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53 三田、箕田家へのパスを手にする
しおりを挟む「はい、たくさん揚げたからたくさん食べてね~。」
「わ、ありがとうございます!いただきま~す!」
「…え、どうしたの?何時も人数分ギリしか作らないのに…。」
「だってウチの男共、作り甲斐無いじゃない。
お義父さんも慎一さんも、唯一若くて食べ盛りな筈のアンタも食細いし。
でも今日は彩貴君居るし、よく食べてくれそうだから張り切っちゃった。」
「ありがとうございます…わ、美味…。」
「…さーせん。」
夜7時過ぎ、母さんに呼ばれて下に下りた。人数が増えたせいか、何時ものダイニングテーブルじゃなくてリビングのローテーブルに食事が並べられていていて、それを皆で囲んでいる。で、現在。母さん、三田、俺、母さん、三田、俺、の順で話している。
父さんは母さんにイエスマンなので、ただ頷いてるだけだし、祖父ちゃんは膝に乗ってきたリンの背を撫でながら黙々と箸を動かしている。
「彩貴君、毎日食事どうしてるの?」
母さんの問いに、三田が答えた。
「あ、週に何度かハウスキーパーさん来てくれてて、纏めて作り置きしてってくれるんで、それをあっためて食べてます。」
「そうなの。プロの方の料理なら美味しいわよね。」
「うーん…まあ、美味いっちゃ美味いんですけど…。」
「どうしたの?」
三田は苦笑して一旦箸を止め、一呼吸置いてから続けた。
「俺が帰って見る頃には、全部冷蔵か冷凍に入ってるんで、それをレンジであっためるんです。だから熱々はともかく、揚げたての食感は再現出来ないと言うか…。」
「あ、なるほどねえ。」
揚げたてを食べる時は外食で、って事だな。
俺はチキンカツを咀嚼しながら頷いた。わかる。やっぱこのサクサク感やジューシーさはレンチンではなかなかね…。
「それに、こういう…家庭の味って感じの食事って、あんまりないから嬉しいです。」
急にしんみり言う三田に、母さんが反応。
「…紗英さん、お元気?」
「元気と言えば元気です、昔よりは。でもムラがありましたね。具合いが良い時は掃除とか洗濯は出来るんですけど、料理は一切駄目みたいです。トラウマが強いみたいで。」
「そう…。」
「…。」
当時の状況をある程度聞いていたからか、言葉少なになる母さん。
なるほど。つまり、三田のお母さんは嫁姑問題から距離を取って、更にはそれが消えても尚、尾を引く後遺症に苦しんでたって事かな。しかし、料理一切出来なくなるようなトラウマって。一体三田の祖母さんにどんな事されてたのか気になるな。
「紗英さん、あんなに料理上手だったのに、勿体ないわねえ。」
「包丁も火も、何か熱いのも怖いみたいで。」
いや、マジで三田の祖母さん、三田のお母さんに何してたんだよ。怖いな…。
ぶっちゃけ、嫁姑問題ってどんな事で揉めてんのかよくわからない。ウチは小学校低学年の内に祖母ちゃん亡くなったけど、生きてる内もおっとりした祖母ちゃんだったし、母さんと喧嘩してるのなんて見た記憶は無い。第一、気の強くて口の立つ母さんをいびれる人は…あんまり居ないだろう。
それにしても、引っ越した後も三田んちはなかなか苦労したようだ。
「これからは時々ご飯食べにいらっしゃいよ。毎週日曜なら唯斗も休みだし。」
「はい、ありがとうございます、是非。」
うかっとしてたら母さんが勝手に三田を日曜の晩飯に誘い始めた。嘘だろ、恒例化すんの?思わず三田を見る。
「えへ。誘ってもらっちゃった。おばさん相変わらず優しいし綺麗だね。」
俺に向かって喋ってるのに、言葉は抜け目なく母さんへのおべっか。こやつ、やりおる。自在に人を誑すな、お前。
「ははっ…。まあ、暇なら食いに来たら良いじゃん…。」
「やった~!」
この家のヒエラルキートップの母さんの言う事に意を唱える者は無く、どうやら三田はこれからウチに出入りする事になりそうだった。
「ごめんね、迷惑だった?」
食事を終えて部屋に上がると、三田が遠慮がちにそう聞いてきた。
「え?」
「食事、ご馳走になって。誘ってもらったのも、真に受けて図々しかったかな。」
しゅん、と耳が垂れたような様子で眉を下げる三田は、本当に申し訳なさそうだった。どうやら気にしていたらしい。
「そんな事無いよ。母さんは嫌な事は絶対自分から口にしない人だから、来たけりゃ遠慮しなくて良い。」
「ほんと?」
「ほんと。それに…、」
寡黙な祖父ちゃんが、何故か嬉しそうだったんだよなあ、とさっきの食事中の様子を思い出す。
思えば祖父ちゃんも、あの頃の三田を毎日見てたんだろうな。それで気にかけてたんだろう。大学に進学してこっちに戻ってきて駅迄の道を歩いていた三田に、祖父ちゃんは直ぐに気づいたらしいから。
こんなにデカくなって、あの頃の面影なんか何処に残ってるのかわからないような三田を見て。凄い観察眼だな。流石、元警察官。
父さんは、単に俺の幼馴染みだという認識だけど、俺に友達が出来た事を純粋に喜んでるみたいで終始ニコニコしていた。
でもね、父さん。
彼は俺を友達じゃなく恋人に望んでるみたいなんですけど…とは、言えない。
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