこ迄考えたんだ…。」

「だから三田が何か言った訳じゃなくて、全部俺の都合。」

そう言った俺に、暫く黙った後、ミズキは言った。

「それ、君に告白した僕に言えちゃうんだね…ちょっと残酷。
ホントに全然意識されてなかったんだな、僕。」

あ、あれ…。
やっぱりあれってそういう意味だったの?










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