超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q.➽

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62 立場が違えば見方は違う

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まあ、確かに?
成長して、ぺドフェリアやコレクターのような下衆な犯罪者の皆様にとっては価値が失われたとしても、『"普通"の若い男』、ってだけでも好事家の愛好家は結構いらっしゃる訳で。だからこそウチみたいなレンタルクラブなんて商売が成り立っている。俺がそんな商売の存在を知って、自分の容姿を利用して売り物にしてるのは事実だから、男鹿の言う事もわからなくもない。
実際、同じように思う人は結構居るんじゃないかと思うしな。
店の正規料金が高く、バックもそれなり。加えてナンバーが付いてる俺のバック率は7割、プラス指名料って感じだから他のキャストよりも高額の給料をもらっている。こんな何の取り柄も無い珍獣がそんな給料もらってるなんて知られたら、内情知らない連中からはズルいと思われても仕方ないとは思う。
でも、俺達をズルいと言う連中は、皆と同じように生まれつき美形な容姿を持ってて、自分だけ異質だって目で見られたり、遠巻きにされたりなんかしなかったんだろ?小さい頃から友達同士だけでも学校から帰れたんだろ?そりゃ、綺麗な子供達を好む犯罪者だっているだろうから危険が全くないとは思わないが、一瞬でも気を抜くと人生が変わる俺達とは、その度合いが違うんじゃないかと思うんだ。

そんな危険と隣り合わせだった子供時代を生き抜いたんだから、成長した今、リスクでしかなかったそんな部分を多少武器にするくらい許されるだろって思ってる。…ま、俺達の場合、若い間は何処かで需要はあるらしいから、相変わらず危険と隣り合わせなのは変わらないし、少しくらいメリット無いとやってられないってのが正直な気持ちだ。



「まあ、はい。本心みたいですから、謝罪は受け入れます。」

別に男鹿とやり合う気は無いのでそう言うと、すまなかった、ともう一度謝罪された。何だ、意外と殊勝だな。話せば案外わかる人間なのかもしれない。まあ、腐ってもあの一ノ谷さんの友人だってんだから、根が悪いとは思わない。ただ、やっぱ好んで馴れ合いたいとは思わない。

「で、さっきの話に戻りますけど。」

「ん?」

「一ノ谷さんが俺を気に入ったのは、そういう孤立して寂しかった自分と俺の境遇を重ねたからだと思うんですよ。あの人確かに平凡フェチだしちょっと変態じみてるくらい"普通"の俺に傾倒してますから、実際ホントに好いてくれてはいるんでしょうけど…。」

「変態じみてんのかよ。」

「…まあまあな感じです。」

「まあまあなのか…。」

平坦顔の俺をアベレー神なんて呼んで神様ごっこをしたり王子様と騎士ごっこをしているくらいの変態な訳だが、それは一ノ谷さんの名誉を守る為に口にはしない。そもそもお客とが買った時間はお客のものだから、俺達が勝手に第三者に口外して良いもんじゃないんだけどな。

俺は言葉を続けた。

「あの人が俺に拘るのは、同じ寂しさを知ってそうな俺なら自分に寄り添って支えてくれると思ってるからかなと。まあ、依存みたいなものじゃないですかね?」

「寄り添って、支える…。」

「俺達の仕事って、そんな感じなので。」

それで気に入って大事にしてもらえてるのは嬉しいし一ノ谷さんの事は好きだけど、正直仕事でしてる事だし、一般庶民の俺に財閥御曹司の一ノ谷さんの一生を支える役目は重過ぎる。


「一ノ谷さんには、一ノ谷さんだけを見て、一ノ谷さんの事だけを最優先に考えて支えてくれるような人が必要だと思います。でも、それは俺には荷が重い。」

「何故だ?」

「俺、将来したい事があるんですよ。その為に今、こうして荒稼ぎしてるんです。でも、それを始めたらそっちに気も手も取られる事になるのが目に見えてるんですよ。」

保護猫達に愛情が分散して、世話に体力や気力を削がれて、そういう状況になっても多分、一ノ谷さんなら俺の好きにさせてくれるんだろう。でも、それって一ノ谷さんを優先できない俺が、一ノ谷さんを孤独にするって事だ。結婚なんてしても名ばかりで、一ノ谷さんは寂しいままだって事だ。
勝手かもしれないけど、俺は一ノ谷さんの隣には、あの人だけを見て愛して支えられる人に居て欲しいと思う。優しくて綺麗で寂しいあの人は、暑苦しいくらいに愛される方が似合うと思う。
そのどれもが、俺には出来ない事だから、あの人には俺じゃ無理なんだ。

目の前の席で、男鹿は腕を組んで何かを考えているようだった。

「好きならグイグイ行かないとわからないと思いますよ。ちょっと天然でしょ、あの人。」

俺が言うと、男鹿は溜息を吐きながら、

「そうなんだよな。」

と困ったように、でも少し笑いながら言った。

「昔から全然変わらない。純粋で、ちょっと鈍くて、可愛い。」

鋭いとばかり思っていた目が優しげに細まると、始めて見る柔らかい表情が生まれた。そうか。男鹿は一ノ谷さんの事をそう思っているのか。俺にとっては大人でカッコ良いばかりの一ノ谷さんが、男鹿にとっては可愛く見えているのか…。まあ、男鹿、デカいもんな、と納得する俺。
きっと、一ノ谷さんと2人の時にはこういう穏やかな顔で話してるんだろうな。
男鹿のフレンチレストランで話している時は何時もすました顔で敬語だったけど、アレは営業中の対客としての接客なのかもしれない。

俺は、考えた。

この男はきっと、あの穏やかな優しい人を守りたいんだ。だから彼が利用されているんじゃないかと俺に攻撃的な目や言葉を向けて来てたんだ。そんな風にして、ずっと守って来たのかも。

思い返してみれば全ては単純に点と点が繋がる事で、やっぱりなとストンと腑に落ちた。



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